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- 善良すぎて殺された青年 ~1999年・栃木リンチ殺人事件~ 第一話
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第二話 事件の発端
人間には二種類しかいない。利用可能か利用不可か
1999年9月23日、萩原克彦と村上博紀が宇都宮駅東口のパチンコ店を訪れていた。
目的は同じ中学の同級生だが、卒業以来付き合いのなかった梅沢昭博に会うことだ。
ずっと付き合いがなかったので、さまざまなルートで梅沢の携帯電話の番号を探り当て、この日のこの時間に、このパチンコ屋で会うことを約束していた。
しかし、萩原は久々に中学生の同級生に会って、旧交を温めようとしているのではない。
その目的は、梅沢から金を巻き上げることだ。
野郎は、仕事を事故の後遺症を理由に休んで、手当をむさぼりながら遊んでいる不届き者である。
そんな奴から金をいただいても、バチは当たらないだろう。
萩原は7月に鳶の会社を辞めてブラブラしており、今からやろうとしているように、時々他人から金を脅し取っていたのだ。
もちろんその目的は、梅沢には隠している。
パチンコをしている梅沢を見つけると、「おーう、久しぶり」と当り障りのない声掛けをしたかと思ったら、「梅沢、テメー最近俺の悪口言っとるべが」と、いきなりドスを利かせた声で因縁をつけた。
恐喝の初歩である。
「いや、してないよ、してないって。誰から聞いたの?そんなわけないって~」
久々に会って、まさか因縁つけられるとは梅沢も思わなかったであろう。
梅沢は必死に弁明して何とかはぐらかそうとしたが、萩原は次の手を用意していた。
「まあ、それは置いといて。オメーに会わせてえ人、アソコにいっからツラ貸せよ。村上も来い」
梅沢と村上を従えて向かった先にいたのはパチンコを打っている中年の男、それも見るからに暴力団組員風の男である。
「お久しぶりです、〇〇さん。この二人、俺の中学校の同級生の梅沢と村上です。こいつらのことも、これから面倒見てやってもらえませんか?」
萩原が丁寧だが、さも親しそうに話す相手は案の定暴力団組員。
暴走族時代に知り合って以来、交際があった男だ。
「おう、そうか。何かあったら、オメーらも連絡してこい」と渡された名刺には、泣く子も黙る広域暴力団・住吉会系の組の代紋が印刷され、名刺を渡してきた手は小指が欠損している。
実にわかりやすい本物ぶりだ。
萩原が、このパチンコ店をこの時間に約束の場所にしたのは、このヤクザがいつもここでパチンコをやっているのを知っていたからだ。
後は慣れたもので、自分の背後にいる者がどういった人間なのか目の当たりにさせれば今後いろいろとやりやすくなることを、この卑怯者は熟知しているのだ。
その姑息な企みは、今回も大いに成功していた。
梅沢は中学時代から万引きなどを繰り返し、高校時代は萩原とは別の暴走族に入っていたが中途半端な悪党だったので、本職を紹介されてその名刺を受け取ってからは、深刻な表情をし始めている。
同じく中学時代から悪さを重ね、梅沢と同じ暴走族に入ったことで高校を退学になった村上も同じだ。
この年の4月に萩原と再会してまたつるむようになったが、ガタイが大きい村上は、ケンカは自分の方が強いと思っていたらしく、これまでずっと対等な態度で接してきていたが、それが今や明らかに変わっている。
仕込みは万全だ。
その場で目的を果たそうとせず、絶妙な間を挟んだ翌日に、すっかり自分の言いなりになった村上を伴って梅沢の家を訪ねた萩原は「金貸してくれ」と要求。
さらに「〇〇さんが俺らに金の都合つけろって言ってきてさ、今日中に用意しねえとまずいんだわ。オメーもサラ金でも何でも使って用意した方がいいぞ」と、昨日の暴力団組員の名前を出したんだからたまらない。
薬が効いている梅沢は「言っとくけど、これ以上無理だからね、ホント…」と、くぎを刺して消費者金融の無人契約機から借りた20万円を萩原に渡した。
