カテゴリー
2024年 いじめ 事件 事件簿 悲劇 本当のこと 東京 死刑確定囚・野比のび太 無念 葛飾区

死刑確定囚・野比のび太 – 第十四話・幼馴染との再会が生む新たな感情


にほんブログ村

誘いと新たな感情

剛田武はスマートフォンの画面を見つめ、手を止めていた。

そこに映るのは、先日交換した幼馴染の源静香のLINEの名前。

普段なら、女性を食事や飲みに誘うのに躊躇することはない。

銀座や六本木の高級クラブでさえ慣れた様子で通い詰め、誰とでも自然に打ち解ける武が、静香相手だとなぜか勝手が違った。

「ただの幼馴染なんだから、深く考える必要はないだろう」

そう自分に言い聞かせながら、メッセージを打つ。

「今週末の夜8時くらいに飲みに行かないか?練馬駅近くにいい店があるんだ。」

送信ボタンを押すまでの数秒が、やけに長く感じられた。

こんな感覚は、いつ以来だろう。

思春期の時の恋愛初期のような、妙にぎこちない気分。

武は、まさか28歳になるまで様々な女性と交際を重ねてきた自分が、こんな緊張を再び味わうとは思わなかった。

しばらくして、スマホが振動する。

「うん、いいよ」

短い返事が来た瞬間、胸の内に小さな安堵が広がった。

その夜、武は静香を誘った居酒屋で待っていた。

練馬駅近くの少し古びた木造の店。

普段ならもっと洒落た店を選ぶのだが、静香にはこういう場所が合う気がしたのだ。

静香が店に入ってきた瞬間、武は一瞬言葉を失った。

柔らかいベージュのニットに控えめなスカート。

華やかさを抑えた服装なのに、彼女はどこか洗練された美しさを漂わせていた。

「待たせちゃった?」

静香が少し恥ずかしそうに笑う。

「いや、ちょうど着いたとこ」

武は少し動揺を隠しながら答えた。

静香相手だと、普段の軽快な態度が少しぎこちなくなる。

二人はカウンター席に並んで座り、まずはビールで乾杯する。

「何年ぶりだろうな、こうやって飲むの」

武がジョッキを持ち上げながら言うと、静香も小さく笑った。

「こういう店、意外と落ち着くね」

静香が周りを見回しながら言う。

最初は、近況を語る無難な会話から始まった。

しかし、静香の実家に戻った理由をそれとなく尋ねても、静香は「まあ、色々あってね」と曖昧に流すばかりだった。

武も、それ以上踏み込むことはできない。

普段の武なら女性に強引に迫ることもできたはずなのに、静香相手だとどうしても慎重になってしまう。

だが、ジョッキが空になる頃には、二人の間のぎこちなさも少しずつ溶け始めていた。

「静香ちゃん、テニス部だったよな。覚えてるよ」

武が、ふと思い出したように言う。

「よく覚えてるね。武君は……野球部だったよね?」

静香が答える。

「ああ、真っ黒に日焼けしてた頃だよ」

武が照れ笑いを浮かべた。

静香がクスリと笑う。

「そういえば、今池さんと仲良かったよね?」

「いや、それは……」

武がビールを飲みながら答えを濁すと、静香はさらに突っ込んだ。

「付き合ってたんでしょ?女の子は、みんな知ってたよ」

「ええと、あれは……まあ、そんな感じ……」

武は顔を赤くしながら言った。

静香が、からかうように肩をすくめる。

「ふふ、そうなんだ。」

「そっちは、どうだったんだよ?誰かいなかったのか?」

武が逆に尋ねる。

「三年のときに、諏訪くんとちょっとだけね。キスまでしかしてないけど」

静香がさらりと言うと、武は思わずジョッキを置いた。

「え、諏訪って、バトミントン部のミツ夫のこと?あのネクラそうな奴と?!嘘だろ?」

静香が笑いながら頷く。

「本当だよ。でも、それもすぐ終わっちゃったけどね」

話は中学を卒業した後のお互いの高校時代、そして静香のアメリカ留学へと移っていった。

酒が進むにつれ、二人の距離は自然と縮まっていく。

「アメリカでは、どうだったんだ?楽しかっただろ?」

武が尋ねると、静香は少し間を置いて答えた。

「楽しかったよ。仕事も充実してたし……それに彼もいたし」

静香がぽつりと言う。

「彼?」

武は興味を引かれる。

「ニックっていう人。白人で、家柄が良くてクールで、すごく優しい人だった。でも……」

静香の声が少し震え始めた。

「でも?」

「結婚、反対されたの。彼の両親に……。有色人種との結婚なんてありえないって」

静香は視線を下に落とした。

「それで?」

武が慎重に尋ねる。

「結局、彼も親の言うことを聞いて……別れることになったの」

静香の目に涙が浮かんだ。

武は何も言えなかった。

ただ静香の話を聞くしかできなかった。

「ごめん、こんな話して。誰かに話したかったんだと思う」

静香が涙を拭いながら微笑む。

その笑顔が、武の心に深く刺さった。

彼女の強さと傷つきやすさが混ざり合ったその姿に、胸が熱くなる。

その夜、二人は時間を忘れるほど話し続けた。

静香の涙と笑顔が交差する中、武は自分の中に芽生えた新たな感情に気づき始める。

それは、ただの幼馴染への懐かしさではなく、もっと複雑で深い何かだった。

続く

関連するブログ:

最近の人気ブログ TOP 10:

最近の記事: