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列島を凍り付かせた未成年たちの凶行2~ 1988年・名古屋アベック殺人事件~第二話

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第一話 事件の始まり

第二話 大高緑地公園事件

噴水族

1988年2月23日早朝、名古屋市中区栄のセントラルパークに、小島茂夫(19歳)、徳丸信久(17歳)、高志健一(20歳)、近藤浩之(19歳)、龍造寺リエ(17歳)、筒井良枝(17歳)の 6人が集まり談笑していた。

6人とも、いかにも暴走族風の見かけをし、シンナーの入った袋を持って吸引している者もいる。

「あいつらも、車もボコボコにしたった。あんなとこで、いちゃくでやわ」

「へへへ!あそこまで女の前でやられたら、男終わりだで」

「あの女、輪姦したりゃよかったな。他の車来たでかんわ」

「うわ!トレーナーに血ぃついとるが!こんなん着て歩けんが!!」

スポーツの試合の後の選手たちのように誇らしげに語っているのは、先ほどやったカツアゲの自慢話だ。

そう、こいつらは、先ほど金城ふ頭でカップルを襲った張本人たち。

1988年当時、ここセントラルパークに集っては、シンナー吸引にふけっていた通称「噴水族」と呼ばれた不良少年たちのかたわれである。

しかし、彼らは中途半端なワルではない。

小島と徳丸は現在こそ鳶の仕事をしているが、元々は山口組弘道会傘下の薗田組の組員であり、唯一成人の高志は現役の同組組員、近藤は同じ弘道会傘下の高山組の組員で、女の龍造寺もヤクザの情婦だし、小島の彼女である筒井も暴力団事務所に出入りしていた。

そんな彼らが金城ふ頭に向かうきっかけとなったのは、昨晩いつものようにシンナーを吸いにセントラルパークに集ったところ、小島が「今からバッカン行くでよ」と言い出したことからだ。

「バッカン」とは彼らの間だけで通用する言葉で、カップルを狙って恐喝するカップル狩りを意味する。

デートスポットである金城ふ頭での「バッカン」は彼らが始めたことではなく、他の「噴水族」の不良も以前からやっており、前年の9月には、複数のカップルを恐喝していた不良少年のグループが検挙されていた。

