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善良すぎて殺された青年 ~1999年・栃木リンチ殺人事件~ 第五話


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第五話 天然ボケで奪われた命

石橋署

第四の犯人の出現

10月27日に、正和は同級生である岡田から借りた金を返しに来たが、11月2日の午後8時ごろにまた来て、今度は金を借してほしいと頼んできた。

しかし、今回は正和の父親である光男に頼まれていたとおり、岡田はきっぱり断っている。

その際、乗せられていた車のナンバーを控えることに成功し、岡田の父親は光男にそれを伝えた。

大きな前進であったが、岡本は正和の顔に前回にはなかった傷があったと証言しており、右手に包帯を巻いていた件も合わせて、暴行を加えられている可能性が多いに考えられた。

11月3日、控えたナンバーを石橋署の生活安全課に伝え、手にやけどを負っていたことや顔に傷があったことから事件性が高いとして捜査を依頼したが、返答は相変わらず例のむかつく決まり文句である「警察は事件にならないと動けないんだよ」。

そうは言っても、ナンバーから車の持ち主は村上博紀であることは分かり、その住所も割り出してくれた。

両親は息子を連れ回しているグループが三人であり、そのうちの一人は梅沢であるらしいことをすでにつかんでいたが、これで村上の存在も知ったことになる。

光男は翌日教えられた住所に行ってみたが、くだんのナンバーの車はなかった。

近所で村上博紀について聞いてみたら、甘やかされて育った悪ガキで、名門校を暴走族に入っていたことが原因で退学になったりしたこと、悪そうな連中とつるんでおり、いつも夜遅く帰ってくることなどの情報を得る。

だが、まだ萩原の存在には行きついていない。

そもそも、ここまでしなければならないのは、石橋署が信じられないくらい非協力的だからである。

そして、正和の職場である日産も話にならなかった。

梅沢が絡んでいることは知っていたのに、まんまと梅沢の見え透いたウソを鵜吞みにして正和を悪者にし、両親には息子に退職届を出させるよう迫る始末。

その間にも正和は犯人グループに苛まれ続け、体の傷はますます目も当てられないほどになっていた。

普段から面白半分に暴行・凌辱していたが、友人知人から思うように金を借りれなかった時は、当たり前のように制裁として殴る蹴るや熱湯コマーシャルのお仕置きをしていたのである。

また、正和の両親に金の無心の電話をした場合に下手なことを言ってしまったり、両親が思うような対応をしなかった場合は、腹いせの暴行を食らうこともあったようだ。

11月上旬より、須藤家からしか金を引っ張れないと萩原は判断したらしく、正和から連続して数十万単位の金を無心する電話がかかってくるようになる。

光男が「金は直接渡す」と言っても正和は「振り込みじゃなきゃダメだ」と言い張った。

「振り込めば帰れる」とは言うが、またほどなくして「また別の人から30万円借りてる」とか「最後のお願いだから」などと、無心の電話が来る。

また、その口調はだんだん荒れてきたり、泣き叫ぶような哀願調だったりもしたことから分かるとおり、地獄のような暴行で精神的にかなり追い詰められていたのであろう。

須藤家もしかりで、いつかかってくるか分からない金の無心の電話に疲れるあまり、電話のコードを抜いていたこともあった。

一方、正和を虐待しながら連れ回して東京まで来ていた三人の犯行グループに、11月20日ごろから第四の人物が加わる。

それは、東京都在住の西山啓二(仮名・16歳)という高校生だが、学校に行かずにブラブラしていた男だ。

渋谷で開かれたあるイベントで萩原と知り合い、26日からは一行が宿泊していたビジネスホテルにも泊まり、本格的にグループと行動を共にするようになった。

西山は、萩原たちと行動を共にするようになってすぐ、一味の中におかしいのが一人いることに気づく。

ずっとフードを深くかぶっているが、明らかに分かるほど顔が変形しており、火傷なのか変色してただれている奴だ。

ホテルに泊まる前に自分も含めた5人で銀行に行った時、窓口で札束を受け取ったそいつは、その金を萩原に渡していた。

足利銀行丸の内支店

コイツは一体何なんだ?あの顔は何をされたんだ?

「ヒロヒト」とか呼ばれてるみたいだけど、この面子の中の立ち位置はどうなってんだ?

