本記事に登場する氏名は、全て仮名です。
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1995年(平成7年)8月7日夕方、足立区の小学二年生の女の子が連れ去られ、身代金が要求される営利誘拐事件が起きた。
事件は翌日夕方、身代金の受け渡し場所に現れた犯人を警視庁の捜査員が取り押さえ、もう一人の犯人も電話の逆探知により居場所が判明して逮捕。
その際に犯人と一緒にいた女の子も無事に解放されて、一件落着となった。
だがこの誘拐犯たるや、若い女二人。
20歳の遠野亜由(仮名)と21歳の船津紀美(仮名)であった。
その身代金の要求額はたった800万円で、犯行計画もずさん。
ばかりか、その後に判明した犯行理由により、当時の日本社会を大いにあきれさせた。
事件の経緯
8月7日午後6時14分。
足立区に住む会社員・山元聖一さん(仮名)の自宅に、一本の電話がかかってきた。
電話に出たのは、中国に単身赴任していた聖一さんに代わって自宅を守っていた妻の由紀(仮名)さん。
由紀さんは、この電話に出る前に心配事があった。
それは、山元家の長女の加奈ちゃん(仮名、7歳)が塾から帰ってこないことだったのだが、その電話で気が動転することになる。
相手の電話の声の主は女であったが、
「お子さんを預かっている。明日の午後5時に、800万円を持って北千住のファーストフード店の森永ラブに来い」
などとはっきりと、娘を誘拐したことを伝えてきたのだ。
びっくり仰天した由紀さんは、すぐさま110番通報。
これを受けた警視庁は、身代金目的誘拐容疑事件対策本部を設置して捜査に乗り出した。
翌8日午後4時41分、夫の聖一さんの勤務先から借りた800万円が入ったショルダーバックを抱えた由紀さんが、身代金の受け渡し場所として指定されたファーストフード店・森永ラブ(現在は存在しない店)に入る。
もちろん、店の周りに警官が張り込み、店内にも客を装った婦人警官が待機しているのは言うまでもない。
しばらく時間が経過した午後5時2分、一人の若い女が店に現れ、由紀さんに近寄るや、一枚の紙を渡した。
紙には「タクシーで自宅に30分以内に帰れ。子供が帰るまで待て。警察には言うな」と書かれている。
やがて女は口を開いて、読んだら紙を返してくれと要求。
「私はもらうモンもらいに来ただけっスからね」と、自分は連絡役に過ぎないことをさりげなく強調して、身代金を渡すように迫る。
だが、母は強かった。
「子供を返してくれなきゃ、お金は渡せません!」
ときっぱりと唯々諾々と犯罪者の言いなりになることを拒絶したのだ。
「いや、ホント無事だって…」
「じゃあ、まず子供を連れてきてくださいよ!」
犯人の女は母親の思わぬ強硬な姿勢にたじろいだらしい。
「向こうの人が信用するかどうかわかんないけど」
と折れた彼女は午後5時19分、金も持たずに店を出た。
女も冷静ではいられなかったのであろう、ひんぱんに後ろを振り返りながらその場を立ち去ろうとしている。
だが、すでに袋のネズミだった。
周囲を完全に包囲していた捜査陣は、すぐさま確保の判断を下し、ほどなくして犯人の一味と思しき女、遠野亜由は身柄を拘束された。
警察は女児の行方を追求したが、遠野はここでも「新宿のアルタ前で男に金を渡す約束をしている」と、自分は主犯ではないことを強調する。
一方、同じく警官が待機している山元家でも午後6時9分に動きがあった。
もう一人の犯人から電話が来たのである。
「どうなってるんですか?金は?ホント警察に言ったりしてないでしょうね?ちょっと変な動きがあったもんで…」
この声も女のもので、身代金を取りに行った共犯者の遠野が戻ってこないので、しびれを切らしたらしい。
電話には、被害者の母親である由紀さんの妹を装った婦人警官が対応に出て、「まだ姉は帰ってきません。私は頼まれて留守番をしているだけでして」などといいつつ、逆探知を狙って会話を引き延ばす策に出る。
「また連絡します。あ、あと私も頼まれて電話してるだけですから」
「姉が一人で行ったものなんで、私もよく分からなくて」
「とにかくまた30分後にかけます。警察が動いてるんで」
「子供はそこにいるんですか?」
「こっちにはいないから!」
こうしてあわただしく電話は切られたが、これら一連の通話にかかった時間は逆探知するには十分だった。
発信源を突き止めた警察は周辺を捜索し、午後6時43分、加奈ちゃんを連れた船津紀美を発見して逮捕。