小島たちの中には、このグループの人間と付き合いのあった者がおり、「バッカン」の手口をよく知っていたのだ。

実際にやるのは今回が初めてだったからか、最初に襲ったパルサーには警察署に逃げ込まれて失敗したが、二回目のカムリは捕まえることに成功。

昨年捕まったグループより危険であることを自認する彼らは、一回目の失敗のうっぷんを晴らすように張り切って、男も女も車もボコボコにしてしまった。

こうして奪った現金は86000円、他にも龍造寺と筒井が女から腕時計とトレーナーを奪っている。

一回のカツアゲとしては大戦果と言えるが、小島はまだ満足していなかった。

もう早朝なのに、あと二回くらいやろうと言い出している。

彼らの中には分け前をもらって帰りたがっている者もいたが、6人で割ったら大した金にならないからだ。

「金城ふ頭、また行くでよ。さっきみたいにやりゃええて」

「金城ふ頭はかんて。最初にやったった奴が通報しとるかもしれんて。」

「ほんなら大高緑地は?あそこなら、カップルおるんと違う?」

「おお、ええな。大高緑地行こまい!」

大高緑地公園も金城ふ頭同様、週末にはカップルの車が押し寄せるデートスポットとなっていたのだ。

こうして次の狩場は決まり、一行は二台の車に分乗して十数キロ先にある名古屋市緑区の大高緑地公園に向かう。

そのころ、大高緑地公園第一駐車場に一台のトヨタ・チェイサーが入ってきて駐車していた。

中に乗っていたのは野村昭善(19歳)と末松須弥代(20歳)。

付き合い始めてぼちぼち経った何回目かのデートを楽しむ彼らは、数十分後に自分たちを襲う悲劇的な運命を、まだ知らなかった。

獲物をロックオンした野獣たち

1988年2月23日未明、名古屋市緑区にある大高緑地公園の公園入口ロータリーに小島の運転するグロリアと、近藤の運転するクラウンが到着。

車を降りた6人は、獲物となるカップルを探索するために暗闇の公園内に入ってゆく。

公園の第一駐車場は平日の早朝とあってがらんとしていたが、一台の白い車が停まっているのが確認できた。

トヨタ・チェイサーだ。

まずは近藤が立ちションを装って偵察に向かうと、チェイサーにはエンジンがかかっており、中にカップルとみられる男女が乗っているのが視認できた。

「よっしゃ、よっしゃ!おったぞ!おったぞ!あそこのチェイサーに乗っとる奴だで」

小島たちが潜む所に戻って来た近藤は、喜色満面で報告。

「こんなド平日のこんな時間までいちゃついとる奴は、お仕置きせなかんて!ほんならやったろか!」

もうすでに三回目なので手慣れたもので、6人は手はずどおり車のナンバーに段ボールを貼り付けたりの準備を手際よく行い、トランクから木刀などの得物を取り出して車に乗り込んだ。

野獣たちにロックオンされたチェイサーの中にいたのは、野村昭善(19歳)と末松須弥代(20歳)。

二人とも、愛知県大府市内にある同じ理容店で働く理容師カップルである。

昭善は床屋を営む家庭の出身で、中学を卒業してから理容師の世界にいたから、すでにいっぱしの理容師、将来は実家の店を継ぐつもりであり、父のために備品を自分の給料を出して購入するなど孝行息子でもあった。

一方の須弥代は、定時制高校を卒業後に理容師を志していたからまだ見習いであり、同い年ながら、すでにいっぱしの理容師として働いていたから昭善は輝いて見え(昭善は早生まれで須弥代と学年は同じだったようだ)、なおかつ、彼のさわやかで人に好かれやすいキャラにも魅かれたのだろう、自然と好意を持って同じ店で働く同僚以上の関係になっていたのだ。

須弥代も親思いで、両親のために貯金をする孝行娘である。

そんな彼らは、将来昭善の実家の店を二人で支えようと共に理容師修行に励んでいたのだから、滅多にいないほど健全なカップルであろう。

両家の親たちも反対する理由がなく、その交際は双方から歓迎されていたほどだ。

この前の日、須弥代は父親のチェイサーを借りて昭善を拾ったようだが、ハンドルは彼氏である昭善が握っている。

なお、須弥代は店の仕事が終わった後で、同僚には今晩は昭善とデートに行くと告げていたものの、父親にはなぜか「女友達の所に行く」と言っていたが、これは後ろめたいからではなく、照れ隠しだったのだろうか?

その事情は、間もなく永遠に確かめることができなくなる。

それは、小島と近藤が運転する車が駐車場に入って近づいてきたと思ったら、チェイサーの後方左右に停車したことから始まった。

動きを封じられた後、特攻隊長気取りの徳丸が木刀片手に車を降りて「オラァ、出てこいや!!」と、こちらに向かって雄叫びを上げたため、昭善と須弥代の二人だけの甘い世界は破られる。

二人とも、異変に気付くのが遅すぎた。

ずっと自分たちの世界に浸っていたのもあるが、後ろ向きに駐車していたので、後方から向かってくる二台がおかしな動きをしているのが分からなかったのである。

駐車場に他の車が入って来たのには気づいていただろうが、いきなり自分たちの車の所に向かってきて後ろ左右に停まり、中から暴走族風の若者たちが鉄パイプや木刀片手に怒声を上げて降りてきて、一気に至福の静寂から奈落の底に落とされた。

