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死刑確定囚・野比のび太 – 第十二話・のび太と静香:過去を巡る再会


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気まずい再会

中学時代から学校にも行かず、働きもせずに過ごしてきた野比のび太は、27歳になっていた。

家の中で過ごしていることが多い運動不足のために、少々小太りになっていたのび太は、その日久しぶりに家の外へ出る。

朝から何も食べていなかったせいで、冷たい風が顔に当たるたびに、頭がぼんやりとしていた。

家の中で過ごす生活が長く続いたせいか、外の世界はどこか非現実的で、子供の頃から見慣れたはずの街並みが、他人事のように感じられる。

ぼんやりと歩いていると、道の向こうから一人の女性が歩いてくるのが見える。

自分と同世代であろう二十代後半くらいの女性、それも目を引くように美しい。

だが、初対面ではない気がする。

そして、それが静香だと気づいたとき、のび太の胸は一瞬で高鳴った。

「静香ちゃん……?」

声を出すつもりはなかったのに、自然と口をついて出る。

うつむくように歩いていて、驚いたように顔を上げた静香と目が合う。

その瞬間、10年以上前に見たあの日の光景が鮮明によみがえった。

それは、のび太が17歳のときのこと。

何日かに一回は外へ出ることにしていた彼が、夕方の薄暗い路地をふらついていると、前から制服姿の女子高生が歩いてくるのが見えた。

本来だったら自分も高校に通っていたはず、という負い目があったのび太は視線を逸らしていたが、近づいてくるその姿に見覚えがあることに気づき、ハッとした。

「静香ちゃん…」

美しい女性に成長しつつあった静香は、のび太が知っていた幼いころの彼女とは別人のようだった。

整った顔立ちに、柔らかな髪が風に揺れ、笑顔で友達と話しながら歩いている。

のび太は、その場で硬直した。

「あんなにきれいになるなんて……」

心の中でそう呟いたが、同時に彼女が自分と全く違う世界にいる存在になったことを痛感する。

その場から逃げるように家に戻り、布団をかぶって現実を見ないようにした。

あれ以来、静香の姿を再び見ることはなかった。

そして今、目の前にいる静香は、あのとき以上に美しくなっている。

彼女の容姿は洗練されて磨きがかかっていたが、どこか疲れたような表情が目に留まった。のび太は、それを見て心がざわついた。

母の玉子が近、所の主婦との会話で話していたことが耳に残っている。

「源さんとこの静香ちゃん、アメリカで婚約破棄されて帰ってきたらしいのよ」

その言葉の意味を今、静香の姿を見て初めて実感した。

「静香ちゃん……久しぶりだね」

のび太は、勇気を振り絞って声をかけた。

静香は少し驚いたような顔をして、のび太に視線を向けた。

だが、その目にはどこか困惑が浮かんでいる。

しばらく沈黙が続いた後、彼女は控えめに微笑みながら答えた。

「のび太さん…、元気にしてた…?」

その言葉は表面的なもので、心からの関心ではないことが明らかだった。

静香の目は落ち着かず、時折周囲を気にしているようにも見える。

のび太はそれでも、何とか会話を続けようとした。

「僕は……まあ、相変わらずだけど。静香ちゃん、アメリカから戻ってきたんだね」

「うん……ちょっとね。色々あって」

「色々って…どんなこと」

「まあ…、色々と…」

静香の声は小さく、あまり話したくないという空気が伝わってくる。

のび太も、空気が読めないことを行ってしまったことに気づき、それ以上踏み込めなかった。

何を話しても、静香の視線は不安げにさまよい、足を少しずつ動かして立ち去ろうとしているようだった。

「じゃあ……私、行くね」

静香は当たり障りのない挨拶をして、早足でその場を離れる。

のび太はその背中を見送りながら、自分の胸に広がる虚しさを、どうすることもできなかった。

静香が遠ざかる姿を見つめるのび太の頭の中に残ったのは、ただひとつの感情。

自分だけは変われなかった。

時間だけが過ぎ去り、自分は何もできていない。

一方の静香は自分とは違う世界で輝いていたが、その輝きもどこか翳りを帯びていることに気づいてしまったのだ。

彼女の疲れた表情、短い会話、そして早く帰りたそうな態度――すべてがのび太に現実を突きつけている。

「僕は…こんなままでいいのか…?」

のび太は自問自答しながら、その場で立ち尽くしていた。

続く

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