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時代が平成になって間もない1989年3月29日。
ひったくりと婦女暴行により、練馬少年鑑別所に収監されていた宮野裕史(当時18歳)の自供により、異常な殺人事件が発覚した。
それは令和4年の現在の日本ばかりか、世界的にもある程度知れ渡ってしまうほどの悪名を誇る伝説的凶悪事件。
足立区綾瀬の女子高生コンクリ詰め殺人である。
この事件は翌日には新聞やテレビのニュースで報道され、やがてワイドショーや週刊誌にも取り上げられて、当時の日本社会に衝撃を与えた。
当時、中学3年生になったばかりだった本ブログの筆者は、そのころのことを未だによく覚えている。
三十年以上過ぎた現在では、同事件についてネットや書籍で語りつくされている感があるが、犯行が伝えられた当時の報道のされ方は、どのようなものだったのだろうか?
本ブログでは犯行の詳細はさておき、当時この事件がどのように伝えられたかをご紹介したい。
事件直後の報道=被害者にも非がある
翌3月30日、警察は宮野と共犯の小倉譲(当時17歳)の両名を埼玉県三郷市の高校三年生・古田順子さんに対する殺人・死体遺棄容疑で逮捕、事件はその日のうちに新聞・TVなどで報道された。
そして事件の現場は、ほどなくして共犯として逮捕された湊伸治(当時16歳)が両親や兄と住む民家の二階であり、事件前から不良少年たちが出入りするたまり場だったことが判明する。
当時、そんなハイエナの巣のようなところに、なぜ高校生の女の子がいたのか?という疑問が指摘された。
そして何より、下の階では湊の両親が居住していたのだ。
無理やり連れ込まれたとしたら、助けを求めなかったのはなぜか?と、誰しもが思った。
また、おそらく、取り調べでの犯人たちの供述をもとにしたのであろうが、
『順子さんが水をこぼしたのを少年たちがとがめたところ、反抗的な態度をとられたので、殴る蹴るの暴行を加えた。順子さんも抵抗したので暴行がエスカレートした結果、死に至らしめてしまった』
と報道した新聞社もあった。
このことから、
- 被害者の少女も素行に問題のある、それなりの不良だったのではないか?
- 家出か何かの事情で自ら望んでそこへ行き、何らかのトラブルを起こして、自業自得のような形で暴行を受けて、結果的に死んでしまったのではないか。
まだ事件の詳細が知られていない頃には、そんな印象を持った人も多かったようだ。
この1989年の前年には、名古屋でカップルが未成年のグループに殺される事件が発生しており、少年犯罪が、すでに成人顔負けに凶悪化していたことは、当時の社会でも認知されていた。
その一方で、どんな凶悪な不良少年でも、まさか何の罪もない女子高生を誘拐して監禁したあげくに、いじめ殺すほどのことはしないだろう、とも世間一般では考えられていた節がある。
つまり、被害者の女の子も、それなりのことをしなきゃそんな目に遭わないだろうとも。
どんな事件が起きても、不思議ではなくなってしまった現代ではないのだ。
だから、「殺された女の子にも問題があったはずだ」ということを、したり顔でのたまう識者すらいた。
それは、一人や二人ではない。
だが、この事件は世間が思っている以上に悪質だったことが、ほどなくしてわかる。
「そこまでするわけがないだろう」という当時の閾値を、大きく超越していたのだ。
遠慮がないマスコミ
事件が発覚した次の月の4月になると、だんだん犯行の経緯や詳細が判明してきた。
知る人ぞ知るとおり、宮野たちは最初から強姦目的で、不良少女でも何でもない女子高生を拉致して湊の家に監禁、42日間にわたって暴行・虐待し続けたあげく死に至らしめ、死体の処理に困ってドラム缶にコンクリ詰めにして埋め立て地に捨てた、という前例のない非道なものだった。
この情状酌量の余地の全くない猟奇的少年犯罪に、マスコミは色めき立った。
もともと、少年犯罪というのは社会の注目を集めやすい。
また、どんな残虐な殺人事件でも、どうも男を複数人殺すより女を一人殺す方が、悪いことに思われる傾向がある。
それも、殺されたのが若い女性だったりすると、世間の人々は怒りを覚えながらも、同時に大いに興味を持つようだ。
しかも、被害者が美女だったらなおさらである。
この事件は、それらの条件をすべて満たしていた。
マスコミも商売だから、それを見逃すはずはない。
そして、この時代のマスコミは、現代のそれより仕事熱心でモラルがなかった。
連日、ワイドショーなどは特集を組み、犯行が行われた家には取材陣が殺到。
加害者の母親を路上で追い回すならまだしも、悲しみに沈む被害者の家にもマスコミは押しかけて、インターホンを押して心情を聞こうとすらした。
そして、マスコミが去った後の被害者宅の近くにはたばこの吸い殻などのゴミが散乱していたというからあきれる。
また、あるワイドショーなどは被害者の少女の名を「ちゃん」呼ばわりしていた。
幼女ではないのだ。無遠慮にもほどがあるだろう。
テレビでも新聞でも、被害者の写真が何のためらいもなしに公開されていたが、週刊誌はこの点で、ことさら露骨だった。
某女性誌などは、事件の内容を伝える記事とともに、どこから入手したのか、被害者が夏休みに旅行に行った際の写真を複数枚掲載。
その中には、水着姿の写真まであった。
だが、それだけに飽き足らず、くだんの某女性誌は切り札を出してきた。
それは、被害者の彼氏のインタビューである。
つづく
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