それは、26日に萩原の泊まるホテルに自分も泊まってから思い知らされる。

「熱湯コマーシャルだ」とか言って、梅沢と村上がその「ヒロヒト」と呼ばれている男の服を脱がせると、ヒロヒトは体中火傷か何かでただれて化膿すらしていたのに仰天した。

なお信じられないことに、そんな重傷以外の何者でもないヒロヒトを無理やり浴室に連れ込んで、最高温度にしたシャワーをかけるのだ。

浴室からは、この世のものとは思えないほど悲痛な叫び声がこだまし、やっと解放されて湯気を出しながらシャワー室から出てきたヒロヒトを梅沢と村上は殴るわ蹴るわ。

火傷で負った水泡がつぶれて、血や体液が飛び散る。

大物ぶった萩原は手を出さず、そのおぞましい様子をウィスキーの入ったグラス片手にショーを鑑賞するように眺めている。

西山は思わず尋ねた。

「あれは何なんすか?あのヒト、何であんな目にあってんすか?」

「あの須藤って奴はよ、俺らに不義理働きやがったから、しつけてんだ。俺は、あそこまでやれって言ってねえけどな」

そう言いながらも藤原はそのリンチを明らかに楽しんで観ていた。

実際に手を下している梅沢も村上も、体のあちこちから血膿を出して目をそむけたくなるような有様になった正和へのリンチを、楽しそうに張り切ってやっている。

もはや、人間のやることではない。

この西山は、萩原のような冷血漢に気に入られてはいたが、まだ彼らほど墜ちてはいなかった。

「こりゃ、やりすぎじゃねえのか」と、内心見ていられなかったのだ。

彼はグレてはいても、まだ人としての良心を備えていたのである。

だが、良心があっても行動に移す勇気はなく、この時点での西山は、まさに「義を見てせざるは勇なきなり」の状態だった。

彼が勇気を発揮してようやく行動に出るのは、事件が取り返しがつかなくなってからとなる。

当時の渋谷センター街

許しがたい天然ボケ

日産から息子の退職願提出をしょっちゅう求められていた両親は、11月24日にかかって来た正和からの金の無心の電話に対して、「金を振り込むから退職願いを書いて出しなさい」と命じていた。

その前には正和の寮に行って、家財道具を運び出している。

自分の意志ではないとはいえ、二か月近く職場に顔を見せていない息子が復帰できる見込みはないし、これ以上、日産に迷惑はかけられないという意識が、この時にはあったのだ。

そして、この頃になると、正和に金を貸した人間からの相談が須藤家に連続して来るようになり、両親はその返済のための金策にも追われるようになる。

連れ回されている正和が言わされているであろう金の無心の電話も、このころは集中的に来るようになっており、両親は追い詰められていた。

両親は、とにかく息子の居所を知ろうと金を振り込んでいる足利銀行に協力を要請する。

事情を話して、振り込んだ金がどこで下ろされているか教えて欲しいと頼んだのだ。

すると25日、栃木から遠く離れた東京丸の内の足利銀行東京支店から、金が下ろされたという報告が入った。

しかも、知らせてくれた同行の支店長によると、四人の男と共にやって来て、窓口で金を受け取った人物はフードを深くかぶっていたが、顔に明らかに分かるほどの火傷を負っているという。

そして、それら一連の様子は監視カメラに収められているとも話した。

四人の男?顔に火傷?

三人だと思っていた犯人が一人増えているし、正和と思われる人物は、顔に火傷まで負わされているとは!

足利銀行の支店長は警察への通報を勧め、いざとなったら監視カメラの映像も提供するとも言ってくれた。

「今度こそ動いてくれるだろう」と信じて両親は石橋署に電話したが、「その車の持ち主の村上の親が捜索願を出したら、刑事事件になるかもしれないと思うけどな」などと、ボケた返答しかしてくれない。

警察を頼りにできない両親は、独力での解決を強いられたため、車のナンバーによって知った村上の家の電話番号にまず電話をかけ、これまでのことを話した結果、村上の親たちと会うことになった。

同時に梅沢の母親にも電話して、11月30日に宇都宮市内のファミリーレストランで会合を開くことが決定した。

30日午後1時、正和の両親は梅沢の母親とその叔父(梅沢は母子家庭)、村上の両親に、これまでの経緯を説明して事情を聞いた。

すると、梅沢の親も村上の親も息子たちの行方が分からず困っており、管轄の宇都宮東署に捜索願を出したが、受け付けてもらえなかったことを知る。

そして何より、ここで正和を連れ回している第三の男の名が、萩原であることが分かった。

梅沢の親も村上の親も、この萩原に金を巻き上げられていると主張しており、この時点では同じ被害者側のような顔をしていたようだ。

とりあえず、三家の親たちは合同で宇都宮東署に改めて相談に行ったが、ここも石橋署同様やる気がなく、「その正和さんの捜索願を出した石橋署に行けばいいでしょ」とつれない。

