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- 列島を凍り付かせた未成年1988年・名古屋アベック事件 – 第一話
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- 列島を凍り付かせた未成年1988年・名古屋アベック事件 – 第四話
- 列島を凍り付かせた未成年1988年・名古屋アベック事件 – 第五話
第三話 まず、昭善が殺された
意地の張り合いで決められた殺害計画
2月23日7時30分頃、犯行グループ6人は愛知県海部郡弥富町のドライブイン「オートステーション」に到着、朝食を兼ねて改めて今後について話し合うことにした。
須弥代は小島の車から近藤の車に移され、徳丸が二人を見張る。
話し合いと言っても出席者はシンナーのやりすぎで頭の溶けた者ばかりだし、場を取り仕切る頭の悪い小島からとんでもない案がしょっぱなから出ていた。
「やっぱ男は殺って、女は売り飛ばすしかないて」
空き地での話し合いの時に誰かが冗談半分で言った最悪のプランであるが、驚くべきことに話はその方向で進む。
また、風俗店に売り飛ばせなかった場合は須弥代にも死んでもらうことまでが決められる。
小島は逮捕された後の裁判で、ここでの話し合いでは本気ではなく口だけで言い出したことだったと言い訳をしているが、カップルの処理については誰も「殺すのはだめだ」と言い出すことなく、勢いのまま殺害の方向で固まりつつあった。
この集団、実は事件のつい先日知り合ってつるむようになった者もいたりして関係性は希薄で、互いに相手の腹を探り合うようなところがあった。
ましてや不良なんだから他の奴らに気弱な所は見せられず、常に虚勢を張り続けなければならなかったのである。
店を出た5人は、見張りをしていた徳丸に二人を殺すことにしたと伝えたが、徳丸もあっさり了承した。
これも小島と同じく公判中に徳丸が述べたことだが、この時は本当にやるとは思っていなかったようだ。
つまりこの日の朝の時点において、殺害することは口だけか本気か曖昧なままであったようだが、その本気度はその日のうちに一気に高まって実行に移されることになる。
店を出ると6人は須弥代を再び小島の車に乗せて、2台の車に分乗して移動。
途中で高志だけが帰宅することになり、自宅近くで車を降りた。
無神経な行動
5人になった犯行グループは引き続き二人を連れ回し、9時40分頃に休憩のために「ホテルロペ」に入った。
近藤は、車を借りたに上役に車を傷つけてしまったことを報告しに向かったために、グループは小島・徳丸・龍造寺・筒井の4人となる。
この4人は、無神経にも拉致した昭善と須弥代を連れて堂々ホテルに入り、夕方17時ごろまで二部屋に分かれて過ごすことになるのだが、当然ながら同ホテルの従業員に怪しまれていた。
だいたい、こんな目つきの悪い連中の存在自体怪しいのに、その中に顔をこわばらせた男女がおり、しかも顔に殴られたような痕があるからである。
不審を抱いた従業員だったが、すぐに通報しようとはしなかった一方で、彼らが乗ってきたグロリア(小島の車)のナンバーをメモしていた。
後にホテル側がそのメモを警察に提供したことによって、事件の犯人検挙につながることになるのだが、もし、この時に通報していれば殺人事件は未然に防げていたかもしれない。
グループのうち小島と筒井は同じ部屋で、徳丸と龍造寺は別の部屋で昭善と須弥代を見張っていたが、同室で徳丸がまたしても須弥代を彼氏の目の前でレイプしたというから、とんでもない野郎だ。
小島も小島で、当初の計画どおり大まじめに須弥代を売り飛ばそうとヤクザ関係者に電話していた。
考えてみれば、何の罪もない女性を暴行・拉致したうえに、風俗店に売り飛ばそうという発想自体無法極まりないが、この極悪なもくろみは不首尾に終わる。
そんな悪いことは、さすがのヤクザもできなかったのではない。
警察に見つかることは明白だったし、三下ヤクザのまま組を脱退していた小島を信用する者などいなかったからである。
だからといって、幸いなことではなかった。
小島に「須弥代も殺す」というプラン2の実行を決意させたからだ。
