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死刑確定囚・野比のび太 – 第八話・地域特産品を世界へ:剛田商店の挑戦


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トライアル&エラー、苦闘の日々、そしてその先

大学を二年で中退した弱冠二十歳の剛田武が脳卒中で倒れた父から引き継いだ剛田商店は地域で長年愛されてきた小売店だったが、時代の流れに取り残されて競争力を失い、膨れ上がる負債の山に押しつぶされそうになっていた。

「昔は、うちの店に人が溢れてたんだ…」

父の病室で語られる言葉を思い出しながら、武は店頭に立ち、閑散とした商店街を見つめる。

地元顧客の高齢化、大手スーパーやネット通販の台頭に押され、剛田商店の売上は急降下していた。

それでも武は諦めず、伝統的な方法で売上を伸ばそうと努力する。

父の店を継いでから二年間、チラシを撒き、商店街でのイベントを企画し、商品を値引きして集客を試みた。

店内には地元練馬産の新鮮な野菜や果物、長年の常連が好む食品が並んでいたが、集まるのはわずかな昔ながらの顧客だけで、売上げは思うように伸びない。

ある夜、店のレジを締めながら、武は虚しさに襲われた。

汗水を流して働いても、負債の額は変わらないどころか、増えていくばかりだったからだ。

「このままじゃ、店を守れない…」

何かアイデアはないかと店を継いでから欠かさず読むようになった日経新聞の記事の中に、興味を引かれるものがあった。

それは、アメリカの新興企業「アマゾン」が書籍をオンライン販売し、急成長しているという記事である。

さらに、楽天市場やYahoo!ショッピングといった国内のECサイトも、利用者を増やし始めているという。

この時代、人気のある商品がわずか数クリックで全国に届けられれようになっていたのだ。

「これだ…」武は目を輝かせた。

「ネット通販なら、この店の商品を全国に売れるかもしれない!」

翌日から、武はイーコマースについての勉強を始めた。

夜な夜なマーケティングや物流について調べ、成功事例を分析。

そして、従来の店舗販売からネット通販へ事業を転換することを決意した。

「この店の商品は、まだ価値がある。ただ、届ける方法が間違っていただけなんだ」

しかし、ネット通販を始めるには資金が必要である。

そこで武は幼馴染であり、高校生の時から実家の会社を手伝っていた骨川スネ夫に相談した。

スネ夫は、すでに父から経営者としての帝王学を叩き込まれており、大学卒業時点で一部の事業を任されて成果を上げていたのだ。

武の相談を聞いたスネ夫は、少し考え込んだ後、父に相談を持ちかけた。

「パパ、幼馴染の剛田武がネット通販を始めたいと言ってるんだけどさ。あいつの店の商品にはポテンシャルがあると僕は思う」

武は昔馴染みで、中学校二年の時には自分に因縁をつけてきた月見ヶ丘第一小出身のヤンキーから助けてもらった恩義もある。

何より、武の説明を聞いて商品も見せてもらったスネ夫は、経営者らしくさまざまなデータや武のビジョンを検討した結果を父に解説すると、「ふむ、面白いかもしれんな。投資してみる価値はある。やってみろ」とゴーサインが出た。

老獪なビジネスマンであるスネ夫の父の目から見ても、このビジネスは成功する確率が大いにあると踏んだのだ。

こうしてスネ夫の出資を受け、武はネット通販の準備に取り掛かる。

まず、地元特産品や人気商品を中心に、ラインナップを整えた。

さらに、商品の写真撮影や説明文にこだわり、顧客に訴求するためのコンテンツを作り込んだ。

ちょうどこの時期に発達し始めたSNSを活用したプロモーションも行い、地域の物語を織り交ぜた動画を発信した。

最初の数か月は手探りだったが、徐々に売上が伸び始める。

地元特産の無添加食品や手作り雑貨が全国の顧客に支持され、剛田商店の名前が広がっていったのだ。

「すごい、売上が急増してますよ!」

最近雇った若いスタッフの報告を聞いた武は、久しぶりに心から笑顔を見せた。

だが、成功はこれで終わらない。

ネット通販事業が軌道に乗る中で、海外バイヤーからの問い合わせが増え始めた。

特に成長著しい中国や北米での需要が高まり、武は輸出事業に着手することを決意する。

「次は輸出だ。日本の特産品を世界に届けるんだ!」

輸出事業を進める中で、武は物流の重要性に気付く。

これを機に、剛田商店は物流業務を自社で担うフォワーダーへと進化を遂げた。

剛田商店の倉庫を改装し、最新の物流システムを導入。

輸送効率を高め、顧客への迅速な配送を実現した。

スネ夫の紹介で海外バイヤーとの契約も増え、剛田商店は国内外で高い評価を得るようになる。

「剛田商店はただの小売店じゃない。俺たちは世界とつながる企業だ。」

武の目には、自信と誇りが満ちるようになった。

数年後、剛田商店は地域を越え、グローバルな企業へと成長。

地元の特産品を活かしたネット通販とフォワーダー事業の二本柱で、安定した売上を確保していたのだ。

「さすがジャイアン!やっぱり俺たちの大将だな!」

銀座のクラブで、スネ夫が微笑む。

「いや、あの時出資してくれたお前のおかげだぜ」

武は謙虚に応えながらも、この時はさらなる未来を見据えていた。

剛田商店の成功は、挑戦を恐れなかった武の熱意と、幼馴染たちの支えが織りなした新たな物語だったのだ。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第七話・自信満々の人生と転機


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自信満々の人生、そして転機

剛田武は、もともと自信に満ち満ちた人生を送って来た。

雑貨店『剛田商店』の長男として生まれ、子供の頃は大きな体と激しい気性から周りの子供に恐れられ、畏敬を込めて「ジャイアン」と呼ばれるガキ大将。

厳しい両親には逆らえなかったが、自分と同じ年代の子供たち相手にはやりたい放題の悪童で、よく発達障害で浮いた存在だったのび太をはじめ、他の子供をいじめたものだ。

だが、中学に進学すると小学校とは勝手が違ってくる。

身体能力が高く、仲間たちと草野球でよく遊んでいた武は野球部に入部したのだが、想像以上に厳しい世界が待っていた。

毎日の素振り、ランニング、体力トレーニング──ハードな練習と顧問教師や先輩の体罰を伴った叱責で、体力に自信があった武も音を上げそうになったものだ。

厳しいのは、練習ばかりではない。

進学した月見台北中学の野球部は「三年が王様、二年が平民、一年が奴隷」という典型的な体育会系の上下関係がハバを利かせ、これまで経験したことがないほどの理不尽な仕打ちを、毎日上級生から受けたものだ。

だからだろうか、他人の気持ちを考えない傍若無人なところのあった武はやられる側の痛みが、理解できるようになってゆく。

ある日のこと、小学校時代によくいじめていた同級生の野比のび太が、トイレで下半身を裸にされてモップを肛門に入れられるいじめを受けていたのに出くわした。

のび太が、学年で噂になるほどのいじめに遭っているのは耳にしていたが、想像以上に陰険ないじめだったのに、思わずカッとなった。

自分もいじめていたが、あんなひどいことまではしたことがないからだ。

しかも、やっているのは自分たちの出身小学校であるすすきヶ原小学校ではない月見ヶ丘第一小学校の奴らであり、同胞がよそ者にやられた気もする。

「すすきヶ原のモンに、手え出すんじゃねえ!」

武が一喝するや、いじめっ子たちは、その剣幕に恐れをなして逃げ散り、のび太は救われる。

救われたのび太は、泣いてばかりでお礼も言いやしなかったが、「今度月見ヶ丘第一のモンにやられたら俺に言え!」と安心させてやった。

その後も、何度か月見ヶ丘第一小出身者の魔の手から何度か助けてやったが、自分の目の届かないところでいじめを受け続けていたのび太は、学校に来なくなってしまった。

まがりなりにも、幼馴染ののび太が登校拒否になってしまったのは心苦しかったが、武ものび太につきっきりでいられない。

自分には、自分の学校生活があるからだ。

そして、最初は苦しいばかりだった野球部も、持ち前の負けん気が彼を支えた。

練習を続けるうちに肥満児でたるんでいた体は引き締まり、少年らしい丸みを帯びていた顔は、骨格が際立ち精悍になってゆく。

野球の技術もみるみる上達し、一年生の三学期の時点でレギュラーに抜擢され、二年三年と進級するや、中学野球の試合ではエースとしてチームを引っ張る存在になった。

その変化は、周囲にも影響を与える。

クラスの女の子たちが「剛田君ってかっこいいよね」と噂するのを耳にするようになり、照れくさくも誇らしい気持ちを抱いた。

特に幼い頃から顔見知りだった静香の視線を、意識せずにはいられなかった。

静香はテニス部に所属し、颯爽としたユニフォーム姿が印象的だったのを、今でも思えている。

武も時々彼女をチラ見ていたが、向こうも同様だったらしく、時々こちらを見ていた彼女と目が合ってお互い視線をそらし、胸の中がざわついたものだ。

静香の方もまた「武君がこんなに変わるなんて」と心の中で驚いていたようだが、それ以上の関係にはまだ至らなかった。

初体験は中二の時で、同じクラスの女子バレー部の今池まり子。

授業中に先生の目を盗んで見つめ合うようになった間柄で、部活終わりで生徒がほとんどいなくなった学校の体育館の倉庫に二人で忍び込み、むつび合った。

中学生とは思えない成熟したまり子の体を野球で鍛えた体で力強く組み敷きながらも、静香のことが頭に浮かんだ瞬間あっという間に果ててしまい、すっかりその気になって長丁場を期待していたまり子に「もう終わり?」と言うがっかりした顔をされたこっぱずかしい思い出だったが。

中学での活躍をきっかけに、高校、そして大学でも武は野球に没頭した。

高校では甲子園を目指して汗を流し、大学でも野球部に所属し、地域リーグで注目される存在となる。

彼の人生は、スポーツの世界で明るい未来が待っているかのように思われた。

しかし、大学二年生の時、父親が脳卒中で倒れたという知らせが、武の人生に影を落とす。

突然の出来事に動揺しながらも、家族を支えるため、そして家業である「剛田商店」を継ぐことを決意した。

剛田商店は地域に根付いた老舗ではあったが、実際に経営の詳細に目を向けてみると、負債が積み重なり、倒産寸前の状態にあることが分かる。

「どうしてこんな状態になるまで、誰も何も言わなかったんだ…」武は頭を抱え、途方に暮れた。

しかし、諦めるわけにはいかない。

スポーツで培った根性と決断力で、何とかして剛田商店を立て直す方法を模索し始めた。大学での野球の道を断念し、経営者として歩み出すことを決めたのだ。

かつての輝かしいフィールドを後にして、全く新しい武の戦いが若干二十歳で始まった。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第六話・墜ちた男の物語:成功から失落への旅


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墜ちた男

鳴り続けたインターフォンは止んだ。

あきらめて帰ったらしい。

「まったく、うるせえ奴らだ…」

剛田武はスマートフォンを握りしめ、荒れ果てた1Kのマンションの片隅で、体を崩すように座っていた。

かつてはジム通いを欠かさず鍛え上げられていたその体は、今や贅肉に覆われ、重たく沈んだ。

部屋中には空の酒瓶が無造作に転がり、食べかけのスナック菓子の袋が散乱し、床には何度も脱ぎ捨てたままの衣服が溜まり、埃が家具に層を成している。

ほんの数年前までこの部屋に似つかわしくない「成功者」としてのオーラを纏っていた男の面影は今やほとんど残されていない。

目の前のスマートフォンには、かつての幸福な記憶が映し出されている。

芝浦のタワーマンション『ザ芝浦東京マリンスカイ』、最上階にある豪華な共用パーティールーム。

武がまだ成功した剛田商店の若きCEOとして、家族や友人、社員たちに囲まれて頂点の生活を謳歌していた頃の光景だ。

画面には静香が微笑みながら、よちよち歩きの次男・優士の手を引いている姿が映っている。

清楚なワンピース姿の静香が夫としての武を誇らしげに見つめていたのが、当時の彼にとって何よりの幸せだった。

長女の葉音は参加者が連れてきた子供たちと笑い合いながら走り回り、大人たちはその様子を眺めながら、リラックスした雰囲気の中で家族と共に新年会を楽しんでいた。

その光景の中、酔いが回った武がカラオケのマイクを握りしめ、大声で宣言する場面が現れる。

「おい!俺の十八番、聞きたいだろ!」

「社長、それだけは勘弁してください!」

「ジャイアン!その歌聞くと子供が泣くんだ、我慢してくれよ!」

スネ夫や出木杉、社員たちから次々と飛び交うブーイング。

それでも、武は意に介さずカラオケ機械に向かって曲を選び始める。

レミオロメンの『粉雪』のイントロが流れると、葉音が「うぎゃー!始まった!」と叫び、耳を塞ぐ。

静香は笑いながら優士の耳を覆い、場内には爆笑が広がる。

それでも歌い続ける武を見て、誰もが和やかな笑顔を浮かべていた。

その動画を見つめる今の武は、一瞬、かすかに微笑む。

だがその微笑みもすぐに消え、目元に深い陰りが戻る。

画面の中の自分の楽しげな姿と、今の自分のあまりに異なる姿に、彼の心は締め付けられるようだったからだ。

酒瓶に手を伸ばし、武は一気に中身を飲み干す。

アルコールが喉を焼く感覚に目を閉じるが、それで気分が晴れるわけでもなかった。

むしろ、苦味だけが増していくように思える。

「…こんな幸福が、いつまでも続くと思ってたんだよな。」

呟く声はかすれ、部屋の中に虚しく響く。

かつては多くの人に囲まれ、家族と笑い合い、何もかもが自分の手の中にあるように感じていた。その全てが、ある日突然崩れ去った。

あの新年会のあった年、また幸福な一年が始まったと信じて疑わなかった年、静香と葉音、優士の命が奪われたあの日から彼の生活は一変した。

仕事どころか生きる気力さえ失った武は会社を売却。

家族との思い出が残る『ザ芝浦東京マリンスカイ4003号室』も売り払い、今は企業の経営者の時に区分所有者として都内各地に購入していいたタワマンの部屋の賃料収入だけで荒れた生活をしている。

家族も、仲間たちも、タワーマンションでの華やかな生活も全て失った。

それでもなお、この動画を見る時だけは、ほんの少しだけあの頃の感覚を取り戻すことができる。

「戻れるもんなら戻りたいよな…」武は自嘲気味に笑いながらスマートフォンの画面を消した。

荒れた部屋の中、薄暗い蛍光灯の下で、彼の影は深く沈んでいた。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第五話・東京の夜に潜む悲劇: 剛田武


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友情の残響

黒塗りのハイヤーが、千代田区の静かな街並みを抜けて、首都高速へ向かっていた。

夜の東京はネオンと街灯に彩られ、都会の華やかさを放っている。

その中で、車内の後部座席に座る二人の男の表情は対照的に沈んでいた。

彼らは、これから品川区南大井のある場所へ向かう。

後部座席の左側に座る細身でキツネ目の男は骨川スネ夫。

国内外で数々の企業を興し、先代をはるかに凌ぐ規模で不動産や金融、ITなどのビジネスを展開する、骨川グループの敏腕CEOであり、投資家としての名声も高い男だ。

四十代に入ってはいたが、細身の引き締まった体格を保ち、さらに洗練された外見を持つようになっていた。

テーラードスーツは彼の体に完璧にフィットし、控えめながら高級感のあるネクタイと、カフスボタンが成功者の余裕を物語る。

吊り上がった目元は、幼少の頃の意地悪そうな印象を洗練された鋭さへと変え、尖った口元もビジネスマンとしての緊張感を醸し出していた。

骨川の隣に座るのは、出木杉英才。

長身で端正な顔立ちを保ちつつも、冷静で知的な雰囲気を漂わせていた。

切れ長の目、鋭い眉、高い鼻梁──すべてが彼のエリート然とした雰囲気を強調している。シンプルなスーツに身を包み、無駄のないファッションセンスが、彼の合理的な性格を映し出す。

彼は所属弁護士50名を超える大手法律事務所の代表として、法曹界で名を馳せる存在であり、その冷静な判断力と卓越した弁舌で、数々の難題を解決してきた。

この成功者の二人であるが、これから向かう先で待っているであろうことを思うと、険しい顔をして先ほどから互いにほとんど口をきいていない。

「今日もだめだろうな…」骨川は低く呟き、ネクタイを軽く引き直した。

「無駄だと分かってても、やめられないんだよね…出木杉先生」

「剛田さんを見捨てるわけにはいきませんよ、骨川社長」出木杉が静かに答えた。

目は外の夜景を見つめたまま動かさない。

「あんな風になったままの彼を見続けるわけにはいきませんから」

車は首都高速に入る。

ビルの合間を抜けるように滑る道路は、ライトの反射で淡く輝き、静けさを増していく。

ハイヤーは速度を保ちながら、目的地である品川区南大井に向かっていた。

二人が向かっているのは十年前に妻と子供を殺され、荒れ果てた生活を送る剛田武の住む1Kのマンションだった。

かつては「剛田商店」というフォワーダー企業を経営し、芝浦のタワーマンション最上階に住む成功者だった彼は、家族を失ったことで全てを手放し、今では酒浸りの日々を送っている。