どう考えても、こちらに危害を加える気満々の者たちに囲まれ、二人がびっくり仰天したのは言うまでもない。

この時、運転席にいた昭善は慌てて逃走を図ろうとチェイサーをバックさせた。

だが、パニックになるあまり、昭善はより最悪の結果を招く事態を引き起こしてしまう。

この車は、須弥代の父親の車で乗り慣れていない上に、後方は逃げられないように小島と近藤の車が停まっているのである。

昭善のチェイサーは、車体を襲撃者の乗って来た車二台にぶつけてしまったのだ。

「オレの車にナニしてくれとるんだ!!コラアァァー!!!!」

外からは不良の怒りの咆哮が響き、木刀や鉄パイプで車体がより強く叩かれ、ガラスにひびが入る。

その大きな声と音、予想される今後を前、に二人の心臓は凍り付いた。

荒れ狂う逆ギレ

自分たちの車を傷つけられて、小島たちは激怒した。

近藤にいたっては、おっかない組の上役から借りた車なのである。

「オラ!降りてこいてボケ!殺したろか!!!」

不良たちはチェイサーを完全に包囲して、車体を鉄パイプや木刀で乱打してフロントガラスを割る。

もうだめだ、逃げられない。

観念した昭善はおっかなびっくり車を降りたが、頭に木刀が打ち下ろされ、腹や腕を突かれ、拳で顔を殴られる。

「すいません!すいません!勘弁してください!」

流血する頭を押さえて昭善は懇願したが、車を壊された不良たちの怒りが、これで収まるわけがない。

「てめえ、俺らの車どうしてくれるんじゃ!!オラ!!」と、自分たちが悪いにもかかわらず、昭善の顔にパンチを叩き込み続け、所持金の11000円を奪った上に、チェイサーも腹いせとばかりに鉄パイプで破壊する。

そして、女である須弥代の方を担当するのは、今回も龍造寺と筒井の不良少女二人だ。

「はよ降りてこいや!ボケ!」と、助手席で泣きべそをかいておびえ切っている須弥代の髪をつかんで外に引っ張り出す。

金城ふ頭同様に二人は木刀で須弥代を殴打し、ハイヒールを履いた足で足蹴にするなどしたが、今回はより陰惨な仕置きを始めた。

「オラ!服脱げて!」と上半身裸にしたのだ。

これを見た男たちは、黙っていられない。

「この女犯ってまおうぜ!」と近藤が提案し、女である筒井も「こんな糞女犯ってまえ!」とけしかける。

須弥代は襲撃現場から少し離れた場所まで連れていかれ、そこで徳丸と近藤、高志に輪姦された。

小島だけは情婦である筒井の目の前で参加するわけにはいかなかったが。

昭善にとっては、自分の女の前で泣きを入れても叩きのめされ続けたばかりか、目の前で彼女を蹂躙されるという男にとって最悪の屈辱を味わわされた。

もっとも、6人もの不良相手に自分の女を守り切れる男など滅多にいないだろう。

不良たちは現金ばかりかチェイサーの備品、須弥代のアクセサリーなども奪い、今まで幸福だった者たちに地獄を見せるというカップル狩りの醍醐味を堪能し尽くしてはいたが、自分の車を壊されたことを理由にした暴走はまだまだ続く。

レイプを終えた徳丸たちは上半身裸の須弥代を連れて駐車場に戻って来たが、今度は龍造寺と筒井が女として再起不能になった須弥代を全裸にしてヌードリンチを始めたのだ。

極悪少女二人はシンナー(彼らの多くはシンナーを吸っていた)を須弥代の陰部に注ぎ、髪の毛をライターで焼き、タバコの火を背中や胸に押し付ける。

「熱い!熱い!熱い!あづいいい~!!やめてくださいいいい!!!」

須弥代は泣きながら哀願したが、女の涙は女には通用しないことが多い。

特に龍造寺と筒井のような奴には逆効果だった。

「泣きゃええっちゅうもんちゃうぞ!!」「ぶりっ子するなて!ムカつくわ!!」と、余計に暴行に拍車がかかる。

無抵抗の須弥代の体にタバコの火を押し付け、髪を引っ張り回し、足蹴にし続け、男たちも血だらけになった昭善を正座させて殴り蹴り続ける一方で、より楽しそうな須弥代へのリンチにも参加した。

