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死刑確定囚・野比のび太 – 第七話・自信満々の人生と転機


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自信満々の人生、そして転機

剛田武は、もともと自信に満ち満ちた人生を送って来た。

雑貨店『剛田商店』の長男として生まれ、子供の頃は大きな体と激しい気性から周りの子供に恐れられ、畏敬を込めて「ジャイアン」と呼ばれるガキ大将。

厳しい両親には逆らえなかったが、自分と同じ年代の子供たち相手にはやりたい放題の悪童で、よく発達障害で浮いた存在だったのび太をはじめ、他の子供をいじめたものだ。

だが、中学に進学すると小学校とは勝手が違ってくる。

身体能力が高く、仲間たちと草野球でよく遊んでいた武は野球部に入部したのだが、想像以上に厳しい世界が待っていた。

毎日の素振り、ランニング、体力トレーニング──ハードな練習と顧問教師や先輩の体罰を伴った叱責で、体力に自信があった武も音を上げそうになったものだ。

厳しいのは、練習ばかりではない。

進学した月見台北中学の野球部は「三年が王様、二年が平民、一年が奴隷」という典型的な体育会系の上下関係がハバを利かせ、これまで経験したことがないほどの理不尽な仕打ちを、毎日上級生から受けたものだ。

だからだろうか、他人の気持ちを考えない傍若無人なところのあった武はやられる側の痛みが、理解できるようになってゆく。

ある日のこと、小学校時代によくいじめていた同級生の野比のび太が、トイレで下半身を裸にされてモップを肛門に入れられるいじめを受けていたのに出くわした。

のび太が、学年で噂になるほどのいじめに遭っているのは耳にしていたが、想像以上に陰険ないじめだったのに、思わずカッとなった。

自分もいじめていたが、あんなひどいことまではしたことがないからだ。

しかも、やっているのは自分たちの出身小学校であるすすきヶ原小学校ではない月見ヶ丘第一小学校の奴らであり、同胞がよそ者にやられた気もする。

「すすきヶ原のモンに、手え出すんじゃねえ!」

武が一喝するや、いじめっ子たちは、その剣幕に恐れをなして逃げ散り、のび太は救われる。

救われたのび太は、泣いてばかりでお礼も言いやしなかったが、「今度月見ヶ丘第一のモンにやられたら俺に言え!」と安心させてやった。

その後も、何度か月見ヶ丘第一小出身者の魔の手から何度か助けてやったが、自分の目の届かないところでいじめを受け続けていたのび太は、学校に来なくなってしまった。

まがりなりにも、幼馴染ののび太が登校拒否になってしまったのは心苦しかったが、武ものび太につきっきりでいられない。

自分には、自分の学校生活があるからだ。

そして、最初は苦しいばかりだった野球部も、持ち前の負けん気が彼を支えた。

練習を続けるうちに肥満児でたるんでいた体は引き締まり、少年らしい丸みを帯びていた顔は、骨格が際立ち精悍になってゆく。

野球の技術もみるみる上達し、一年生の三学期の時点でレギュラーに抜擢され、二年三年と進級するや、中学野球の試合ではエースとしてチームを引っ張る存在になった。

その変化は、周囲にも影響を与える。

クラスの女の子たちが「剛田君ってかっこいいよね」と噂するのを耳にするようになり、照れくさくも誇らしい気持ちを抱いた。

特に幼い頃から顔見知りだった静香の視線を、意識せずにはいられなかった。

静香はテニス部に所属し、颯爽としたユニフォーム姿が印象的だったのを、今でも思えている。

武も時々彼女をチラ見ていたが、向こうも同様だったらしく、時々こちらを見ていた彼女と目が合ってお互い視線をそらし、胸の中がざわついたものだ。

静香の方もまた「武君がこんなに変わるなんて」と心の中で驚いていたようだが、それ以上の関係にはまだ至らなかった。

初体験は中二の時で、同じクラスの女子バレー部の今池まり子。

授業中に先生の目を盗んで見つめ合うようになった間柄で、部活終わりで生徒がほとんどいなくなった学校の体育館の倉庫に二人で忍び込み、むつび合った。

中学生とは思えない成熟したまり子の体を野球で鍛えた体で力強く組み敷きながらも、静香のことが頭に浮かんだ瞬間あっという間に果ててしまい、すっかりその気になって長丁場を期待していたまり子に「もう終わり?」と言うがっかりした顔をされたこっぱずかしい思い出だったが。

中学での活躍をきっかけに、高校、そして大学でも武は野球に没頭した。

高校では甲子園を目指して汗を流し、大学でも野球部に所属し、地域リーグで注目される存在となる。

彼の人生は、スポーツの世界で明るい未来が待っているかのように思われた。

しかし、大学二年生の時、父親が脳卒中で倒れたという知らせが、武の人生に影を落とす。

突然の出来事に動揺しながらも、家族を支えるため、そして家業である「剛田商店」を継ぐことを決意した。

剛田商店は地域に根付いた老舗ではあったが、実際に経営の詳細に目を向けてみると、負債が積み重なり、倒産寸前の状態にあることが分かる。

「どうしてこんな状態になるまで、誰も何も言わなかったんだ…」武は頭を抱え、途方に暮れた。

しかし、諦めるわけにはいかない。

スポーツで培った根性と決断力で、何とかして剛田商店を立て直す方法を模索し始めた。大学での野球の道を断念し、経営者として歩み出すことを決めたのだ。

かつての輝かしいフィールドを後にして、全く新しい武の戦いが若干二十歳で始まった。

続く

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