仕方なしに、一行は石橋署に向かうことになった。

「何だよ、須藤さん。こんなにいっぱい人連れてきて。何の用だよ?」

石橋署生活安全課のいつもの非協力的なムカつく刑事である。

父親の光男は、彼らは息子を連れ回しているとみられる人間の親たちであり、足利銀行の防犯カメラに映る息子の正和は顔に火傷まで負わされていることなどを訴えて捜査を懇願したが、対応はあいかわらず冷ややかなままだ。

その時、光男の携帯に着信があった。

正和からであり、要件はいつものとおり金の無心。

電話の中で正和は精気のない声で「電車賃だけでも振り込んで欲しい」と懇願した。

またか…いつまで続くんだ。

「そんな金あるわけないだろ」「電車賃がないと帰れないじゃん!」「だから迎えに行ってやるから」などと泣き始めたらしい正和と押し問答を始めた光男だったが、それら一連の会話をいぶかしげに見つめるくだんの刑事を前に、ひらめくものがあった。

ムカつく奴だが、腐っても刑事だから、こういう場合は頼りになるはずだ。

「ちょっと待ってろ。ここに父さんの友達がいるから、その人と話してみろ」と、刑事に携帯を渡す。

刑事は一応聞いていたらしく、それにうなずいて受け取って、代わりに電話に出た。

「もしもし、須藤か。今どこだ?早く帰ってこなきゃダメじゃないか。みんな心配してるぞ。え?ナニ?」

こいつは腐っても刑事で、いかにもこういうことに慣れたような口調だったが、刑事としては腐りきっていた。

「誰だ?だって?石橋だ。石橋署の警察官だ…あれ、切れちゃったよ」

信じられない、唖然とした。

正和は監禁されている可能性が高いのに、「友達」とわざわざ言ったのに、警察に知らせていることを刑事自ら犯人たちに知らせてしまったのだ。

これでは、正和がどうなるか分からないではないか!

許しがたい天然ボケである。

「…とにかく村上の車の手配はしましょう」

ボンクラ刑事はバツが悪くなったのか、それまでとは一転して協力する姿勢を示すようになった。

しかし、遅すぎであった。

この天然ボケは、業務上過失致死ばりに罪深いものとなる。

これで、警察に知られたことを萩原の方は悟り、正和の口封じを決意することになるからだ。

断たれる正和の命

「警察?親父にかわってよ」

正和に携帯で親に金の無心の電話をさせ、その携帯の裏側に耳を当てて会話の内容を傍受していた萩原は、その「警察」というワードを耳にしたとたん血相を変えた。

「切れ!電話切れ!」と、電話の相手に聞こえないような小声で正和に指示して切らせると、「やべー!やべえぞ!」と騒ぎ出す。

これまで自分で手を下すことなく、梅沢と村上にリンチをさせるなどして大物ぶってきたが、警察が動いていることを知ったとたん、本来の小物ぶりをさらしたのだ。

「栃木にいるのやべーよ!おい、シャワー室に残ってるヒロヒトの血ィ拭き取れ。ここ出るべ!」と指示を出して、午後6時前にホテルをチェックアウトしたが、自身は某組織の組員に会いに行くとして別行動をとって、その他の者は夜遅く再び同ホテルにチェックインする。

そしてこの晩、梅沢と村上は正和に最悪の残虐行為を行う。

熱湯コマーシャルをやった後、梅沢は火傷で皮がむけた正和の体を靴ベラで百発以上叩いた上に、村上はポットで湯を沸かし、梅沢がそれをコップに入れて正和にかけたのだ。

「やめてください!あつい!!やめ…あっつういいい~!!!」

リンチは、ポットのお湯がなくなると再び沸かして再開され、それは四回にもおよび、ただでさえ広範囲に広がった火傷を余計悪化させ、正和の皮膚はささくれ立ったようになっていたという。

しかも信じられないことに、この最凶リンチは翌日12月1日朝に、萩原がホテルに姿を見せて正和の惨状を目にするなり、「オレにも、昨日オメーらがやったやつ見せろよ」と言ったために再び行われたのだ。