骨川と出木杉はその剛田商店を中国系企業から買い戻し、再び剛田をCEOとして復帰させる計画を何年も前から進めており、それが最終段階に来ていた。

「ジャイアンをこれ以上放っておいたら、完全に潰れる」

骨川は車内の静けさを破るように呟いた。

「だからこそ、何度も来ているんですよね」出木杉が視線をスネ夫に向ける。

「成功するかどうかは分かりませんが、動かなければ何も変わりません」

やがて、ハイヤーは南大井の二階建ての中規模のマンションに到着した。

剛田武が生活する『フェリスホワイト南大井』。

エントランスはオートロック式で監視カメラが設置されている、最低限の設備が整った建物だ。

二人は車を降り、インターフォンの前に立った。

骨川がボタンを押すと、しばらくしてろれつの回らない声が応答してきた。

「またお前らか…」

カメラに映る二人の姿を見た剛田武は、疲れ果てたうんざりしたような声で言った。

そして「酒、買ってきてくれたんだろうな?」と、武は吐き捨てるように続ける。

その態度にスネ夫は眉をひそめたが、静かに決意を込めた口を開く。

「武君、いや、ジャイアン。聞いてくれよ。前から言ってた剛田商店を買い戻す件だけどな、あれもうちょっとでうまくいきそうなんだ。ジャイアンが手放した会社を取り戻したら、またCEOでやってもらうつもりなんだよ」

しかし、武は聞く耳を持たない。

「そんなのどうでもいい! 俺をほっといてくれよ! 酒を買ってきてくれないなら帰れ!」苛立ちを露わにすると、武はインターフォンを切った。

そして何度押しても応答しやしない。

スネ夫は拳を握りしめ、インターフォンに押し続けようとするが、出木杉が肩に手を置いて制した。

「無理強いしても彼の心は変わりませんよ。今はこれ以上どうしようもない。」

「…分かってるよ。でもさ、どうしてここまで落ちぶれちまったんだ、ジャイアンは…」スネ夫の声には明らかな苛立ちと諦めが混じっていた。

二人は再び短い沈黙を共有し、諦めきれない表情のままハイヤーに戻る。

エントランスの監視カメラが再び静かに彼らの後ろ姿を見守っていた。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第四話・消えた奇跡といじめの葛藤

 


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消えた奇跡と止まった時間

小学校五年生の時に退院して家に戻るや、あの奇跡のような一年間は二度と戻ってこなかったが、それを忘れられないのび太は、パパやママによくドラえもんの話をしたものだ。

しかし、両親はまるで彼のことなど忘れてしまったかのような態度で受け流し、始めからいなかったとでも言うかのように、彼の語る言葉を受け入れてくれなかった。

学校に行けば、現実はますます厳しいものとなる。

勉強についていけなくなったのはもちろんのこと、クラスメートからのいじめも、ひどくなる一方。

昔から憧れていた同級生の源静香、幼稚園の頃から自分をしょっちゅういじめていたジャイアンこと剛田武と骨川スネ夫。

彼らとは、四年生の時にドラえもんを介して距離が縮まり、みんなでドラえもんと一緒に他の星やジャングル、魔界を冒険して修羅場をくぐった戦友たちともいえる存在だったが、静香はドラえもんが来る前のようにのび太にそっけなくなり、ジャイアンとスネ夫も相変わらずどころか、以前にも増してからかったり暴行を加えて来るようになってきた。

そして彼らも両親同様、ドラえもんの話をしても「知らない、覚えていない」とでも言うような冷たい態度だった。

小学校を卒業して中学校に上がると、いじめはさらに激化する。

中学校の入学生には母校の「すすきヶ原小学校」以外の小学校である「月見台第一小学校」出身の者たちがおり、彼らがその主な加害者となった。

彼らは「すすきヶ原小学校」の同級生より悪質で、自分のことを「見たこともないくらいいじめがいがある奴」だと思っていたらしい。

だが、新しい同級生たちからズボンとパンツを下ろされるという陰険で屈辱的な暴力を受けていた時、小学生時代に自分をいじめていたジャイアンが彼を助けてくれたことがある。