しかし、即実行というわけにはいかないし、それをこれから殺す本人たちに知られるわけにもいかない。
17時ごろホテルを出てから犯行の痕跡を隠すために洗車場で車を洗った後、拉致した二人には「帰したるで、おとなしゅうしとけ」と言いつけ、昭善の方に車の修理代を支払うという誓約書を書かせるなど、いずれ自分たちは解放されると思いこませていた。
そして解決案は、より着実に二人の殺害に向かっていく。
23時過ぎに小島たちは近藤と再び合流して今後について話し合ったが、小島は近藤と二人きりになると「もう殺ってまうつもりけど、いつやろう?」と迫っていた。
近藤は所用により龍造寺といったんその場を離れ、犯行グループが再び集合したのは24日午前2時半ごろ、場所は港区にある『すかいらーく 熱田一番店(現ガスト)』。
昭善と須弥代は暴行・拉致されてからほぼ丸一日連れ回されて、体力的にも精神的にも限界に近付いている。
そんな二人に小島は「いつ帰れるか近藤と話し合ってから決めるだでよ、ちょっと待っとれ」と、あと少しで解放という希望を持たせていた。
しかし、この『すかいらーく 熱田一番店』で最終的に二人とも殺害すること、その方法と埋める場所が決定されることになるのだ。
一旦解放されていた二人
昭善と須弥代の方は、手ひどい暴行を加えられて打ちひしがれていたが、まさか殺されることはないと考えていたのは間違いない。
そして、犯人の小島たちも殺害という最終決定を下す前に一度彼らを解放しているのだ。
拉致した側にとっても連れ歩くのは疲れるし、本当に殺すのもリスクがある。
というか、行き当たりばったりな小島と近藤は、早くこの状況を終わらせられるなら、生かしておこうが殺してしまおうがどっちでもよいと考えていた節があった。
だが、もちろん警察に行かないよう脅しを交えて、くぎを刺したのは言うまでもない。
「車の修理代はチャラにしたるけどよ、お前らの住所はもう知っとるだでな。マッポにタレこんだら…分かっとるよな?なぁ?」
「分かってますよ!分かってますよ!ホントしませんよ!もう、行ってもいいですよね?」
やっと解放された昭善と須弥代は深夜の『すかいらーく』を出て道路を横断し、歩道を歩いて遠ざかっていく。
彼らを解放するという決定は首謀者格の小島と近藤が下したものだったが、ここで事情を知らない者たちが騒ぎ出した。
「ええんですか?警察に言うんとちゃいます?ヤバくないです?」
女の龍造寺にまで異議を唱えられた小島は、またも下の者たちにナメられたくないという虚栄心を発動させる。
優柔不断な反面、ハッタリだけは一丁前にかましたがる奴なのだ。
「やっぱ帰すのやめとこ。連れ戻せ、徳丸!」と、二人を連れ戻すよう徳丸に命じてしまった。
そして、連れ戻した後は決まっている。
当初、冗談で口に出し、もう引っ込みがつかなくなった決断を実行するのみだ。
解放されたとはいえ、凄まじい犯罪被害に遭って心身共に傷ついた昭善と須弥代は、とぼとぼ歩いて遠ざかっていたらしく、徳丸にすぐに追いつかれる。
「おい戻れ、帰るのはもうちょっと待っとれ」
彼らは、本当ならこの時に全速力で逃走するべきだったが、徳丸の命令に素直に従ってしまう。
さんざん暴行を加えてきた小島たちへの恐怖心から、一日で心が壊され、反抗できなくなっていたと思われる。
しかし、二人の命運はここで尽きた。
近藤は事件の解決案の話し合いに来ていたにも関わらず、不用心にも事件と関係のない知人たちを連れてきており、事情を知られないように彼らを乗せて帰ってもらおうと車で離脱。
やるだけやって、後の面倒ごとは押し付けられた気が大いにした小島は舌打ちしたが、自分たちがやるしかない。
3時ごろになって徳丸・龍造寺・筒井と共に昭善と須弥代を自分の車に乗せて『すかいらーく』を出発。
行先は、愛知県愛知郡長久手町大字長湫字卯塚25番地(現:長久手市卯塚)にある「卯塚公園墓地」。二人を処刑する場所だ。
昭善の殺害
同墓地は、小島がかつて所属していた弘道会の本家の墓があり、その清掃作業に組員であったころは駆り出されたことがある。
彼らは、途中で自分たちが根城にしているアパートに寄って、死体を埋めるためのスコップを積み込み、深夜スーパーでは殺害に使うロープも買って午前4時半に墓地に到着した。
あれ?帰してくれるんじゃないの?どういうこと?