昭善と須弥代への暴行は午前6時まで続いたが、そろそろ明るくなってきて人が入ってくるかもしれない時刻である。

そろそろ退散の時間だ。

だが、両人とも長時間の苛烈な暴行により、金城ふ頭で被害に遭ったカップル以上にひどいケガを負わされていた。

このまま置いておいたら、間違いなく通報される。

不良たちはズタボロにされた二人をひとまず連れて行くことにし、昭善を近藤の車の後部座席に、須弥代を小島の車の後部座席に押し込んで現場を離れた。

手ひどい暴行で呆然自失の二人をそれぞれ乗せた二台の車は、港区の空き地まで行って停まり、小島と徳丸、近藤が車を降りて今後について話し合う。

だが、この時点で彼らが一番心配していたのは、近藤が組の上役から借りた車を傷つけられたことだった。

暴力団幹部ともあろう者が、自分の車を傷つけられて怒らないはずはない。

小島は、組にいた時に兄貴分の車を傷つけ、さんざんヤキを入れられた苦い経験がある。

拉致した二人について「やりすぎちまった。どうする」と話題に出はしたが、この時点では二の次だったのだ。

そんなどうでもよいことに関して、誰かがハッタリ交じりに「男は殺して女は風俗にでも売り飛ばそう」などと言い出したが、それは当初軽口と言った本人も含めて誰もが受け止めていた。

この時までは。

その軽口はその後誰も撤回することなく、なし崩し的に決定事項となり、事件がより最悪の結末を迎えるであろうことを、彼ら自身も気づいていなかった。

続く

第三話 まず、昭善が殺された

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列島を凍り付かせた未成年たちの凶行~ 1988年・名古屋アベック殺人事件~ 第一話

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第一話 事件の始まり

1988年(昭和63年)2月に発生した名古屋アベック殺人事件は、同年11月から翌1月にかけて起きた女子高生コンクリ詰め殺人と双璧をなす悪名の高さで、令和の現代にいたっても語り継がれる少年犯罪である。

当時の日本では、未成年者らによる犯罪が激増して社会問題になってはいたが、この事件の凶悪さと犯行理由の理不尽さはそれまでに起きた少年犯罪を大きく凌駕して全国にショックを与えた。

その当時、中学生だった筆者はその衝撃を体感しており、犯人たちの鬼畜ぶりに怒りを爆発させたものだ。

本稿では、犯行を行った6人の人でなしたちを絶対超えてはならない一線を大きく踏み越えた悪魔たちとみなし、そのような所業を犯すにいたるまでの生育環境や境遇の劣悪さに関しては一切考慮しない。

そんなものが理由になったならば、誰だって殺人を犯してもいいはずだからだ。

たとえ若さゆえの過ちであったとしても、犯していい過ちでは決してなく、昔のことだからと忘れていいものでもない。

凶悪なカップル狩り

1980年代後半の日本では未成年による犯罪が激増、かつ凶悪化していた。

どんな時代でも一定数の若者がグレて悪さをするものだが、母数となる若者の絶対数が多くて少子高齢化が遠い未来の話だった時代なので、その数は令和の現代よりもはるかに多く、その悪質さにおいても令和に勝るとも劣らなかったのだ。

1988年2月23日の東海地方の地方紙『中日新聞』夕刊にも、そんな悪質極まりない未成年者によると思われる犯罪の発生が報道されていた。

同日深夜の名古屋市港区の金城ふ頭、車に乗ってデートに来ていたカップルが複数の不良少年少女に襲われて暴行され、金品を奪われたのだ。

金城ふ頭は、当時から夜景を楽しむデートスポットとして名古屋では有名であり、多くのカップルが車に乗ってデートしに来ていたのだが、彼らを狙った犯罪者もたびたび出現しており、この前年の9月には、こうしたカップル狩りを繰り返していた不良少年グループが検挙されていたが、捕食者がいなくなったわけではなかったのである。

