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2002年の真冬だったから今から20年近く前のことだが、出会い系サイトのサクラをしていたことを告白する。
もちろんサクラだと最初から分かっていたわけではなく、「データ入力業務」という新聞の求人欄を真に受けて応募したのだ。
そうと分かったのは面接の時。
私の面接を担当したのは金髪にピアスだがビール腹の、滑稽なほど若者っぽい恰好をした明らかに40代中盤のおっさん。
いきなりうさんくさかったが、そのおっさんの話す内容はそれを上回っていた。
初っ端から業務は各出会い系サイトからの委託であることを淡々と語り始めたのだ。
おっさんによると、出会い系サイトを利用するのはほとんどが男で、
女の利用者の割合は男 16 に対してたった 1!
そんなんじゃあ男の利用者の多くがナシのつぶてになるから、誰も利用しなくなる。
だから女の利用者のふりをしてやり取りをする、つまり業務はサクラであるとあっけらかんと言い放った。
それって違法じゃないの?
詐欺じゃないのかよ。
などと思いつつも、無職でプラプラしていた時期だったし、さほど悪いことをするわけではないとも思ったので採用される運びとなった。
シャイなスケベ退治開始
いざ出勤してみた仕事場だが、パソコンがずらりと並び、その前でサクラたちが出会いを求める男たちをさばいていた。
そして、
そのサクラの七割近くが男で、気のある女のふりをして相手に思わせぶりな返信していたのだった。
出会い系サイトはご存じのとおり、メールを送信すればするほど男性利用者は課金されててゆく。
だからできるだけじらし、会話を長引かせるのが肝要である。
面接の時から気づいていたが、完全に詐欺である。
出会いを求める者をだましている以外の何者でもなく、採用されてからこんなことを言うのは今更だったが、
実際にやろうとすると後ろめたさを感じた。
しかし、その罪悪感はすぐに消滅した。
なぜなら女を装って出会い系を利用する男たちの相手をしてみて、女日照りの男たちのあさましくゲスい下心と獣心をそこはかとなく感じたからだ。
そして次第に彼ら醜悪なナルシスト、身勝手な夢を見る童貞、シャイな変態たちの
ザーメン臭い純情に鉄槌を下すことに使命感すら感じるようになっていった。
寂しい男たちの正体
まず利用者のうち何人かのハンドルネームなんだが、
以下のハンドルネームを名乗って出会いを求めようとする者の神経が理解できない。
- 浣腸汚染
- 寂しがり屋の変質者
- 俺の股間は二十ミリ機関砲
- 肛門指挿入抜き挿し魔
- レイプ術黒帯
- 童貞地獄
女に相手してもらう気あるのか?
これを見て返信する気になる女が世の中にいると思っているのか?
何をされるか激しく不安になる名前であるから、間違っても会いたくはない。
犯罪構成要素を満たし、逮捕状が請求できそうなくらい圧巻のお下劣ネームである。
だが、こういうモテないあまりに脳と下半身をメルトダウンさせている変態相手こそ我々男性サクラの出番だ。
気持ちが多少わかる分相手にしやすく(「多少」だ。あくまでも)、実際に会うわけでもないので勇んでアプローチをかける。
まず『俺の股間は二十ミリ機関砲』だが、
パソコンから「まりん」という仮名の二十代の女を装い「二十ミリってどういうこと???」と興味あるそぶりを見せてメールを送ったところ瞬時に返信があり、
案の定自分のイチモツに自信があるみたいで「味わわせてやるから会いに来い」とのことで思い上がりも甚だしい。
むろんこいつの自慢の息子の規格と性能など知ったこっちゃないし、会う気もない。
こちらはパケット代を使わせるために会話を長引かせるのが仕事だから、わざとらしくチャットを開始した。
サクラのバイトを仕切る社員のアドバイスどおり、女性らしく絵文字や顔文字を含めることも忘れない。
「太さ二十ミリ( ゚Д゚)じゃあ長さは(・・?」
「確かめに来な」
「身長、体重は(。´・ω・)?」
「160センチ、80キロくらい」
股間が重武装でも、体が残念だな。
一点豪華主義らしい。
あと顔は芸能人で言ったら「浜崎あゆみ」に似ているらしく、いったいどんな姿の生物なんだ、こいつは?
「こっちはパケット代がかかるんだ。会うのか会わねえのかどっちだ?」
これからじっくり会話を長引かせようとしてたら、いらだって結論を迫ってきた。
ケツの穴とキンタマは小さいようだ。
こちらは女を装っているうちに心も女性化し始めたらしく、
自分の懐具合をチマチマ心配する男は、女からどう見えるかも何となくわかる気がしてした。
そのセコさとせっかちさに虫酸が走る。
もちろんさっきからの尊大な言葉遣いも。
『俺の股間は二十ミリ機関砲』はS県北部在住らしく、「T線のS手駅で今晩待っているから来てくれ」と一方的に要求してきた。
それだけでもかなり身勝手さを感じるのに、ずうずうしくも「俺は車を持ってないから、必ず車で来てくれよ」と付け加えやがった。
その付け加えた文面を見た瞬間、私の心の中で義憤のサディズムの炎がめらめらと燃え上がるのを感じた。
だます相手がこういう奴で本当によかった。
勤労意欲がわいてきたじゃないか。
「オッケー☆⌒d(´∀`)ゼッタイ車で行くね☆👌」と約束してやったが、
「仕事終わってから行くから、夜12時に待っててね(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
と敢えてバスも電車もなくなっているであろう時間帯を指定した。
『俺の股間は二十ミリ機関砲』は「遅すぎる、もっと早く来てくれ」だの「電車がなくなっちまうだろ」だの言ってきたが、
「じゃあ行かない😝」とかごねてやったりしたらしぶしぶ了承した。
これら一連のやり取りでも少なからぬパケット代が自分の懐から消えたことに奴は気づいているのだろうか。
そして最後まで「マックスにデカくして待っててやるぜ」と自信満々で偉そうだったから、サカリのついた男ってのはどうしようもない。
ざまあーみろ。
この真冬の深夜待ちぼうけ食らって、むなしくデカくしてやがれ。
私の中で眠っていた悪魔的正義感が早くも覚醒したバイト初日となった。
つづく
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