元々大きくて身体能力の高い体を野球部の厳しい練習で磨きをかけているジャイアンは、同級生に一目置かれていたため、力強く大きな声で怒鳴ると、彼らはすくみあがった。

「すすきヶ原のモンに手え出すんじゃねえ!」

ジャイアンは、たとえのび太のような者でも、自分の母校出身の者が他の学校出身の者にやられるのが我慢ならなかったのだ。

そして、野球部で上級生からしごきを受けて、やられる側の気持ちを味わっていたからであろう。

それ以降、自分の見ている前で、月見台第一小出身の者に、のび太をいじめさせなかった。

そういう時だけは救われた気がしたが、ジャイアンはいつもそばにいて守ってくれるわけではない。

彼の見ていないところでいじめは絶え間なく続き、のび太は中学校一年の三学期に登校拒否に陥った。

家に閉じこもるようになったのび太は、そのままニート生活に突入。

ドラえもんが再び帰ってこないかと、毎日机の引き出しをそっと開けては、何もない空間を見つめる日々を送るようになる。

あの青い体が突然現れて、「大丈夫だよ、のび太くん」と言ってくれるのをずっと待っていたのだ。

だが、何も起こらない現実が、いつも彼を締め付けた。

希望は消えることなく心に残っていても、現実には届かない。

のび太の心は中学一年生のまま止まり、気づけば歳月は容赦なく過ぎ去っていた。三十路を迎えてもそのままの彼は、やがて人生を狂わせた「あの日」を迎えることとなる──彼を拘置所に追いやった日を。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第三話・閉じ込められた夢と現実


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逃げ場のない三畳の現実

東京拘置所の北収容棟五階の単独房。

三畳という狭さで壁も天井も真っ白に塗られ、無機質な静けさに包まれているこの部屋が、のび太の日常の生活空間だ。

同所は2006年に完成したが、古びた感じはしない。

しかし空調は十分ではなく、ほのかな寒さが体に染み渡る。

狭い単独室には唯一よろい戸の隙間から、わずかな光が差し込んでいた。

その細い一筋の光が部屋の中央に影を落とし、のび太の顔を淡く照らすが、曇りガラスのために外の風景を望むことはできない。

窓の外には自由な世界があるはずなのに、ここからは何も見ることができず、ただ光と影が無力に揺れているだけだった。

のび太は、横になって目を閉じる。

その時脳裏に浮かぶのは、いつも小学校四年生から五年生のあの楽しかった日々。

あの年は、彼の人生で最も輝いていた。

ドラえもんが未来から突然現れて、どんな困難も解決してくれた夢のような一年。

学校で嫌なことがあっても、どんなにいじめられても、ドラえもんのポケットから出てくるひみつ道具があれば、全てが魔法のように解決されたものだ。

そればかりではない。

大昔にタイムスリップしたり、他の惑星や宇宙の果てまで冒険したり、海底やジャングルを駆け巡ったり、魔界へ行ったり──すべてが現実離れした非日常の体験の連続だった。

何十年分の夢を詰め込んだようなその時間は、のび太にとって今現在も唯一無二の宝だ。

しかし、ある日すべてが変わる。

小学生だったのび太が小児姓の難病に侵され、病院での長く苦しい入院生活を終えた後、家に戻るとドラえもんは、もういなかった。

困った時にのび太を助けることも、ひみつ道具を出してくれることももちろん、時折姿を見せることすらもなくなる。

もはや、あの素晴らしい日々が戻ってくることはなかった。

今、のび太はこの白く無機質な部屋に閉じ込められている。

過去の夢にすがる自分が情けないとわかっていながらも、ドラえもんが再び現れてすべてを救ってくれる日を未だに待っていた。

「こら!何を寝ている!起きろ!」

ドアの向こうの外から、拘置所の職員の怒鳴り声が響く。

のび太は、はっと眠りかけていた目を覚まし、ぼんやりとした表情で体を起こす。

現実の重さが、体にのしかかってくる。

外の世界では一日何度もしていた昼寝すらできない。

拘置所では、横臥許可をとらなければ体を横たえることもできないのだ。

「早く…どこでもドアか何かで助けに来てくれよ…」

のび太は、心の中でドラえもんに向けてつぶやいた。

どうして、僕の前からいなくなったんだろう?