報道によると同日2時30分ごろ、まず名古屋港82番岸壁上に車を停めてデートしていた専門学校生カップルが襲撃された。

カップルの乗る車をいきなり二台の車が挟み込むようにして停車、暴走族風の6人の少年少女たちが木刀片手に降りてきて「コラ!降りて来いて!」と車体を叩いたのだ。

身の危険を感じた専門学校生は車を発進させ、襲撃者たちの投げた木刀で、後部窓ガラスを割られながらも逃走。

不良たちの乗る二台の車も追いかけてきたが、このカップルは幸運にも、約5キロ先の港警察署小碓派出所に逃げ込んだために襲撃者たちの車は姿を消したが、彼らが感じた恐怖はかなりのものであったはずだ。

だが、次に襲われたカップルは不運だった。

逃げられなかったのだ。

最初の襲撃から一時間後の3時30分ごろ、最初の襲撃が行われた岸壁から約250 m離れた81番岸壁上に停車していたトヨタ車のカップルは、退路を絶たれて捕まってしまった。

犯人たちは、前回の失敗を繰り返さなかったのである。

フロントガラスを割られて乗っていた会社員の男性(25歳)は車外に引きずり出され、4人の不良に木刀や警棒で嫌というほど殴られたが、犯人たちは当時の不良が吸引していたシンナーの臭いをぷんぷんさせ、ラリっていたから余計歯止めが効かない。

男性は「死を覚悟した」と後に証言したほどの暴行を加えられて現金86000円を奪われた。

道路, 屋外, 車, 交通 が含まれている画像

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金城ふ頭で襲われたカップルの車

男性の彼女(19歳)も無事ではない。

一味の中の2名の不良少女に「てめえも降りろて!」と髪をつかまれて引きずり降ろされて「汚ったねえツラして泣くなて!よけいムカつくがや!!」「ブスのくせにええ服着とるな。似合わんだでウチらによこせや!!」と罵倒されながら、木刀で殴られ、足で蹴られ踏みつけられたのだ。

「やめてくださ…げぼっ!ごめんなさい!ごめんな…ぐえぇぇぇ!ううぅぅう~痛い痛い痛いよぉお…がっ!!いったあああああい!!!」

泣いても哀願しても、容赦ない暴行は止まらない。

自身も執拗な暴行を受けていた男性だったが、乱暴されて苦しむ彼女が目に入ったんだろう。

自分を囲む不良の輪から抜け出し、「もうやめろて!」と不良少女を突き飛ばして女性の体に覆いかぶさった。

身を挺して彼女を守るためだ。

「てめえ、オレの女にナニ手エ出しとるんだて!!」

「かっこつけると死ぬぞ!コラア!!」

彼女に手を出されて我慢ができないのは少年たちも同じで、自分たちが悪いにもかかわらず、男性への暴行はより激しくなる。

女性も腕時計とデートのために着てきた高価なトレーナーを奪われたうえに殴られ蹴られ続け、暴行は他の車のヘッドライトがこちらに近づいてくるのが見えるまで続き、車もめちゃくちゃに破壊された。

被害に遭った二人は報道では全治一週間の軽傷とされているが、それは実際に目の当たりにすれば、しばらく表を歩けないくらいひどい有様であり、文字通りボコボコにされていて、しばらく家から出てこなかったという。

何より心に大きな傷を負ったのは間違いなく、この二人は今でもその時の恐怖と苦痛を忘れてはいないはずだ。

2月23日時点での夕刊の報道では、この二件の卑劣なカップル狩りだけが報道されていたが、実は二件目の犯行の直後により重大な事件が起こされていたことは報じられていない。

その事件こそ、日本社会を震撼させることになる名古屋アベック殺人であるが、発覚するのはその二日後である。

そして、事件はこの日に進行中だった。

拉致された理容師カップル

金城ふ頭でのカップル狩り(当時はアベックという言い方がまだ一般的だったが)の事件のようにカップルを襲う事件は過去にも起こっていたが、今回の事件は木刀で車や乗っていたカップルを滅多打ちにするなど、以前のものと比べてその凶悪さが注目を浴びた。

