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死刑確定囚・野比のび太 – 第十二話・のび太と静香:過去を巡る再会


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気まずい再会

中学時代から学校にも行かず、働きもせずに過ごしてきた野比のび太は、27歳になっていた。

家の中で過ごしていることが多い運動不足のために、少々小太りになっていたのび太は、その日久しぶりに家の外へ出る。

朝から何も食べていなかったせいで、冷たい風が顔に当たるたびに、頭がぼんやりとしていた。

家の中で過ごす生活が長く続いたせいか、外の世界はどこか非現実的で、子供の頃から見慣れたはずの街並みが、他人事のように感じられる。

ぼんやりと歩いていると、道の向こうから一人の女性が歩いてくるのが見える。

自分と同世代であろう二十代後半くらいの女性、それも目を引くように美しい。

だが、初対面ではない気がする。

そして、それが静香だと気づいたとき、のび太の胸は一瞬で高鳴った。

「静香ちゃん……?」

声を出すつもりはなかったのに、自然と口をついて出る。

うつむくように歩いていて、驚いたように顔を上げた静香と目が合う。

その瞬間、10年以上前に見たあの日の光景が鮮明によみがえった。

それは、のび太が17歳のときのこと。

何日かに一回は外へ出ることにしていた彼が、夕方の薄暗い路地をふらついていると、前から制服姿の女子高生が歩いてくるのが見えた。

本来だったら自分も高校に通っていたはず、という負い目があったのび太は視線を逸らしていたが、近づいてくるその姿に見覚えがあることに気づき、ハッとした。

「静香ちゃん…」

美しい女性に成長しつつあった静香は、のび太が知っていた幼いころの彼女とは別人のようだった。

整った顔立ちに、柔らかな髪が風に揺れ、笑顔で友達と話しながら歩いている。

のび太は、その場で硬直した。

「あんなにきれいになるなんて……」

心の中でそう呟いたが、同時に彼女が自分と全く違う世界にいる存在になったことを痛感する。

その場から逃げるように家に戻り、布団をかぶって現実を見ないようにした。

あれ以来、静香の姿を再び見ることはなかった。

そして今、目の前にいる静香は、あのとき以上に美しくなっている。

彼女の容姿は洗練されて磨きがかかっていたが、どこか疲れたような表情が目に留まった。のび太は、それを見て心がざわついた。

母の玉子が近、所の主婦との会話で話していたことが耳に残っている。

「源さんとこの静香ちゃん、アメリカで婚約破棄されて帰ってきたらしいのよ」

その言葉の意味を今、静香の姿を見て初めて実感した。

「静香ちゃん……久しぶりだね」

のび太は、勇気を振り絞って声をかけた。

静香は少し驚いたような顔をして、のび太に視線を向けた。

だが、その目にはどこか困惑が浮かんでいる。

しばらく沈黙が続いた後、彼女は控えめに微笑みながら答えた。

「のび太さん…、元気にしてた…?」

その言葉は表面的なもので、心からの関心ではないことが明らかだった。

静香の目は落ち着かず、時折周囲を気にしているようにも見える。

のび太はそれでも、何とか会話を続けようとした。

「僕は……まあ、相変わらずだけど。静香ちゃん、アメリカから戻ってきたんだね」

「うん……ちょっとね。色々あって」

「色々って…どんなこと」

「まあ…、色々と…」

静香の声は小さく、あまり話したくないという空気が伝わってくる。

のび太も、空気が読めないことを行ってしまったことに気づき、それ以上踏み込めなかった。

何を話しても、静香の視線は不安げにさまよい、足を少しずつ動かして立ち去ろうとしているようだった。

「じゃあ……私、行くね」

静香は当たり障りのない挨拶をして、早足でその場を離れる。

のび太はその背中を見送りながら、自分の胸に広がる虚しさを、どうすることもできなかった。

静香が遠ざかる姿を見つめるのび太の頭の中に残ったのは、ただひとつの感情。

自分だけは変われなかった。

時間だけが過ぎ去り、自分は何もできていない。

一方の静香は自分とは違う世界で輝いていたが、その輝きもどこか翳りを帯びていることに気づいてしまったのだ。

彼女の疲れた表情、短い会話、そして早く帰りたそうな態度――すべてがのび太に現実を突きつけている。

「僕は…こんなままでいいのか…?」

のび太は自問自答しながら、その場で立ち尽くしていた。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第十一話・剛田商店の成功と静香の帰国


