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死刑確定囚・野比のび太 – 第十七話・ドラえもんと30歳ののび太の葛藤


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未だにドラえもんを待つ三十歳ののび太

野比家の二階、畳敷きの部屋は中学一年生の頃とほとんど変わらない。

机の上には使い古された文房具や埃をかぶった小物が散らばり、押し入れには今や着ることのない学生服が吊るされたまま。

その中に、ただ一つ違うものがある。

30歳を迎えた野比のび太の肥満した体が、その空間に重く沈んでいることだ。

のび太の体は、かつての小柄で頼りない少年の面影を完全に失い、ぶくぶくと太っている。髪は寝癖がついたまま脂ぎっており、顔にはひげの剃り残しが目立つ。

彼の目は虚ろで、どこか焦点が定まらないまま天井を見上げている。

その視線の先にあるのは、現実ではなく、過去の夢だ。

「ドラえもん、いつ戻ってくるんだよ……」

のび太はそう呟くと、机の引き出しに目をやる。

その引き出しは、中学一年生の時から何度も開け閉めを繰り返されてきた。

かつてそこにあったタイムマシンが、もう一度現れるのではないかという期待が未だに捨てきれない。

部屋の外から微かな足音が聞こえた。

母・玉子だ。彼女は慎重に部屋の様子を伺う。

ノイローゼ気味になった彼女の顔には、疲れの色が濃く刻まれている。

14、15歳頃から始まったのび太の家庭内暴力。

そのたびに部屋の物が投げられたり、壊されたりした記憶が今も玉子を怯えさせている。

「のびちゃん……ご飯、持ってきたわよ」

玉子の声はか細い。

まるで腫れ物を扱うかのようだ。

「そこに置いといて!」

のび太の怒鳴り声が返ってくる。

玉子はビクッと体を震わせ、トレイをそっと部屋の入り口に置いた。

中身はインスタント食品や冷凍食品がほとんどだ。

それでも玉子は、のび太が暴れないことを最優先に考えている。

のび太は母の存在を感じながら、心の中で苛立ちを募らせていた。

彼にとって玉子は、口うるさく怒ってばかりで、自分を追い詰めてきた張本人だ。

小学生の頃から勉強や生活態度のことで怒鳴られ、叱られ、常に自分を否定されてきた。ドラえもんの話をしても「そんな話ばっかりしないで現実を見なさい!」と一蹴されるばかり。

のび太は、母が自分からすべての自信を奪い去ったと思っていた。

「俺をこんなダメ人間にしたのはママだ!」

のび太の心の中で、怒りが膨れ上がる。

かつての少年が持っていた無邪気さや優しさは、どこかに消え去ってしまった。

残っているのは過去の栄光を夢見てそこにすがりつく姿だけ。

しかし、その一方で、のび太は未だにドラえもんの帰りを心待ちにしていた。

引き出しの向こうからドラえもんが現れ、「何してるんだよ!のび太くん」と優しい声で言ってくれる――そんな日が来ると信じているのだ。

それが現実から目を背け、時間を無為に過ごす彼にとっての唯一の希望だった。

「ドラえもん……お願いだから戻ってきてよ……」

のび太は小さく呟き、机に顔を埋めた。

その体が震える。

涙が溢れているのか、ただ怒りに震えているのか、それは本人にもわからなかった。

続く

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