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死刑確定囚・野比のび太 – 第五話・東京の夜に潜む悲劇: 剛田武


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友情の残響

黒塗りのハイヤーが、千代田区の静かな街並みを抜けて、首都高速へ向かっていた。

夜の東京はネオンと街灯に彩られ、都会の華やかさを放っている。

その中で、車内の後部座席に座る二人の男の表情は対照的に沈んでいた。

彼らは、これから品川区南大井のある場所へ向かう。

後部座席の左側に座る細身でキツネ目の男は骨川スネ夫。

国内外で数々の企業を興し、先代をはるかに凌ぐ規模で不動産や金融、ITなどのビジネスを展開する、骨川グループの敏腕CEOであり、投資家としての名声も高い男だ。

四十代に入ってはいたが、細身の引き締まった体格を保ち、さらに洗練された外見を持つようになっていた。

テーラードスーツは彼の体に完璧にフィットし、控えめながら高級感のあるネクタイと、カフスボタンが成功者の余裕を物語る。

吊り上がった目元は、幼少の頃の意地悪そうな印象を洗練された鋭さへと変え、尖った口元もビジネスマンとしての緊張感を醸し出していた。

骨川の隣に座るのは、出木杉英才。

長身で端正な顔立ちを保ちつつも、冷静で知的な雰囲気を漂わせていた。

切れ長の目、鋭い眉、高い鼻梁──すべてが彼のエリート然とした雰囲気を強調している。シンプルなスーツに身を包み、無駄のないファッションセンスが、彼の合理的な性格を映し出す。

彼は所属弁護士50名を超える大手法律事務所の代表として、法曹界で名を馳せる存在であり、その冷静な判断力と卓越した弁舌で、数々の難題を解決してきた。

この成功者の二人であるが、これから向かう先で待っているであろうことを思うと、険しい顔をして先ほどから互いにほとんど口をきいていない。

「今日もだめだろうな…」骨川は低く呟き、ネクタイを軽く引き直した。

「無駄だと分かってても、やめられないんだよね…出木杉先生」

「剛田さんを見捨てるわけにはいきませんよ、骨川社長」出木杉が静かに答えた。

目は外の夜景を見つめたまま動かさない。

「あんな風になったままの彼を見続けるわけにはいきませんから」

車は首都高速に入る。

ビルの合間を抜けるように滑る道路は、ライトの反射で淡く輝き、静けさを増していく。

ハイヤーは速度を保ちながら、目的地である品川区南大井に向かっていた。

二人が向かっているのは十年前に妻と子供を殺され、荒れ果てた生活を送る剛田武の住む1Kのマンションだった。

かつては「剛田商店」というフォワーダー企業を経営し、芝浦のタワーマンション最上階に住む成功者だった彼は、家族を失ったことで全てを手放し、今では酒浸りの日々を送っている。

骨川と出木杉はその剛田商店を中国系企業から買い戻し、再び剛田をCEOとして復帰させる計画を何年も前から進めており、それが最終段階に来ていた。

「ジャイアンをこれ以上放っておいたら、完全に潰れる」

骨川は車内の静けさを破るように呟いた。

「だからこそ、何度も来ているんですよね」出木杉が視線をスネ夫に向ける。

「成功するかどうかは分かりませんが、動かなければ何も変わりません」

やがて、ハイヤーは南大井の二階建ての中規模のマンションに到着した。

剛田武が生活する『フェリスホワイト南大井』。

エントランスはオートロック式で監視カメラが設置されている、最低限の設備が整った建物だ。

二人は車を降り、インターフォンの前に立った。

骨川がボタンを押すと、しばらくしてろれつの回らない声が応答してきた。

「またお前らか…」

カメラに映る二人の姿を見た剛田武は、疲れ果てたうんざりしたような声で言った。

そして「酒、買ってきてくれたんだろうな?」と、武は吐き捨てるように続ける。

その態度にスネ夫は眉をひそめたが、静かに決意を込めた口を開く。

「武君、いや、ジャイアン。聞いてくれよ。前から言ってた剛田商店を買い戻す件だけどな、あれもうちょっとでうまくいきそうなんだ。ジャイアンが手放した会社を取り戻したら、またCEOでやってもらうつもりなんだよ」

しかし、武は聞く耳を持たない。

「そんなのどうでもいい! 俺をほっといてくれよ! 酒を買ってきてくれないなら帰れ!」苛立ちを露わにすると、武はインターフォンを切った。

そして何度押しても応答しやしない。

スネ夫は拳を握りしめ、インターフォンに押し続けようとするが、出木杉が肩に手を置いて制した。

「無理強いしても彼の心は変わりませんよ。今はこれ以上どうしようもない。」

「…分かってるよ。でもさ、どうしてここまで落ちぶれちまったんだ、ジャイアンは…」スネ夫の声には明らかな苛立ちと諦めが混じっていた。

二人は再び短い沈黙を共有し、諦めきれない表情のままハイヤーに戻る。

エントランスの監視カメラが再び静かに彼らの後ろ姿を見守っていた。

続く

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