むろん、返ってこないことはわかっている。
そして、金を巻き上げるのは梅沢だけではない。
「村上、オメーも出さねえと、まずいんじゃねえか?」
「え?オレも?なんで?」
「昨日、紹介してやった〇〇さんのご指名なんだわ。オメーにも金出させろって言われたんだよ」
などど、梅沢同様昨日のヤクザにビビっている村上からも同じく、30万円ほどの金を巻き上げたのだから、半端ではなく悪どい男である。
案の定、その金はその後萩原自身の遊興費などで瞬時に溶けた。
そして、萩原は一度食らいついたら離れなかった。
ほどなくして、また二人に金を要求したのだ。
「萩原君、もう俺たち無理だって。かんべんしてよ!」
「だったら、誰か他の金借りれそうな奴連れて来りゃいいべがよ!」
萩原にとって、他人は利用可能か利用不可の二種類しかない。
同級生だろうが関係なく、利用可能ならば徹底的かつ冷酷に利用し続けるのだ。
しかし、梅沢は荻原の「誰か金の借りれそうな奴」というワードを聞いて、ひらめくものがあった。
「あ、そうだ。俺の働いている会社にさ、俺のパシリがいるんだけど、そいつにしね?」
梅沢は、まだ日産で普通に勤務していた時、配属された鋳造課の同僚に言うことを聞いてくれそうな奴がいたのを思い出したのだ。
「テメーにパシリ?フカシこいてんじぇねえ」
「フカシじゃないって。同じ課でロッカーが隣でさ、何言っても断らなねえ奴なんだよ、そいつ」
梅沢も結構な卑怯者である。
恐喝の矛先を自分からそらすためだったら、他人を売ることを躊躇しないのだ。
「もう、ホントすっげービビりだから、萩原君が脅せばイチコロだべよ」
「ホントだべな?なら、そいつ呼び出せ」
あいつに断る度胸はねえはずだ。
梅沢は、携帯電話でそのビビりの番号に電話をかけた。
電話帳に入れといてよかったぜ。
「おお、久しぶり!…あん?俺だよ俺、隣のロッカーだろがよ。…うん、梅沢だよ。忘れんなよ」と話した後、本題に入った。
「それでさ、久々だから会わねえか?須藤」
最高のカモ
1999年9月29日、日産の工場勤務を終えた須藤正和は、同僚の梅沢に呼び出された。
梅沢は、同期入社の同じ鋳造課でロッカーも隣同士だった男で、長いこと交通事故のケガが原因で休養しているらしく、会うのは久しぶりである。
と言っても、顔を合わせていたのは一か月くらいだし、なんとなくガラが悪いのと、あれこれ命令してきたりして態度がデカいところのある男だったから、特に親しいわけではない。
しかし、他人の頼みを断れない正和は、何の要件も言わず「とにかく会おう」という梅沢の呼び出しに応じたのだ。
待ち合わせの場所で数か月ぶりに会った梅沢は、ケガで休んでいるとは思えないくらい元気そうだったが、友達と思しき二人の見知らぬ男と一緒にいた。
え…、梅沢君だけじゃなかったの?
ちょっと意外だったし、梅沢の友達らしく、なんとなくヤカラっぽいおっかない感じの二人である。
自分と同じくらいの背丈の小デブと、でっかい体の大デブだったのだが、小デブの方は目つきがかなり悪く、その両目の間隔が狭い目がこちらを向いた時は、思わずひるんで目をそらす。
そして子デブは、小首をかしげて正和の目見据えながら口を開いた。
「すまねえけど金貸してくれや」
「え…」
一方的で、脅すような要求をされて絶句した正和に、梅沢はペラペラと補足するように呼び出した要件を語り出した。
梅沢も、少々凄みを聞かせた話し方を心掛けている。
「いや、オレらヤクザの車と事故っちまってさ、めちゃくちゃ修理代請求されてやべーんだわ。だから金貸してほしくってよ」
「え?いくら?」
「なるべくたくさんがいい。オメーしか頼める奴いねーんだ」
「…わかった」
これは、小デブもと萩原が考案して梅沢に言わせたセリフだったが、まさかこんなに簡単にうまくいくとは荻原自身も思わなかった。
ここまで断る根性が全然ねえとは思わなかったぜ。
こりゃ、今までで一番やりやすい奴なんじゃねえか?
