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死刑確定囚・野比のび太 – 第二話・成熟を拒んだ男: のび太の葛藤


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成熟を拒んだ男

野比のび助は、拘置所の面会用の小さな個室で息子ののび太が現れるのを待ち、ため息をついた。

「また同じことを言うんだろうな」

もう何度も繰り返されてきた光景が、今この瞬間も再び始まろうとしていた。

やがて、個室を隔てるガラスの向こうにある重厚なドアが、音を立てて開く。

看守に導かれ、我が子であるのび太が、ゆっくりと姿を現す。

のび助の視線は、自然と息子に釘付けになる。

目の前にいるのび太は、小学生のころの顔立ちを、そのまま中年に引き伸ばしたようだった。年齢だけは重ねたものの、顔には成熟の影がない。

むしろ、無垢さの名残が痛々しく漂い、彼が本当に42歳なのかと疑ってしまいそうになる。

のび太は、灰色のトレーナーをだらしなく着こなし、丸く肥満した体を、椅子に沈み込ませるように座った。

頬がたるみ、肩は力なく落ちて背を丸めている。

のび太の後ろには、刑務官が座って面会に立ち会う。

「パパ、今日の差し入れは何?」

のび太は父親の面会に破顔して、挨拶もそこそこに、まるで小学生のようなことを聞いてきた。

のび助はその問いに一瞬たじろいだが、「今日は…ポテトチップスだ。おまえの好きな塩味だ」と彼は声を絞り出し、かすれた微笑みを浮かべる。

だが、その笑みはどこか空虚で、過去の幸せな記憶にすがりつくようなものだった。

ガラス越しに差し入れを渡せないことが、彼の心にいつも寂しさを植え付けていたのだ。

だが、のび太は先ほどとは打って変わって、ふわっとした無気力な様子で、「へえ、ありがとう」と、さも興味がないかのように呟く。

彼の瞳には、どこか現実を拒絶するような冷たさと空虚さが漂っていた。

のび助はその視線を見るたび、胸が痛んだ。

息子ののび太は、もう十年近くこの場所にいる。

その年月は、親としてどれほど苦しく、重かったか。

しかし、のび助は何もできない自分を恨むこともせず、ただ無力感に苛まれ続けていた。どれだけの涙を流しても、どれだけ後悔しても、時は戻らない。

そして、彼が面会に来るたびに繰り返されるやり取りが始まろうとしていた。

「…ドラえもんはどうしてる?また帰って来た?」

また来たか。

のび助は、また胸を抉られるような痛みを感じた。

この質問は、面会に来るたびに繰り返されている。

のび太の心は、まだ過去のまま。

42歳の体でありながら、あのころのまま何も変わらない。

現実を受け入れず、かたくなに拒む息子に、のび助もまたいつもと同じ返答をする。

「ドラえもんは怒っていたぞ」

のび助は、絞り出すように言った。

「おまえは、三人も殺しておきながら反省していない。そんな、お前の顔など見たくもないって…」

その言葉に、のび太はため息をついて視線を逸らし、頑なに呟く。

「…あれは、しずかちゃんが悪いんだ」

声には、怒りと苛立ちが混ざっていた。

「僕を裏切ったんだから…僕を見下してたんだから…」

のび助は、どこか遠い現実を見ているような気分に襲われた。

息子のこの言い訳を、何度聞いてきたことか。

のび太は反省するどころか、自分の行動を正当化することに固執していた。

それは、十年前から同じだ。

そして、のび助も同じような返答をしてきた。

「パパ、お願いだよ。」のび太は突然、懇願するような目で、のび助を見た。

「ドラえもんがまた帰ってきたら…ここから出してくれるように頼んでくれよ。僕を過去に戻す機械を出してほしいんだ。そうすれば、全部やり直せるから…」

のび助は何も言えなかった。

のび太の言葉は、現実逃避そのものだ。

過去に戻れるわけがないのに、その願いにすがっている息子を見ると、胸が潰れそうになる。

それでも、のび助はうなずくこともできず、ただ無言で息子を見つめていた。

面会時間は残酷なほど瞬く間に過ぎ去って、終了が立ち合いの刑務官から告げられる。

のび助はかすかに肩を落とし、立ち上がる。

「また来るからな。」それだけを絞り出すように言い残し、振り返ると、「絶対に伝えてよね」息子は虚ろな目でそう言って、刑務官に促されてドアの向こうに消えた。

のび助は、重い足取りで面会室を後にする。

再び、同じやり取りが繰り返されることを知りながら、次の面会までの時間が、彼の心に重くのしかかっていた。

続く

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