加奈ちゃんはケガもなく無事であり、丸一日ぶりに家族のもとに帰ることができて事件は無事解決した。
この事件が円満に解決したのは警察の手腕によるのもあるが、やはり、犯行の稚拙さにも原因があった。
まず、身代金の受け渡し場所にノコノコ犯人が現れるのも、誘拐犯としては大いに問題なのは言うまでもなく、その後は、うかつに電話をかけて逆探知されるなど行動は杜撰。
何より、営利誘拐の身代金要求額としては、かなり低額の800万円を要求しているあたり、この犯罪が愚か者による思い付きの域を出ていないことを物語っていた。
逮捕された遠野と船津は取り調べでも、自分たちは連絡役に過ぎず、主犯は男であり、ほかにも共犯者として自分の女友達の実名まで上げたりしていた。
しかし、供述があいまいで矛盾する点が目立ち、やがて二人だけで行った犯行であることが断定されるのに、時間はかからなかった。
高校卒業後デビュー
逮捕された遠野亜由と船津紀美
逮捕された遠野亜由(仮名、20歳)と船津紀美(仮名、21歳)は、幼稚園の頃からつるんでいた幼なじみ。
中学時代の同級生によると二人ともテニス部に所属し、いつも共に行動していた。
そして両人とも目立たない印象であり、特に遠野の方は、それが顕著だったという。
中学卒業後は別々の高校に進学したが、船津は卒業後に定職に就くことはなかったようだ。
遠野の方も卒業後に専門学校に入学していたが中退して働くことはなく、事件が起こる二年前から船津の住むアパートの一室に転がり込んで同居するようになった。
そのアパートは船津の祖母が所有しており、家賃の心配はなかったが、二人とも働くことはなく、ボディボードをやったりクラブに行ったり遊び惚けるようになる。
学生時代は地味だった両人の外見も変わり、髪を茶髪に染めて日焼けサロンで真っ黒に日焼けさせていたらしい。
95年当時コギャルなどと呼ばれて、マスコミでもてはやされ始めていた女子高生のファッションだ。
まだ十代のつもりだったのだろうか?
高校卒業後デビューとは情けない奴らだ。
やっていることも未成年の悪ガキそのもので、真夜中に部屋で騒いだり、青空駐車して近所に迷惑をかけ、駐車違反の罰金を請求されても知らん顔。
そして金に困ると、あきれたことにゲームソフトを万引きしては中古ソフト屋に売っていた。
主にそれを行っていたのは遠野の方で、命令するのは船津。
船津は親分気取りで遠野をふだんからアゴで使って万引きで得た稼ぎを巻き上げ、時には暴力をふるってもいた。
もっとも、派手な外見と行動にもかかわらず男っ気が全くなかった二人を“レズカップル”だと、近所のおばちゃんたちには陰口をたたかれていたようだが。
だが遠野も遠野で、無職にも関わらず300万円もするRV車を買うなど分別がついているわけでは決してない。
事件の前には数百万円の借金を抱えてかなり金に困っていた。
そのおかげで、遠野はテレクラで売春したりキャバクラで短期間勤めたり、AVに出演しようと某プロダクションに売り込みをかけたりしていたが、そのパッとしない容貌とスタイルでは、一発逆転にほど遠かったようだ。
現に事件後に取材に応じた当のAVプロダクション関係者には、
「あの程度の子ではいいところ一日三万か四万くらい」
「20歳の体じゃなかった」
などと酷評されている。
遠野のヘアヌード。確かに若さがない。
このようににっちもさっちもいかなくなって、遠野が思いついたのがよりによって、この誘拐事件だったのだ。
しかも、その話を船津に持ちかけると何とあっさり引き受けて、実際に事件に至ってしまったんだから、二人とも頭が悪いにもほどがある。
窮すれば鈍するというが、限度というものがあるだろう。
誘拐した女の子も、その日たまたま出くわしただけで、初めから狙っていたわけでもない。
また、800万円という身代金の要求額からも、普段やっている迷惑駐車や万引き、売春に毛が生えた程度と考えていたフシがあるのではないだろうか?
逮捕後も自分たちの罪を軽くしようと、いるはずのない主犯や他の共犯の存在を騙って、ばれるに決まっているウソをつきとおそうとした点からも終始一貫して思慮に欠け続けていたといえる。
どうやらこの二人は、頭が中学生か高校生のまま大人になってしまった最悪の見本の一つであることは、疑いようがないだろう。
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