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ラーメンブームなる風潮がいつからいつまでか、それともまだ続いているのか知らないが、美味いと評判で雑誌やテレビに取り上げられたりする「行列のできるラーメン屋」は、今でも各所に存在する。
だが、そういう店の中には店主や店員が横柄で、「嫌なら食うな」式の接客態度で客をぞんざいに扱うところがある。
まったく、売れてるからって偉そうに。
店主のこだわりだか何だか知らんが、そういう店には人一倍腹が立つぞ!
なぜなら自慢じゃないが、
私はそういう店から追い出されたことがあるからだ。
今でも忘れやしない、18年前の2002年10月のことである。
当時も東京には行列のできるラーメン屋があちこちに存在し、ラーメンマニアたちが長蛇の列を作っていた。
私もラーメンが大好きだが、いくら美味くても行列に並ぶのには抵抗があった。
食べ物のために行列を作るなんて、
難民キャンプかよ?
この飽食の国においては、いささかあさましい行為ではないか?
という考えを当時から持っていたためである。
そんな誇り高い私が、じゃあなぜその店に行ったかというと、当時働いていた職場でよくつるんでいた柴田という男に無理やり連れて行かれたからだ。
彼はラーメン店めぐりを生きがいにしている強度のラーメンマニアで、「騙されたと思って」とか「何事も経験だから」などとかなり強引だった。
そんな柴田に根負けした私もバカだった、と今は思う。
あの日から現在まで、時々思い出しては夜中にカンシャクを起すことがあるし、
「騙されたと思って」と「何事も経験だから」という言葉は、私にとって今でも禁句だ。
さて、そのくだんのラーメン店「○○家」は新宿某所にあり、我々が開店一時間前の10時に行くと、もうすでに列ができていた。
行列ができていることに、私の顔がさっそく不機嫌でゆがんだのを見た柴田は、
「ラーメンってのは、行列に並ばなきゃ美味くないんだぜ」
などと、もっともらしさのかけらもない屁理屈を言って、私を余計イラつかせる。
「ここは豚骨醤油ラーメンの店でさ、スープはこってりで麺は太目オンリー。でもちょっと魚介のダシも入ってるみたいで…」
11時の開店までの間中、後ろに並ぶ柴田のどーでもいいラーメンの蘊蓄を聞かされ、私の機嫌は静かに、そして確実に悪化してゆく。
その間にも客は増え続け、我々のいる位置はすでに真ん中くらいになっていた。
そして待ちに待った開店時間11時、店の入り口が開いて店員が姿を現し、先頭の客から店内に誘導し始める。
我々も前に進んで行ったが、私はその誘導している店員の言葉遣いが気になった。
「はい、モタモタしない!」「そこ、二列にならないで!」
と、完全な命令口調なのだ。
何と感じが悪い店員だと私は思ったが、店内は意外と収容人数が多いらしく、入口はもうすぐそこ。
とりあえず評判のラーメンに、いの一番でありつける。
と、柴田より前方を進む私が、入口をくぐろうとした時だった。
「はい、ここまで!」
誘導の店員の一人が、
私の襟首をつかんで、後ろに引き戻しやがった!
それも「ここで待って」と、そのまま私の襟首をつかんで、引っ張って行くんだから信じられない。
私はかなりムッとなったが、その短髪の若い店員は私の方を見ようともせず
「入れ替え制ですんでぇ、しばらくお待ちくださいねぇ」
と後方の並んでいる客にぞんざいに言い放った。
これはこれでかなり腹の立つ体験だが、この時点で帰ればよかったと、今では思う。
柴田も柴田で、「おいおい慌てるなよ、みっともねえぞ」と、まるで私が悪いかのようなことを言うんだからむかつく。
待っている間、十五分後くらいから食べ終わった客が次々出てきて、三十分が過ぎた頃には店内に客は残っていなかった。
どうやら時間制で、それもたった三十分程度で食べ終わらなければいけないようだ。
「今片づけしてるんでー、そのまま待っててくださーい」
出てくる客に挨拶もせず、くだんの短髪は相変わらず横柄だ。
そして中から「オッケーです」の声と共に、「はいどうぞー」とようやく入店が許されたが、店中の店員も「いらっしゃいませ」の一言もない。
代わりに「そこの食券販売機で食券買って」とか「あー、こっち座って奥に詰めて」とかの指図が待っていた。
メニューは『店主ラーメン』のみで、一杯800円。
後ろの方で一名の女性客が万札しか持っていなかったらしく、両替を求めていたが「近くにコンビニあるから、そこで」とにべもなく断られていた。
店は厨房を囲むような形のカウンター席とその背中向かいのカウンター席で構成されており、厨房の店員は不愛想で、外の店員同様接客をする態度には見えない。
厨房の奥に、五十がらみでモジャモジャな白髪交じりの男が、腕組みをして仁王立ちしており、それがどうやらこの店の主と思われる。
我々は店の端の厨房に面したカウンター席に座ったが、我々の後ろの壁に何やら大きな額縁に入った箇条書きがあるのに気づいた。
その箇条書きはこの店で守るべきマナーらしく、毛筆で記されていた。
客心得
その一、私語は禁ずる。
その二、携帯電話を使用するべからず。
その三、タバコ、ガムは禁ずる。
その四、飲食時間は三十分とする。
その五、具、麺はもとよりスープまで飲み干すべし。
目を疑った。
「客心得」、「禁ずる」、「~べし」だとう?
