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死刑確定囚・野比のび太 – 第十九話・ジャイアンとのび太の絆


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手を差し伸べるジャイアン

土曜日、剛田武はベントレー・ベンテイガを静かに停め、野比家の玄関へと向かった。

ラフなカジュアルスタイルながら、清潔感のある服装。

グレーのジャケットに白シャツを合わせ、足元は上質なスニーカー。

休みの日だが、今日はただの訪問ではない。

幼馴染の野比のび太を立ち直らせるため、家を訪ねるのだ。

すでに自分の母親を通して、自分の訪問は野比家の両親に伝えてある。

玄関を開けたのは、憔悴した表情ののび太の母の玉子だった。

のび太によく似ているが、今や年齢以上に老けた顔にメガネをかけ、服装は質素だがきちんとした印象を保っている。

玄関には父のび助の姿もあり、どこか落ち着かない様子で武を迎えた。

「剛田さん、本当にありがとうございます……」

玉子は深々と頭を下げた。

「やめてくださいよ、お母さん。俺が会いたくて来ただけですから」

武は、勉めて明るい口調で答える。

のび助も苦笑いを浮かべながら「正直助かります。何をどう言っても、あいつは……」と声を落とす。

家の中に通された武は、ふと壁に目をやる。

そこには、明らかに蹴られてへこんだ跡やひび割れが残っていた。

家庭内暴力の痕跡が、家の疲弊を物語っている。

玉子は、武がそれに気づいたのを見て目を伏せ、小さく首を横に振った。

「高校生くらいの時から……あの子は……」と声を詰まらせる。

「のび太、武くんが来たわよ」

のび太の引きこもる部屋の階段を先に上がった玉子が声をかけるが、部屋の中は沈黙したままだった。

「どうぞ」

玉子が促すと、武は障子を軽くノックし、自ら開けた。

「よお、のび太! 」

武の声は明るいが、その目に映ったのび太の姿に言葉を失った。

のび太は部屋の隅で体育座りのように縮こまり、怯えた表情でこちらを見ている。

30歳になった彼の体は太りきり、顔には脂肪がついていた。

部屋は荒れ果て、床には食べかけのお菓子やゴミが散乱している。

机の引き出しが半開きになっているのを見た武は、ふと昔のことを思い出した。

「お前……ずいぶん変わっちまったな」

武が一歩近づくと、のび太はびくっと体を震わせ、目を逸らす。

「そんな怯えた顔すんなよ。何もしねえよ。小学生の時とは違うんだ。」

武は少し笑みを浮かべたが、その言葉が逆にのび太を萎縮させた。

「……ジャイアン、何しに来たんだよ」

のび太が震える声で言う。

「お前を立ち直らせるためだよ」

武は、畳みかけるように言った。

「お前、いい加減に家から出てこいよ。親父さんとお袋さんがどれだけ心配してると思ってるんだ?」

のび太は、視線をそらしながら「……だって……べつに……関係ないじゃない」とぼそぼそ呟く。

「関係あるとかないとかじゃねえだろ。おまえ、いつまでそうしてる気なんだよ」

武の言葉に、のび太はさらに小さくなる。

「なあ、お前に提案がある。俺の会社で働かないか?まずは、倉庫で荷物を仕分けるだけだ。簡単な仕事だし、慣れたらいろいろやってもらう。それに朝起きて少しでも体を動かせばお前も変わるぜ」

のび太は何も答えず、ただ俯いたままだった。

武は少し息をつき、語調を和らげた。

「なあ、のび太。俺に任せてみろよ。一緒にやろうぜ」

のび太が顔を上げると、武の目には真剣な光が宿っている。

その眼差しにのび太は戸惑いながらも、何かを感じ取ったようだった。

武が部屋を出ると、廊下で待っていた玉子とのび助が目を潤ませる。

「ありがとうございます、剛田さん……本当に。」

玉子は、涙ながらに感謝を伝えた。

「まだ何もしてませんよ。でも、あいつは俺が絶対に立ち直らせます。」

武は静かに答え、もう一度のび太の部屋を振り返った。

武の心には「俺が何とかする」という揺るぎない決意があった。

それは、過去に彼が守れなかった幼馴染への償いであり、罪滅ぼしでもあった。

この訪問が、のび太にとって新たな一歩となるのか。

それは、まだこの時点では誰にもわからなかったが、希望の火種は確かに灯されたのだ。

続く

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