しかし、世間に与えた衝撃は当初それほどでもなかった。

第一、それまでの事件でも今回の事件でも被害者たちは手ひどく暴行されて金品を奪われていても、命までは奪われていないからだ。

だが、二日後の2月25日の報道で、この事件の犯人が想像以上に悪質である可能性が浮上する。

金城ふ頭から少し離れた場所で、同じ犯人と思われる者たちによってより凶悪な第三のカップル襲撃事件が起こされ、被害者が拉致されたと思われることが報じられたのだ。

ダイアグラム

自動的に生成された説明

23日の夕刊にはまだ掲載されていなかったことだが、金城ふ頭のカップルたちが襲われた23日の午前8時半頃、10キロ離れた名古屋市緑区の県営大高緑地公園第一駐車場にフロントガラスやヘッドライトが割られ、車体がボコボコにへこんだトヨタのチェイサーが放置されているのを通行人が発見して緑署に通報。

同署の捜査で車内からは血痕が残っていることが分かり、車の外には血の付いたブラジャーや空になった財布、ハンドバックが散乱していた。

また、近所の住民から朝6時ごろ、何かを叩くような音と男女の怒鳴り声が聞こえたという証言もあり、何らかの犯罪が行われたのは明白である。

しかし、肝心の被害者については行方が分からず、拉致された可能性が早くも出ていた。

犯人が金城ふ頭でカップルを狩った者たちと同一犯と考えられたのは、車の窓ガラスを割るなど手口が似ていたことと、大高緑地公園までは車で20分もかからない距離であったこと。

そして、金城ふ頭で襲われた被害者の目撃証言で犯人グループは、白いクラウンと茶色のセドリック、もしくはグロリアに乗っており、放置されていたチェイサーのバンパーに別の車がぶつかった痕があって、そこに残った塗膜片を鑑識で調べたところ別の車のものであり、車は茶色のグロリアかセドリックと考えられるという結果が出ていたからだ。

被害者の身元判明

大高緑地公園で見つかった車

やがて、拉致されたと思われる男女は理容師の野村昭善(19歳)と同じ店で理容師見習いとして働く末松須弥代(20歳)と判明。

放置されていたチェイサーは須弥代の父親所有のものであり、22日の夜に仕事から帰ると「友達のところへ行く」と言ってからチェイサーに乗って出かけて行ったきり帰らず、翌24日に家族から捜索願が出されており、須弥代の彼氏である昭善も22日の夜以降行方が分からなくなって、同じく捜索願が出されていた。

襲われたのは、この二人である可能性しか考えられない。

2月25日、この大高緑地公園での事件を捜査する緑署は、金城ふ頭事件の犯人と同一犯と断定し、金城ふ頭事件を捜査する名古屋水上署と合同捜査本部を設置した。

カップルを襲撃してカツアゲすること自体が悪質極まりないが、なおかつ被害者を拉致して、その行方が分からないことから報道関係者も注目し、翌日以降も犯人の目撃情報やその正体を推定する記事などが中日新聞に掲載される。

そして、事件発生から二日も経っていたんだから、被害者の身内や関係者は居ても立っても居られなかっただろう。

だが、まさか生きていないことはないだろうと思われていた。

犯人は極めて悪辣な不良少年たちのようだが、いくら何でも何の落ち度もないカップルをさらって殺すなんてありえない。

昭善と須弥代が務めていた理容店は二人が生存していると信じ、身代金目的で誘拐されている可能性まで考えて現金まで用意していたくらいだ。

しかし、その「まさか」が起きていた。

二日後に一連の強盗事件の容疑で逮捕されることになる少年少女たちは、すでに両人を殺して埋めていたのだ。

続く

第二話 大高緑地公園事件

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