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死刑確定囚・野比のび太 – 第三話・閉じ込められた夢と現実


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逃げ場のない三畳の現実

東京拘置所の北収容棟五階の単独房。

三畳という狭さで壁も天井も真っ白に塗られ、無機質な静けさに包まれているこの部屋が、のび太の日常の生活空間だ。

同所は2006年に完成したが、古びた感じはしない。

しかし空調は十分ではなく、ほのかな寒さが体に染み渡る。

狭い単独室には唯一よろい戸の隙間から、わずかな光が差し込んでいた。

その細い一筋の光が部屋の中央に影を落とし、のび太の顔を淡く照らすが、曇りガラスのために外の風景を望むことはできない。

窓の外には自由な世界があるはずなのに、ここからは何も見ることができず、ただ光と影が無力に揺れているだけだった。

のび太は、横になって目を閉じる。

その時脳裏に浮かぶのは、いつも小学校四年生から五年生のあの楽しかった日々。

あの年は、彼の人生で最も輝いていた。

ドラえもんが未来から突然現れて、どんな困難も解決してくれた夢のような一年。

学校で嫌なことがあっても、どんなにいじめられても、ドラえもんのポケットから出てくるひみつ道具があれば、全てが魔法のように解決されたものだ。

そればかりではない。

大昔にタイムスリップしたり、他の惑星や宇宙の果てまで冒険したり、海底やジャングルを駆け巡ったり、魔界へ行ったり──すべてが現実離れした非日常の体験の連続だった。

何十年分の夢を詰め込んだようなその時間は、のび太にとって今現在も唯一無二の宝だ。

しかし、ある日すべてが変わる。

小学生だったのび太が小児姓の難病に侵され、病院での長く苦しい入院生活を終えた後、家に戻るとドラえもんは、もういなかった。

困った時にのび太を助けることも、ひみつ道具を出してくれることももちろん、時折姿を見せることすらもなくなる。

もはや、あの素晴らしい日々が戻ってくることはなかった。

今、のび太はこの白く無機質な部屋に閉じ込められている。

過去の夢にすがる自分が情けないとわかっていながらも、ドラえもんが再び現れてすべてを救ってくれる日を未だに待っていた。

「こら!何を寝ている!起きろ!」

ドアの向こうの外から、拘置所の職員の怒鳴り声が響く。

のび太は、はっと眠りかけていた目を覚まし、ぼんやりとした表情で体を起こす。

現実の重さが、体にのしかかってくる。

外の世界では一日何度もしていた昼寝すらできない。

拘置所では、横臥許可をとらなければ体を横たえることもできないのだ。

「早く…どこでもドアか何かで助けに来てくれよ…」

のび太は、心の中でドラえもんに向けてつぶやいた。

どうして、僕の前からいなくなったんだろう?

あの日以来、学校から帰っても部屋にいつもいたドラえもんの姿はなく、机の引き出しを何度開けても、そこにタイムマシンはなく、何も入っていない引き出しの中の空間があるだけ。

でも、ドラえもんは僕を救いに未来から来たはずだ。

いつか、きっと助けに来てくれるはず…。

真っ白な壁に囲まれて逃れられない現実に追い詰められながら、のび太はただじっとありもしない希望を抱き続けていた。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第二話・成熟を拒んだ男: のび太の葛藤