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賑やかな夜と静香の噂

27歳の剛田武は、成功を手にした青年実業家として、華やかな日々を送っていた。

これまでの努力と眠っていたビジネスセンスが実を結び、彼の経営する「剛田商店」は、イーコマース事業の大成功で全国的に知られる企業へと成長。

フォワーダー事業を通じて海外との取引も拡大し、業績は右肩上がり。

仕事は忙しいが、結果が伴う充実感に満ちていた。

仕事が終わると、武はよく銀座や新宿の夜の街に繰り出した。

パートナーでもある骨川スネ夫が「今日も一杯やりに行こうよ!」と誘ってくるのだ。

スネ夫は、大学時代から経営者としての才能を発揮し、今では父親からグループ企業の半分の経営を任されつつある実力者である。

お互いにビジネスの相談をし合える信頼関係を築きながら、時には豪快に酒を飲む友人同士でもあった。

銀座のクラブ、新宿のガールズバー――どこに行っても武の周りには女性が集まってきた。

「剛田さん、何をされている方ですか?」

「ううん、まあ、物流と商社関係の仕事を少々」

そう言って笑顔を見せる武のたくましい体格と自信に満ちた態度は、女性たちを大いに惹きつけた。

女性たちの視線が自分に集まるのは嫌いではない。

むしろ、その注目を楽しんでいた。

「ジャイアン、また別の子と飲みに行ったの?」

スネ夫が苦笑しながら尋ねると、武は肩をすくめて答える。

「いいじゃねえか。俺みたいな男が、女にモテない方がおかしいだろ?」

その言葉には冗談めいた軽さがあったが、実際に武はモテていた。

クラブやバーでの出会いだけでなく、仕事関係のパーティーでも女性から誘われることが実に多い。

筋肉質でたくましい体に仕立てたスーツが似合い、豪快で面倒見の良い性格が、彼をより魅力的に見せていたのだ。

恋愛に真剣になる気は特にない。

武は「遊び」を楽しむことに全力を注いでいた。

次から次へと新しい女性と出会い、その場限りの関係を続ける日々。

銀座、新宿、六本木……彼の夜の生活は派手だった。

そんな中、ある夜の銀座でのこと。

クラブのVIPルームでスネ夫と酒を酌み交わしていると、スネ夫が、ふと昔の話を持ち出した。

「そういえば、静香ちゃんのこと、聞いた?」

スネ夫の口から飛び出した名前に、武は一瞬手を止めた。

「静香?…ああ、源静香ちゃんのことか?何かあったのか?」

「アメリカに留学してたじゃん。確か現地で就職もしてたはずだよな。でも、最近日本に帰ってきたらしい。どうやら婚約者と別れたとかで、かなり傷心らしいよ」

その話を聞いて、武の胸には微かな違和感が広がった。

「婚約者と別れた?どうしてだ?」

「詳しいことはわからないけど、なんか、かなり揉めたらしいよ。向こうでの生活も上手くいかなくなったとかで、結局、実家に戻ったみたい」

武は、静香のことを思い出した。

幼い頃からの馴染で、小学校、中学校とずっと一緒だった子だ。

静香は賢くて優しくて、何より美しかった。

中学校時代、テニス部で彼女が自分に見せた笑顔は、武の中に深く刻まれている。

だが、小学生時代や中学生時代の甘酸っぱい記憶を抱きながらも、まだ剛田商店の経営を引き継いで奮闘していた頃に、彼女がアメリカで新しい人生を歩んでいると誰かに聞かされても、静香のことを昔の、遠い存在になっただけだと感じて、そのままになっていた。

「で、どうするんだよ、ジャイアン」

スネ夫がニヤリと笑って、武をからかうように言った。

「静香ちゃんに会いに行くのか?それとも、今の女遊びを続けるのか?」

「別に俺が会いに行く理由なんてねえよ」

武はそう答えたが、心の中では、何かがざわついていた。

静香が婚約を破棄し、日本に帰ってきたという話が、彼の中に眠っていた記憶を呼び覚まそうとしていたのだ。

その夜、家に帰った武は、久しぶりに昔の中学の卒業アルバムを開いた。

中学生時代の写真が、次々と目に飛び込んでくる。

その中には、静香が笑顔で映っている写真もあった。

「本当に帰ってきたんだな……」

彼は、その一枚をじっと見つめながら、胸の奥で何かが変わるのを感じた。

静香が傷ついて帰国したという事実が、武にとって遊びの延長ではない何かを、意識させたのかもしれない。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第十話・中学校での不登校の理由、拒絶と崩壊