あの日以来、学校から帰っても部屋にいつもいたドラえもんの姿はなく、机の引き出しを何度開けても、そこにタイムマシンはなく、何も入っていない引き出しの中の空間があるだけ。

でも、ドラえもんは僕を救いに未来から来たはずだ。

いつか、きっと助けに来てくれるはず…。

真っ白な壁に囲まれて逃れられない現実に追い詰められながら、のび太はただじっとありもしない希望を抱き続けていた。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第二話・成熟を拒んだ男: のび太の葛藤


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成熟を拒んだ男

野比のび助は、拘置所の面会用の小さな個室で息子ののび太が現れるのを待ち、ため息をついた。

「また同じことを言うんだろうな」

もう何度も繰り返されてきた光景が、今この瞬間も再び始まろうとしていた。

やがて、個室を隔てるガラスの向こうにある重厚なドアが、音を立てて開く。

看守に導かれ、我が子であるのび太が、ゆっくりと姿を現す。

のび助の視線は、自然と息子に釘付けになる。

目の前にいるのび太は、小学生のころの顔立ちを、そのまま中年に引き伸ばしたようだった。年齢だけは重ねたものの、顔には成熟の影がない。

むしろ、無垢さの名残が痛々しく漂い、彼が本当に42歳なのかと疑ってしまいそうになる。

のび太は、灰色のトレーナーをだらしなく着こなし、丸く肥満した体を、椅子に沈み込ませるように座った。

頬がたるみ、肩は力なく落ちて背を丸めている。

のび太の後ろには、刑務官が座って面会に立ち会う。

「パパ、今日の差し入れは何?」

のび太は父親の面会に破顔して、挨拶もそこそこに、まるで小学生のようなことを聞いてきた。

のび助はその問いに一瞬たじろいだが、「今日は…ポテトチップスだ。おまえの好きな塩味だ」と彼は声を絞り出し、かすれた微笑みを浮かべる。

だが、その笑みはどこか空虚で、過去の幸せな記憶にすがりつくようなものだった。

ガラス越しに差し入れを渡せないことが、彼の心にいつも寂しさを植え付けていたのだ。

だが、のび太は先ほどとは打って変わって、ふわっとした無気力な様子で、「へえ、ありがとう」と、さも興味がないかのように呟く。

彼の瞳には、どこか現実を拒絶するような冷たさと空虚さが漂っていた。

のび助はその視線を見るたび、胸が痛んだ。

息子ののび太は、もう十年近くこの場所にいる。

その年月は、親としてどれほど苦しく、重かったか。

しかし、のび助は何もできない自分を恨むこともせず、ただ無力感に苛まれ続けていた。どれだけの涙を流しても、どれだけ後悔しても、時は戻らない。

そして、彼が面会に来るたびに繰り返されるやり取りが始まろうとしていた。

「…ドラえもんはどうしてる?また帰って来た?」

また来たか。

のび助は、また胸を抉られるような痛みを感じた。

この質問は、面会に来るたびに繰り返されている。

のび太の心は、まだ過去のまま。

42歳の体でありながら、あのころのまま何も変わらない。

現実を受け入れず、かたくなに拒む息子に、のび助もまたいつもと同じ返答をする。

「ドラえもんは怒っていたぞ」

のび助は、絞り出すように言った。

「おまえは、三人も殺しておきながら反省していない。そんな、お前の顔など見たくもないって…」

その言葉に、のび太はため息をついて視線を逸らし、頑なに呟く。

「…あれは、しずかちゃんが悪いんだ」

声には、怒りと苛立ちが混ざっていた。

「僕を裏切ったんだから…僕を見下してたんだから…」

のび助は、どこか遠い現実を見ているような気分に襲われた。

息子のこの言い訳を、何度聞いてきたことか。

のび太は反省するどころか、自分の行動を正当化することに固執していた。

それは、十年前から同じだ。

そして、のび助も同じような返答をしてきた。

「パパ、お願いだよ。」のび太は突然、懇願するような目で、のび助を見た。

「ドラえもんがまた帰ってきたら…ここから出してくれるように頼んでくれよ。僕を過去に戻す機械を出してほしいんだ。そうすれば、全部やり直せるから…」

のび助は何も言えなかった。

のび太の言葉は、現実逃避そのものだ。

過去に戻れるわけがないのに、その願いにすがっている息子を見ると、胸が潰れそうになる。