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成熟を拒んだ男

野比のび助は、拘置所の面会用の小さな個室で息子ののび太が現れるのを待ち、ため息をついた。

「また同じことを言うんだろうな」

もう何度も繰り返されてきた光景が、今この瞬間も再び始まろうとしていた。

やがて、個室を隔てるガラスの向こうにある重厚なドアが、音を立てて開く。

看守に導かれ、我が子であるのび太が、ゆっくりと姿を現す。

のび助の視線は、自然と息子に釘付けになる。

目の前にいるのび太は、小学生のころの顔立ちを、そのまま中年に引き伸ばしたようだった。年齢だけは重ねたものの、顔には成熟の影がない。

むしろ、無垢さの名残が痛々しく漂い、彼が本当に42歳なのかと疑ってしまいそうになる。

のび太は、灰色のトレーナーをだらしなく着こなし、丸く肥満した体を、椅子に沈み込ませるように座った。

頬がたるみ、肩は力なく落ちて背を丸めている。

のび太の後ろには、刑務官が座って面会に立ち会う。

「パパ、今日の差し入れは何?」

のび太は父親の面会に破顔して、挨拶もそこそこに、まるで小学生のようなことを聞いてきた。

のび助はその問いに一瞬たじろいだが、「今日は…ポテトチップスだ。おまえの好きな塩味だ」と彼は声を絞り出し、かすれた微笑みを浮かべる。

だが、その笑みはどこか空虚で、過去の幸せな記憶にすがりつくようなものだった。

ガラス越しに差し入れを渡せないことが、彼の心にいつも寂しさを植え付けていたのだ。

だが、のび太は先ほどとは打って変わって、ふわっとした無気力な様子で、「へえ、ありがとう」と、さも興味がないかのように呟く。

彼の瞳には、どこか現実を拒絶するような冷たさと空虚さが漂っていた。

のび助はその視線を見るたび、胸が痛んだ。

息子ののび太は、もう十年近くこの場所にいる。

その年月は、親としてどれほど苦しく、重かったか。

しかし、のび助は何もできない自分を恨むこともせず、ただ無力感に苛まれ続けていた。どれだけの涙を流しても、どれだけ後悔しても、時は戻らない。

そして、彼が面会に来るたびに繰り返されるやり取りが始まろうとしていた。

「…ドラえもんはどうしてる?また帰って来た?」

また来たか。

のび助は、また胸を抉られるような痛みを感じた。

この質問は、面会に来るたびに繰り返されている。

のび太の心は、まだ過去のまま。

42歳の体でありながら、あのころのまま何も変わらない。

現実を受け入れず、かたくなに拒む息子に、のび助もまたいつもと同じ返答をする。

「ドラえもんは怒っていたぞ」

のび助は、絞り出すように言った。

「おまえは、三人も殺しておきながら反省していない。そんな、お前の顔など見たくもないって…」

その言葉に、のび太はため息をついて視線を逸らし、頑なに呟く。

「…あれは、しずかちゃんが悪いんだ」

声には、怒りと苛立ちが混ざっていた。

「僕を裏切ったんだから…僕を見下してたんだから…」

のび助は、どこか遠い現実を見ているような気分に襲われた。

息子のこの言い訳を、何度聞いてきたことか。

のび太は反省するどころか、自分の行動を正当化することに固執していた。

それは、十年前から同じだ。

そして、のび助も同じような返答をしてきた。

「パパ、お願いだよ。」のび太は突然、懇願するような目で、のび助を見た。

「ドラえもんがまた帰ってきたら…ここから出してくれるように頼んでくれよ。僕を過去に戻す機械を出してほしいんだ。そうすれば、全部やり直せるから…」

のび助は何も言えなかった。

のび太の言葉は、現実逃避そのものだ。

過去に戻れるわけがないのに、その願いにすがっている息子を見ると、胸が潰れそうになる。

それでも、のび助はうなずくこともできず、ただ無言で息子を見つめていた。

面会時間は残酷なほど瞬く間に過ぎ去って、終了が立ち合いの刑務官から告げられる。

のび助はかすかに肩を落とし、立ち上がる。

「また来るからな。」それだけを絞り出すように言い残し、振り返ると、「絶対に伝えてよね」息子は虚ろな目でそう言って、刑務官に促されてドアの向こうに消えた。

のび助は、重い足取りで面会室を後にする。

再び、同じやり取りが繰り返されることを知りながら、次の面会までの時間が、彼の心に重くのしかかっていた。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第一話・老いた父と東京拘置所への道


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老いた父

小菅駅のホームに、電車のブレーキ音が甲高く響き渡った。

71歳の野比のび助は重たげな足取りで電車を降り、冷え切った空気を身に受けながら歩を進める。

背中はかつてよりも丸くなり、白髪の頭がわずかに揺れる。

彼はふと足を止め、無意識に視線を遠くへ向けた。

目に飛び込んでくるのは、薄曇りの空を背景に、まるで無言の巨人のようにそびえ立つ東京拘置所の建物。

圧倒的な威圧感を放ち、重苦しい空気に包まれている。

これから向かう先は、その威容を誇る建物の中だ。

小菅駅に降り立つのは、もう何度目になるのか──のび助は、もはや数えることをやめていた。

どれほどの時が経っても、この場所への道のりに慣れることはない。

アスファルトを踏みしめるたび、靴底が乾いた音を立てる。

薄曇りの空から吹き付ける冷たい風が彼の体を揺さぶり、のび助は古びたコートの襟をきつく引き寄せた。

道行く人々が無言で彼を追い越していくたび、その存在はますます小さく、儚いものに思える。

それでも、のび助は自らが向かうべき場所を知っていた。

逃れられない運命が彼の背中を押し、無言のうちに、東京拘置所へと導いていたのだ。

どうして、こんなことになってしまったのか。

なぜ、自分がこんな場所にいるのか──その問いは何度も頭をよぎるが、答えはいつも空虚で、無力感だけが残る。

それでも、のび助は歩き続けた。

冷え切った手をコートのポケットに差し込むと、ホッカイロのぬくもりが指先に伝わったが、それは、ほんの一瞬の慰めに過ぎない。

「池田屋」と書かれた看板が目の前に現れた。

拘置所に向かう面会者たちが立ち寄ることで知られる、この差し入れ屋も、今では馴染みの場所だ。

店先には黒塗りのアルファードが停まり、いかつい男たちが無造作に買い物をしている。

その姿はどこか非日常を帯びていたが、のび助には、すっかり見慣れた光景となった。

彼は無言で店の奥へ進み、差し入れ用のポテトチップスを一袋手に取る。

店員に無表情で支払いを済ませると、袋を手に再び歩き出した。

東京拘置所の面会者専用の入口は、すぐそこだ。

灰色の巨塔が冷然とそびえ、放射状に広がる構造が、無言で周囲を威圧している。

12階建ての建物は、未決囚や一部の懲役囚、そして極刑の判決を受けた「確定者」たちが収容される場。

冷たいコンクリートの塊は、ここに集う人々の希望も絶望も吸い込み、どこかへ押し込んでしまうようだった。

のび助は、たった一人の息子に会うために、ここへ来ていた。

野比のび太──自らの血を分けた息子は、この場所に十年近く囚われている。

のび助は、その短い面会のためだけに定期的にこの地を訪れ、30分間という限られた時間のために、小菅まで足を運んでいるのだ。

そして今、のび太と外で会うことは二度と叶わないし、いつかこの面会すら終わる日が来るだろう。

なぜなら、のび太は「死刑確定者」、十年以上前に起こり世間を震撼させた練馬区母子殺人事件の犯人として収監されているからだ。

被害者は、当時33歳の剛田静香とその幼い子どもたち──4歳の長女・葉音と2歳の長男・優士。

彼らを惨殺した罪が、のび太の人生を闇へと引きずり込んでいた。

のび助は深く息を吐き、建物の無機質な威容を見上げた。

心に重くのしかかるその事実を抱えたまま、彼は拘置所の入り口へと歩を進めていった。

続く

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