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拒絶と崩壊

「のび太、いい加減に学校へ行きなさい!」

母親の玉子が大きな声でそう叱りつける朝が、何日続いただろうか。

のび太は、布団の中でうずくまりながら、耳を塞いでその声を聞かなかったことにしようとしていた。

中学校に進学する前までは、勉強が苦手でものんびり屋だったのび太は、母親の言葉を素直に聞いていた。

少なくとも、学校に行かないという選択肢は、頭の中になかった。

毎朝、起こされれば嫌々ながらも、ランドセルを背負って登校していたのだ。

しかし、月見台北中学校に入学してから、すべてが変わった。

きっかけは、些細な抵抗だった。

最初は「今日はちょっと具合が悪い」と布団から出てこない日がぽつぽつと増えた。

小学校時代から体が弱く見られていたのび太の言葉に、両親も最初は強く言えなかった。

「それじゃあ、今日は休んで明日からちゃんと行きなさい」

玉子は、そう言ってのび太を布団に戻すが、翌日も彼は行こうとはしない。

やがて「行きたくない」という理由を、直接口にするようになる。

玉子が制服を持ってきてもそれを受け取らず、父親ののび助が説得に加わっても、頑なに首を振った。

「学校は嫌なんだよ。行きたくないんだ」

彼の返答はいつもそうだったが、その言葉の裏には、もっと大きな理由が隠されていた。

ある日、玉子が布団を引き剥がし、強引に制服を着せようとしたとき、のび太は、いつになく激しい抵抗を見せた。

「やめてよ!行きたくないって言ってるだろ!」

彼の大きな声に驚いた玉子は一瞬手を止めたが、それでも引き下がらなかった。

「どうしてそんなことを言うの!学校には行かないとダメなのよ!」

しかし、のび太は泣きながら布団を掴み、身体を丸めて全力で拒否。

その様子を見た玉子は、それ以上強く言えなくなり、のび助もただ困った顔でその場を離れるしかなかった。

中学校でのいじめ――それがのび太をここまで追い詰めているのだと薄々察しつつも、両親にはどうすることもできなかったのだ。

11月の惨劇以降、のび太は、学校という場所そのものを恐れるようになっていたのである。

あの日、静香が自分を見たあの嫌悪感を含んだ目の表情が、脳裏に焼き付いて離れない。

どんなに眠ろうとしても、その表情が頭をよぎり、胸を締め付けた。

学校に行けば、また同じような目で見られる。

何かをされなくても、ただあの目で見られるだけで、自分が崩れ落ちてしまいそうだった。

登下校の時間帯は、家の外に出ることすらできない。

制服姿の同級生たちを見るだけで心臓が痛くなり、布団に逃げ込むのが精一杯だったのだ。

冬休みが始まると、学校に行かなくていいという安心感からか、のび太は少しだけ気を緩めた。

しかし、休みが終わる時期が近づくにつれ、彼の不安と恐怖は再び膨らみ始めた。

「行かなくちゃ……」

布団の中で何度も自分に言い聞かせるが、身体が動かない。

初日の朝、玉子に起こされても、「今日は無理だよ」と言い訳を繰り返す。

こうして、二学期の終わりから続いていた不登校は、三学期が始まっても改善することはなかった。

両親も最初こそ何とか説得しようとしていたが、次第にその熱意も薄れていく。

「また明日から行くって言ってるし」

「きっと、そのうち行くだろう」

そう自分たちに言い聞かせることで、両親も現実から目を背けていたのだ。

そんな中、のび太の心の支えは、またしても机の引き出しだった。

彼は、毎日それをそっと開けてみる。

小学校時代、引き出しの中にはタイムマシンがあり、そこからドラえもんが現れて助けてくれた。その記憶が、彼の唯一の希望だった。

「ドラえもん……戻ってきてよ。助けてよ……」

毎日祈るように引き出しを開けるが、そこにあるのは、相かわらず空っぽのスペースだけ。

それでも、彼は諦めなかった。

どこかで、これを知っているに違いない、ドラえもんが再び現れて、自分をこの地獄から救ってくれると信じていたのだ。

だが、何も変わらない日々が続き、のび太は次第に現実を受け入れ始めた。

それは、ドラえもんも、もう自分を見捨てたという現実だった。

中学校卒業の年、のび太は、とうとう学校に通うことなく時を過ごした。

一年も通わなかった中学校生活は、何も成果を得られることなく終わる。

「卒業」――その言葉を聞いたとき、のび太の胸には安堵と共に、深い虚しさが広がった。次に進むべき場所が何も見えず、自分の未来に何の展望も持てない。

そして、彼はそのまま部屋に閉じこもり続ける。

次第に両親も無理に外へ出そうとすることをやめ、のび太の生活は、布団の中と机の引き出しを行き来するだけの日々へと変わっていったのだった。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第九話・中学校生活の悲惨な真実