他にもいろいろあった気がするが、
箇条書きのとどめは「以上を守れない者は去れ 店主」だったのをはっきり覚えている。
この店はおかしい。
隣の柴田を見たら「仕方ない」という感じで、首を振っていた。
これも、有名ラーメン店では常識だとでも言う気か?どんな常識だ?
メニューは一つだけで、それも人数は決まっているので、客が全員席に着くまでの間に調理が始まっていたらしく、入店して五分も経たないうちに、唯一のメニュー『ラーメン』が出来上がり始めた。
手抜きもいいところじゃないか?
第一、これだったら食券にする意味ないだろう?
と限りなく心の中でツッコミを入れていた間に、最初に入店した私のところへ、真っ先にラーメンがやって来た。
ごく自然に早速箸をつけようとしたら、「全員そろってからにしてください」と、またしても、不愉快な指図を厨房の店員から受けた。
こうして、店内の客全員にラーメンが行き渡るまで待ちぼうけをくらわされたのだが、これでは待ってる間に麺がのびるではないか。
「はい、よし!」
ようやく食べることを許されたのは、全員にラーメンを運び終えた後の店員の号令によってであり、それを合図に客が一斉にラーメンをすすり出した。
それにしても「はい、よし」って、我々は犬か政治犯なのか?
私も隣の柴田もラーメンの一口目を口にした。
ここまで偉そうにするからには、相当美味いんだろう。
と信じつつ。
が、結論、
大した味じゃない。
いや、むしろ不味い、少なくとも私の味覚では。
最初、そんなはずはないと何口かすすってみたが、劇的に美味く感じることはなかった。
豚骨醤油味のはずだが、醤油が入っていると思えないくどい豚骨味で、それがかつおだしのような香りと合わさって、私の口内で不快に広がってゆく。
麺もコシがなく、きっとさっき待たされた間にのびたからだろう。
同時に、これまでの接客態度への怒りが、じわじわと増してきた。
この程度の味で、あそこまで偉そうにしてやがったのか!
隣の柴田もさほど美味いと感じていなかったらしく、「客心得その一」を破って私に話しかけてきた。
「オリジナリティーが感じられない、スープなんか池袋の××屋か荻窪の●●軒の劣化版だし、麺もダメ、チャーシューは横浜の…」
と、ここのスープと同じくらいくどく、ラーメン通を気取った批評を小声でしてきた。
「要するに大した味じゃないよな」
私もボソボソ応じる。
その時だった。
「おい兄ちゃんたちさ、文句あるなら帰っていいよ」
知らない間に、の中央で仁王立ちしていた店主が私たちの目の前にいた。
さっきのを聞いていたらしい。
「おい、二名さんお帰りだ!」
店主は私語厳禁の掟を破られた上に悪口を言われて怒り心頭らしく、皆に聞こえるような大声で言ったため、他の客が一斉にこっちを見た。
「あ、すいません。黙って食べます」と柴田は謝ったがもう遅かった。
「二名さんお帰りだから、金返しとけ」と店主は一方的に店員に命じる。
無茶苦茶だ!まさか追い出されるとは思わなかった。
そして店員に促されて店を退去させられる我々に、店主は最後に吼えやがった。
「こっちはな、命がけでラーメン作ってんだよ!!」
この男は、歪んだ職人気質を完全にこじらせ、勘違いしている。
命がけであの味かよ?
そしてラーメンだけじゃなく、接客にも多少は命をかけろ!
店内の客だけではなく、外で行列を作っている客の目にも、店内から響いた店主の咆哮から我々が追い出された客だとわかったらしく、好奇の視線を浴びて、とんでもない屈辱だった。
「なんなんだよ!この店!」
私は大勢の前で恥をかかされたから、腹が立ってしょうがなかったが、柴田は、
「いや、店追い出されるのはラーメンマニアにとって勲章みたいなもんだから」
と、またしても苦しいことを言い出した。
だがその割に声は震え、顔は怒りで真っ赤なので、強がりなのは見え見えだ。
路肩に駐輪している自転車を蹴飛ばしたりして、大荒れである。
その後「マニアじゃないオレにとっては完全に生き恥だ」と言った私との間で、
「オメーが大した味じゃないって言うからだろ」
「話しかけてきたのはお前だ」
という口論に発展、その日以降、私は公私ともに柴田とは疎遠になった。
全く信じられない店であった。
あれはラーメン屋ではなく、SMクラブの一種だったとしか思えない。
しかし、そんなラーメン屋風SMクラブの存続を、いつまでも許すほど社会は間違っていなかったようだ。
その五年後、所用があって長らく禁断の地になっていたラーメン屋「○○家」のある新宿某所に行ってみたら、インド料理屋になっていた。
ネットで探しても見当たらなかったから、閉店したんだろう。
悪が滅んでめでたしめでたしである。
とは言え、このむかつく体験は忘れられやせず、店主をあの店員たち共々高温の鍋で煮込んでやりたい気持ちは、今も変わらない。
私はラーメンを今でも好きだが、行列のできるラーメン屋だけは行く気しないのは、どうしてもあのラーメン屋「○○家」を思い出してしまうからである。
それに最近では、行列ができるような名店の味を再現したカップ麺や冷凍チルド食品が売られているから、わざわざ行かなくてもよいだろう。
通販の「日清行列のできる店のラーメン」とかでも、それなりの味が楽しめるのだ。
そりゃ、直接店に行って食べるのが一番かもしれないが、行列に並んだのに大した味じゃなくて、おまけに偉そうな態度を取られたりして嫌な思いをするのはごめんである。
だから、まず冷凍チルド版を試してから行っても、遅くはないのではないだろうか?と私は考えるのだ。
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