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死刑確定囚・野比のび太 – 第十三話・幼馴染、静香との運命的な再会


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もうひとつの再会

剛田武、28歳。

仕事においては、絶頂期を迎えていた。

彼が再建した「剛田商店」は、フォワーダー事業の成功によって安定した収益を上げ、いまや国内外に輸送ネットワークを広げている。

そんな順風満帆な日々を支えていたのが、出資してくれた幼馴染の実業家である骨川スネ夫、そしてもう一人の幼馴染の出木杉英才だった。

出木杉は、東京大学在学中に司法試験を突破し、五大法律事務所の一つでキャリアを積んだ後、26歳で独立して弁護士事務所を設立。

武は、彼の事務所の最初の大口顧客となって法務面で全面的なサポートを受けるようになり、出木杉もまた、的確な法的助言を武に与えることで剛田商店の成功に欠かせない存在となっていたのだ。

武は、仕事が終わればスネ夫や出木杉を誘って夜の銀座や六本木で飲み歩く日々を送っていたが、この年は、そんな華やかな日々に変化が訪れる。

スネ夫が婚約し、夜遊びに付き合うことがなくなったのだ。

そして、出木杉も早くも26歳で結婚、一児の父となって堅実な家庭生活を送っていたため、誘えば顔を出すこともあるが、いつも早めに帰宅してしまう。

「家庭が大事ですから」と笑って言う彼に、武は冗談めかして「心の友じゃなかったのかよ」と言い返すものの、心のどこかで羨ましさを感じていた。

夜の街を共にできる相手がいなくなった武は、次第に飲みに行くこと自体が億劫になり始める。

一人で行くのは味気なく、家に帰れば誰も待っていない広い港区のタワーマンション。

その孤独感は、華やかな日常の裏に、じわじわと忍び寄る影のようだった。

そんなある日、武は練馬の「剛田商店本社」での業務を終え、愛車のベントレー・ベンテイガに乗り込んで、港区の自宅へと帰路につく。

車を走らせながら、ふと冷蔵庫が空だったことを思い出した。

「たまには自分で料理するか……」

そう呟きながら、近くのスーパーに立ち寄ることにした。

時計は夜8時を少し回った頃。

スーパーの店内は昼間の賑わいが嘘のように静まり返り、まばらな客が各々の買い物をしている。

武はスーツの上着を脱ぎ、カゴを手に野菜売り場を歩き始めた。

ふと視界の端に人影が映り、何気なく顔を向ける。

その瞬間、彼の足が止まった。

「静香……ちゃん?」

そこにいたのは、源静香だった。

小学校時代の幼馴染であり、中学時代に密かに意識していたこともある女性だ。

シンプルなカーディガンにスカートという控えめな服装ながら、どこか影がある表情をしていた。

彼女の顔を見た瞬間、武の中に眠っていた記憶が、一気によみがえる。

静香もまた、武に気づいて驚いたような表情を浮かべた。

「武くん……久しぶり」

彼女の声は少し戸惑いを帯びていた。

「こんなところで会うなんてな」

武は少しぎこちなく笑いながら、カゴを持ち直した。

「最近、どうしてる?」

「まあ、色々と……ね」

静香は曖昧に笑うが、その言葉の裏に隠された苦労が見え隠れする。

二人はそのまま数分間、当たり障りのない話を交わした。

昔の話題や近況報告が主だったが、会話のどこかに漂う空気が、武には引っかかった。

彼は耳にしていた噂 ――静香がアメリカで婚約破棄を経験し、実家に戻ってきたという話を思い出す。

「静香ちゃん、この辺に住んでるのか?」

武は静かに問いかけた。

「うん、実家に戻ってきてね」

静香は短く答える。

彼女の目は、どこか遠くを見ているようだった。

武はさらに話を掘り下げようとしたが、静香の表情がほんの少し曇るのを感じて、話題を変えることにした。

「じゃあさ、また今度、飯でも行かない?久しぶりだし、ゆっくり話そうぜ」

静香は一瞬躊躇したように見えたが、最終的には小さくうなずいた。

「……うん、そうだね」

「じゃあ、LINE交換しとこうか」

武がスマートフォンを取り出し、静香も少しだけ困ったような表情をしながら、自分のスマホを取り出す。

二人は連絡先を交換したが、その後の沈黙が少しぎこちなかった。

「じゃあ、そろそろ行くね」

静香がカゴを手に言うと、武は少し名残惜しそうに彼女を見送った。

「またな、静香ちゃん」

静香が店を出ていく後ろ姿を見送りながら、武の心には奇妙な感覚が残った。

10年以上も会うことのなかった幼馴染との再会。

そして、彼女の疲れた表情。

何かが引っかかる。

それが何なのかはっきりとは分からなかったが、彼女の背中を見つめるうちに、武の胸には微かな決意が生まれ始めていた。

その夜、港区の自宅に帰り、広いリビングのソファに腰を下ろした武は、スマホの連絡先に登録されたばかりの「静香」という名前をぼんやりと眺めていた。

続く

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