墓地に向かうまでの間に昭善と須弥代も、さすがに、これはおかしいと気づいたはずである。
帰してもらえると思っていたら、こんな時間に人気のあるはずのない墓地に連れてこられて、おまけに外では小島たちがさっき買ったロープをライターで焼き切っているではないか。
「どういうことですか?どういうことです?ちょっとちょっと!ナニするんですか!?」
小島に何事か命じられた徳丸が昭善を車から降ろすと、半分に焼き切ったロープで両手を縛りはじめ、口にもガムテープが貼り付けられる。
そして、犯人たちは怯える昭善に対して「今からどうなるかわかっとるだろ」と言い放つ。
そう、それは焼き切ったロープのもう片方で絞殺するつもりなのだ。
「そんな!帰してくれるって言ったじゃないですか!やめてくださいよ!!殺さないでくださいよ!!!」
「アレはウソなんだ。さあ来いよ」
小島と徳丸は、ガムテープを貼られた口から必死に命乞いをする昭善を車から少し離れた場所まで引っ立てて正座させると、先ほどのロープを二重に首に巻きつけて、それぞれロープの両端を持つ。
「やめてください!ホントやめてください!やめぇっ…ぐえええぇぇぇっっ」
両方から、綱引きのようにロープが引っ張られ絞められた。
「げげげげっ、げえぇぇえぇぇぇ~!ゔげええぇえっえっえっゔゔぅぅ…ゔゔぅぅう~」
渾身の力で絞められ続けて、この世のものとは思えない断末魔の声を出し続ける昭善。
さすがの小島と徳丸も聞いていられない声で、多少ひるみ始めただったが、やめるわけにはいかない。
どころかここでも虚勢を張って、なかなか死ねない昭善を笑いながら「このタバコ吸い終わるまで引っ張るでよ」と、二人はタバコを吸いつつ絞め続ける。
鼻やガムテープの隙間から血や吐しゃ物を流し、苦しみぬいた昭善が絶命したのは約20分後。
二人は、本当に死んだかどうか蹴ったりして確かめている。
その時、龍造寺と筒井の女二人は車内に残って目と口にガムテープを貼られた須弥代を見張りつつ、離れた場所で男二人が昭善を絞殺する様子を見ていたが、須弥代は目隠しされながらも、何やら最悪なことが起きていることに気づいていた。
「お兄ちゃん(昭善のこと)、お兄ちゃんはどこですか?どこですか!?」
「話しとるだけだがや、うっさいて!」
「何もしてないですよね?お兄ちゃんに何もしてないですよね!?」
「やかましいわ!もうしゃべるなて!」
須弥代の不安の声をうっとうしく感じた女二人は声を出させないようにするため、口にガムテープをさらに貼り重ねる。
本来、次はすぐさま須弥代の番になるはずだった。
しかし、それはなかった。
極悪な小島と徳丸にとってもこれが初めての殺人であり、命を奪われる際に昭善が出した凄絶なうめき声にビビッたからだ。
あれはもう一回聞きたい声ではない。
そして昭善を殺した後、二人は死体と犯行に使用したロープ、スコップをグロリアのトランクに積み込んだのだが、その際に出た物音に須弥代は、何かを感じ取っていたようである。
「あの、何を入れてるんですか」と塞がれた口で尋ね、小島と徳丸が車に乗り込むと「お兄ちゃんはどこですか?」と気が気でない様子になり始めていたのだ。
「もう降ろしたったて」
徳丸は見え透いたウソを言ったが、須弥代はとっくに気がついていた。
最愛の彼氏が、もうこの世にいないことを。
とっくに日が変わって早朝となった、この1988年2月24日。
この日は、須弥代の二十年の人生で最も悲しく絶望的で、そして最後の一日となる。
続く
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