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私は頭が少々薄くなっている。
それは今に始まったことではなく、十年以上前から始まったことだ。
前髪はさほど後退していないが、頭頂部が薄くなる、いわゆる O字タイプと呼ばれるハゲに属する。
フランシスコ・ザビエルの髪型に近くなるハゲ方と言えば、イメージしやすいだろう。
私もそれは十分自覚していたし、そこそこ気にはしていた。
だが、いるのである。
わざわざ面と向かって「あ、薄い」とか指摘してくるばか野郎が!
分かっているって言っているだろう?気にしていないわけがないだろうが!
こういう輩は「本当のこと」なら、何でも言っていいと思っているのだろうか?
だからと言って、ハゲは進行しこそすれ、回復させることはほぼ不可能であることくらいわかっているから、育毛剤などを使うような無駄な努力はしない。
また、無事な前髪や後ろの髪などを総動員して、ごまかそうとするようなマネもしたくない。
余計目立つからな。
よって、私の髪型は脱毛が目立ってきた十年前から丸坊主である。
もともと髪型にこだわる方ではなかったし、寝癖が立たないとかいろいろ便利だし。
坊主にしたら、頭が薄いことをわざわざ指摘してくるバカ者はいなくなるだろう、
と思ってた。
だが、まさか言ってくる奴が出てくるとは思わなかった。
しかも床屋が!
私を差別する女主人
私が散髪によく行っていた床屋は家のすぐ近所の床屋『K&Kカットクラブ(仮名)』だ。
シャンプーも顔そりもなく、カット代だけで 1200円 くらいの格安床屋である。
坊主にするだけなんだから、4000円 とか 5000円 とか払いたくないではないか。
その『K&Kカットクラブ』は、30歳前後の小太りの女性が切り盛りする小規模な店で、散髪をやっているのはいつもその女。
だがその女店主、いつも不愛想でぶっきらぼうであった。
初めてそこを利用してから、五、六年行っていたのに、いつもそんな感じだったのである。
散髪はそこしか利用していなかったのだから、私はお得意様以外の何者でもないはずだ。
もうちょっと愛想よくしてくれても良いではないか、などと考えていた私は、わがまますぎだろうか?
素が不愛想で、誰に対してもそうなのなら仕方がない。
しかし他の客に対しては明らかに態度が違うのだ!
ある子どもの客に対しては、
「野崎くん、今日はどうするの?」「あ、こことここ切ればいいの?うん分かった。いつもお利口さんだねー」
という感じである。
子ども相手なら仕方がないが、私の前に散髪してもらっていたある初老の客の場合などは、
「へー櫛田さん凄いですね!」
「いやいや、そんなたいしたことないよ」
「十分すごいですよ。初心者なのに大会 4位って!」
などと、その初老の客の髪をチョキチョキしながらお愛想を言い、帰り際も「いつもありがとうございます」と、終始笑顔で接していた。
そして、私の番になると途端に顔つきも声色も変わって、「ハイ次」とつっけんどんな態度になるんだから、対応を変えているのは明確である。
もしかして、普段話しかけない私が悪い?
私は必要以上のことを話さないから、そういう交流が嫌いな人間なのだと思われているのかもしれない。
だからある日、私の方から話しかけてみたら、
「いやーすぐ伸びてくるから、一か月に一回は散髪に来なきゃいけないよ」
「じゃ、長く伸ばせばいいじゃないですか」
てな具合で瞬時に会話が終了した!
「長く伸ばせばいいじゃないですか」って、床屋がフツ―言うか?そんなこと?
そして、再び無言のまま散髪をやっている最中に他の客が来ると、
「あ、小川さんいらっしゃい!今日は早いですね」
と一転して愛想よく私などそっちのけだったから、
私がこういう交流を嫌う人間と考えて、気を遣っているのではなく、私との交流を嫌っているのだと悟った。
「じゃあ、そんな不愛想なところに行かなきゃいいじゃないか」と思われるかもしれないが、あいにく家の半径 1キロ圏内に格安床屋はなく、そんな思いをしたとしても、バカ高い散髪代を払うよりましだと、『K&Kカットクラブ』に通い続けることになった。
だが、それにも限度が来る日がやってくる。
床屋が客に絶対言ってはいけないヒトコト
その日、私は性懲りもなく『K&Kカットクラブ』へ散髪に行った。
このころには、女店主に対してもう別に他の客と同じような対応は期待しないし、散髪さえきちんとやってくれればよい、と割り切っていた。
どうせ喋っていても、あんまり楽しい奴でもなさそうだし。
「3 ミリ」
私の方も多少ぶっきらぼうに髪を刈る長さを伝え、女店主もいつもどおり、バリカンの設定をしてから無言で私の頭髪を刈り始めた。
だがいつもと違ったのは、この日は散髪をしている途中で私に話しかけてきたことだ。
相変わらず、愛想は悪く事務的な感じではあったが。
「お客さん、前から思っていたんですけど」
「はい?」
向こうから、必要なこと以外を話しかけてくるのは初めてだったが、
よりによって、以下のようなことを言ってくるとは思わなかった。
「髪の毛薄いですね」
「はい?!」
それを聞いて最初、今私がいるのは床屋で、それを言っているのも床屋であることが信じられなかった。
だがその後もグサグサくる事実をズバズバ指摘してきた。
「頭頂部が特に薄いから目立ちますね」
「…じゃあさ、目立たないようにカットしてよ…」
「無理ですね。スキンヘッドにしたらどうです?自分でもできますよ」
いつもぶっきらぼうで口数が少ないのに、この時だけは妙にハキハキしていた。
「あのさ…、フツー言う?そういうこと面と向かって?」
「ホントのこと言っただけです」
ふざけるな!
「ホントのこと」だからって、言っていいことと悪いことがあるだろう!?
重ね重ね床屋として、あるまじき言葉じゃないか!
歯医者に「口が臭い」と言われた気分である。
眼医者に「目つきが気に食わない」と言われたらどう思う!?
しかも普段話しかけても塩対応しかしないくせに、こういうムカつくことだけズバズバ言うんじゃない!!
もうウチに来なくていい、と言っているに等しい破壊力を有した暴言である。
私は終生『K&Kカットクラブ』に行かないことを決意した。
幸いなことに、ほどなくして同価格の格安床屋が近所に開業。
私は、そこに散髪に行くようになった。
そこは理容師が複数いるし、不愛想が目に付くような者もおらず、『K&Kカットクラブ』のような不愉快に見舞われたことはない。今のところは。
しかし、そうなってから、もう四年ほどになるが、あれだけ私を不愉快にした『K&Kカットクラブ』が、いまだに健在であることには納得がいかない。
「悪は不滅」というこの世の不条理が、私の近所では体現されているのだ。
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