この時点で、正和の顔はこれまで殴られ続けたために完全に変形しており、熱湯コマーシャルなどによって負わされた第三度の火傷は、全身の約80%に及んでいた。

いつ死んでも、おかしくない状態だったのだ。

こんな無残な姿にした上に、なおかつ熱湯をかけることができる三人は、サイコパスだったとしか思えない。

そして、このサイコパスどもは警察にこれまでの行為が知られたら、確実に実刑を受けることを予想していた。

しかも同日夕方、村上は西山と正和を乗せて自分の車を運転していた時にバイクに当て逃げ事故を起こしてしまい、それを聞いた萩原は、余計警察の注意を引くであろうと確信。

何度か捕まって留置所に入れられたことのある萩原は、逮捕された後、いかに嫌な思いをしたか骨身にしみていた。

ましてや、実刑となったら…。

この日の午後11時、一行は萩原と村上の車に分乗して鬼怒川の河川敷に到着、萩原は自分の車の中で今後について自分の考えを話す。

それは、正和の殺害だ。

鬼怒川の河川敷

「帰しちまったら、ぜってー捕まるべ。殺っちまおう。どうだ?」

「うーん。オレ、どうすりゃいいかわかんねえよ」

「はっきりしろよ、テメー。まあいい、明日までに決めとけ」

萩原はこの日、自分だけ自宅に帰り、残りの四人は村上の車の中で寝た。

正和の親から巻き上げた金を使い果たしていたために、ホテルに泊まれなかったからだ。

12月2日午前8時、萩原は河川敷に戻ってきて、再び正和殺害の謀議が始まった。

今度は梅沢に加えて、村上も交えた三人の話合いだ。

「で、どうするか腹くくったのかよ」

「うーん…どうしようか」

「あのな!テメーら捕まったことねえから、わかんねんだよ!今回みてえなコトして捕まったら、長えこと中入んなきゃなんねえかんな!女とも会えねえぞ!いいのかよ!?」

「いや!オレも捕まりたくねえ!やっぱ殺しちまおう」

「村上は?どうすんだよ?決めろよ」

「やっちまおう。生かしといたらやべえ」

正和の運命は、このように短絡的に決まった。

殺して捕まったらもっとヤバいことになるのが、なぜわからないのか?

その後、殺害方法は絞殺とし、死体は芳賀郡の山林に埋めることが決められた。

午前11時に、一行は二台の車に分乗して河川敷を出発し、途中正和の最後の給料を足利銀行から降ろすと、その金を使ってホームセンターでセメント、砂、スコップなどの物品を購入。

掘った穴に、セメントを流し込むつもりなのだ。

午後2時、死体遺棄現場として目星をつけていた栃木県芳賀郡市貝町の山林に着いた。

萩原は乗って来た車を駐車して、梅沢と徒歩で村上の車を先導して山林に入って行く山道に入った。

が、ここは完全に人里離れた場所というわけではなく、近くに駅はあるしゴルフ場もある。

時間的にも人が来てもおかしくなく、彼らが入って行った山道は、ハイキングコースにもなっていた。

なのに萩原は、「ここでやるべ」と命令した。

村上の車からスコップを出して山道から右の斜面に降り、梅沢と二人で穴を掘り始める。

ある程度掘り終わった後、村上の車からそれを見つめる正和に「あの穴に車埋めんだよ」と言ったが、正和はそこに埋められるのが自分だと分かっていた。

「生きたまま埋めるのかな。残酷だな」とつぶやき、同乗していた西山に「悪いけど、セブンスターください」と言ったという(正和は未成年だったが、高校卒業後に喫煙を始める者は、この当時珍しくない)。

その時、外から萩原が「オイ西山、セメント運べ」と指図してきたので、西山はセブンスターを正和にやることなくに外へ出た。

「どれくらい運べばいいんすか!?」とやや大きい声で聞いたら、代わって穴を掘っていた村上に「声でけえよ」とキレられる。

穴を掘る者、セメントをこねる者、これから人を殺すことに誰もがピリピリし始めていた。

四十分後、全ての準備が完了する。

「チャッチャとやってこい」

藤原が梅沢と村上に命令し、自分は車に乗り込む。

梅沢は正和を車から降ろし、全裸になって座るよう命令。

「西山、テメーも車で待ってろ」と、年少の西山も車に戻した。

この期におよんでも無抵抗な正和の首に、梅沢の私物のネクタイが巻き付けられる。

そして、そのネクタイの両方を梅沢と村上は力をこめて引っ張った。

「うぅぅうううぅうう~がはぁああぁぁあげぇぇ~」

断末魔の声を上げて苦しむ正和。

ガタイはデカいが、肝っ玉が実は小さい村上は目をつぶって引っ張っていたが、その声にひるんで手を離してしまった。

正和はうめき、「げぼぼっ」と血を吐き失禁。

もう一回やり直しだ。

その声は車内にも聞こえており、萩原はカーステレオで音楽をかけ始めた。

この冷血漢にも、その苦しむ声は耐えられないものであり、西山に「あいつら、やべーよ。ああいうのオレはダメだ」と言っていたくらいである。

「もういいんじゃね?やべーよ」

「根性ねえな、オメーよ!」

村上はひるんでまた手を放してしまったため、結局、梅沢が一人で絞め続ける羽目になる。

さらに30秒ほど絞め続けたら、苦しみ痙攣していた正和は動かなくなった。

正和は死んだ。

あまりにも善良過ぎたために目をつけられ、苦しめられた末に殺されてしまった。

たった19年の人生だった。

続く

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