それでも、のび助はうなずくこともできず、ただ無言で息子を見つめていた。

面会時間は残酷なほど瞬く間に過ぎ去って、終了が立ち合いの刑務官から告げられる。

のび助はかすかに肩を落とし、立ち上がる。

「また来るからな。」それだけを絞り出すように言い残し、振り返ると、「絶対に伝えてよね」息子は虚ろな目でそう言って、刑務官に促されてドアの向こうに消えた。

のび助は、重い足取りで面会室を後にする。

再び、同じやり取りが繰り返されることを知りながら、次の面会までの時間が、彼の心に重くのしかかっていた。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第一話・老いた父と東京拘置所への道


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老いた父

小菅駅のホームに、電車のブレーキ音が甲高く響き渡った。

71歳の野比のび助は重たげな足取りで電車を降り、冷え切った空気を身に受けながら歩を進める。

背中はかつてよりも丸くなり、白髪の頭がわずかに揺れる。

彼はふと足を止め、無意識に視線を遠くへ向けた。

目に飛び込んでくるのは、薄曇りの空を背景に、まるで無言の巨人のようにそびえ立つ東京拘置所の建物。

圧倒的な威圧感を放ち、重苦しい空気に包まれている。

これから向かう先は、その威容を誇る建物の中だ。

小菅駅に降り立つのは、もう何度目になるのか──のび助は、もはや数えることをやめていた。

どれほどの時が経っても、この場所への道のりに慣れることはない。

アスファルトを踏みしめるたび、靴底が乾いた音を立てる。

薄曇りの空から吹き付ける冷たい風が彼の体を揺さぶり、のび助は古びたコートの襟をきつく引き寄せた。

道行く人々が無言で彼を追い越していくたび、その存在はますます小さく、儚いものに思える。

それでも、のび助は自らが向かうべき場所を知っていた。

逃れられない運命が彼の背中を押し、無言のうちに、東京拘置所へと導いていたのだ。

どうして、こんなことになってしまったのか。

なぜ、自分がこんな場所にいるのか──その問いは何度も頭をよぎるが、答えはいつも空虚で、無力感だけが残る。

それでも、のび助は歩き続けた。

冷え切った手をコートのポケットに差し込むと、ホッカイロのぬくもりが指先に伝わったが、それは、ほんの一瞬の慰めに過ぎない。

「池田屋」と書かれた看板が目の前に現れた。

拘置所に向かう面会者たちが立ち寄ることで知られる、この差し入れ屋も、今では馴染みの場所だ。

店先には黒塗りのアルファードが停まり、いかつい男たちが無造作に買い物をしている。

その姿はどこか非日常を帯びていたが、のび助には、すっかり見慣れた光景となった。

彼は無言で店の奥へ進み、差し入れ用のポテトチップスを一袋手に取る。

店員に無表情で支払いを済ませると、袋を手に再び歩き出した。

東京拘置所の面会者専用の入口は、すぐそこだ。

灰色の巨塔が冷然とそびえ、放射状に広がる構造が、無言で周囲を威圧している。

12階建ての建物は、未決囚や一部の懲役囚、そして極刑の判決を受けた「確定者」たちが収容される場。

冷たいコンクリートの塊は、ここに集う人々の希望も絶望も吸い込み、どこかへ押し込んでしまうようだった。

のび助は、たった一人の息子に会うために、ここへ来ていた。

野比のび太──自らの血を分けた息子は、この場所に十年近く囚われている。

のび助は、その短い面会のためだけに定期的にこの地を訪れ、30分間という限られた時間のために、小菅まで足を運んでいるのだ。

そして今、のび太と外で会うことは二度と叶わないし、いつかこの面会すら終わる日が来るだろう。

なぜなら、のび太は「死刑確定者」、十年以上前に起こり世間を震撼させた練馬区母子殺人事件の犯人として収監されているからだ。

被害者は、当時33歳の剛田静香とその幼い子どもたち──4歳の長女・葉音と2歳の長男・優士。

彼らを惨殺した罪が、のび太の人生を闇へと引きずり込んでいた。

のび助は深く息を吐き、建物の無機質な威容を見上げた。

心に重くのしかかるその事実を抱えたまま、彼は拘置所の入り口へと歩を進めていった。

続く

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