「助かるう!お前を知っててよかったぜ!」
そう、助かった。
これで、自分たちが荻原にたかられることはなくなりそうだ。
梅沢と村上は、そうほくそ笑んだはずだ。
だが、予想外のことが、消費者金融の無人契約機まで一緒に行ってまとまった金を引き出させようとした時に起こる。
大企業・日産自動車に勤めて無駄遣いをしないはずの正和が、審査で落ちてしまったのだ。
すると、後ろで無言でひかえていた萩原が「オイ!どういうことだコラ!テメー!!アン?」と、なぜかものすごい剣幕で梅沢にからみ始めた。
「いや、その、おかしいな…。なあ!須藤!お前、貯金いくらある?」
「えと、7万くらいかな」
「じゃあ、とりあえず、その7万引き出して貸してくれ!」
これも、萩原が仕組んだものだ。
ドスを利かせて梅沢を脅すところを見せて、見るからに気が弱そうな正和をビビらせたのである。
その目論見は当たった。
正和は顔をひきつらせて一切ごねることなく、銀行から貯金全額の7万円を引き出して大人しく渡したのだ。
優しすぎるにもほどがある、というわけでは決してない。
気が弱すぎるのだ。
正和は人一倍優しい青年であったと同時に、他人と争うことを徹底的に避ける男であり、とんでもない要求をされても、こんな怖そうな連中に逆らうことができなかったのである。
だが、それはこの二足歩行のダニたちに対して、一番やってはいけないことだった。
「これじゃあ足りねえからよ、明日会社休んで別のサラ金で金借りてくれ」
萩原が、さも当然のように無茶苦茶な要求をしてきた。
その態度で、ナニとんでもない無茶ぶりしてんだよ!
などという当然のツッコミも臆病な正和にできるわけがない。
「わかりました」というようにうなずいた。
こりゃ、サイコーにしゃぶりつくせそうな奴見つけたぜ。
どうりで梅沢程度の奴のパシリにされるわけだ。
萩原は、さっきちょいとガンを飛ばして「金を貸してくれ」と言った時の正和のビビりようから予想はしていたが、それ以上のカモであることを確信した。
こんな滅多にいないくらい極上のカモは、逃がしてはいけない。
正和は、実家ではなく日産の独身寮で暮らしていたが、萩原たちは寮に帰らせなかった。
代わりにひとまず向かったのは、近くの公園。
「オメー、髪長げえな。俺は美容師だから散髪してやるよ」
萩原の悪ふざけである。
あまりにも目的がうまく果たせたことで調子に乗り、先ほどコンビニで買ったハサミとバリカンで、公園のベンチに座らせた正和の頭を刈り始めたのだ。
正和は深刻な顔をしてはいたが抵抗せず、刈られたいだけ刈られて、、頭がみるみるスキンヘッドになっていく。
おいおい、マジかよ!
こんなことされてんのに、ナンもしてこねえぞコイツ。
さらに悪ノリが高じて眉毛も剃ったが、それでも、されるがままだ。
こりゃ、長い付き合いができそうな奴だぜ。
顔を邪悪にほころばせたのは、萩原だけではない。
一緒に正和の髪の毛や眉毛を剃って、笑い転げる梅沢と村上もだ。
矛先が自分たちからそらされただけではなく、自分たちもカモることができそうな奴が手に入ったのだから。
長い監禁生活は、こうして始まった。
しかし、本当の地獄はこれからである。
続く
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