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11月の惨劇

真夜中の東京拘置所の単独室、眠れない死刑確定者の野比のび太は社会からはじかれることになった中学一年生の13歳の時を思い出していた。

あれさえなければ、そもそもここにいることはなかったと毎日欠かさず思い出しては、歯ぎしりする思い出である。

約三十年前、彼の入学した月見台北中学校は部活動加入が必須な中学校で、のび太はテニス部を選んだ。

小学校のころから憧れていた源静香が入部したと聞き、それだけが理由だった。

彼女の優雅にラケットを振る姿を思い浮かべ、自分も同じコートでプレーする未来を想像して、胸を高鳴らせていたものだ。

だが、それが間違いだった。

現実は、のび太の期待を無惨に打ち砕いたのである。

のび太は運動音痴であることを自覚していたが、ここまでとは思っていなかった。

テニスの基本的なフォームすらまともに身につかないのび太は、練習の輪に加わることさえできず、コートの端で球拾いを命じられる日々が続く。

コートに立つのは、ボールを拾って先輩や同級生に渡すときだけ。

プレーを許される機会は、一向に訪れやしない。

そして教室と同じく、同級生の部員たちも一向に上達しない彼をからかい、バカにしていた。

静香も最初はのび太同様球拾いだったが、夏休みの前くらいにはラケットを握り始めるようになっており、のび太の視線に気づいても、すぐに何事もなかったかのように練習を続けている。

それでも、のび太は静香の姿を見るためだけに、必死で部活に通い続けた。

だが、寒くなり始めた11月の放課後の練習で、それは起こる。

中学校の体操服である上下の青いトレーナーに着替えていたのび太のもとに、月見ヶ丘第一小学校出身の男子数人がやって来た。

普段からのび太をからかうのを楽しんでいた彼らだったが、この日も同じことをするつもりだったのだ。

「おい、野比。また役立たずの球拾いかよ?」

「そのへっぴり腰で、テニスなんかやれると思ってんのか?」

彼らの心ない言葉に、のび太は無視を決め込もうとしたが、その日の悪ふざけはいつもの程度では済まなかった。

「今日は特別なことをしてやる」

男子たちの目つきが変わり、一人がのび太の胸倉を掴んで、練習の準備が始まろうとしていたコートまで引っ張ってゆく。

「な、なんだよ!」

のび太が怯えた声を上げるも、彼らは笑いながら言葉を続けた。

「お前の息子、みんなに見せてやるんだよ」

彼らのうちの一人が力ずくで、のび太の両腕を後ろ手にねじ上げ、何とズボンを下ろし始めたのだ。

その瞬間、遠くから大勢の女子生徒とともに静香が練習を中断して、こちらを見ているのがわかった。

のび太は叫んだ。

「やめろ!やめろよおおおおお!!!」

だが、男子たちは耳を貸さない。

彼らは、のび太のジャージのズボンを引っ張り下ろし、さらにパンツまでも無理やり剥ぎ取ろうとする。

のび太は必死に抵抗したが、非力なために彼らの力に敵うわけもなく、ついに彼の下半身は無防備な状態になった。

女子から悲鳴が上がる。

その瞬間、彼の体は極度の恐怖と緊張に支配された。

そして――抑えきれない生理現象が起こった。

ジョボジョボジョボ…、ブリブリブリ…!

何とみんなに下半身を見られたばかりか、大小便まで漏らしてしまったのだ。

のび太の目からは涙が溢れる。

最悪の事態を理解しながらも、どうすることもできない。

周囲には、部活のメンバー全員と、何より静香の視線があった。

「おい、マジかよ!野比、やりやがった!」「くっせえええ!おええええ!!!」

男子たちは鼻をつまんで腹を抱えて大笑いし、周囲の女子部員たちも信じられないという顔を浮かべてざわつき始める。

しかし、一番のショックだったのは静香の反応だった。

彼女は目を見開き、口を開けてその場に立ち尽くした後、嫌悪感に顔をしかめて視線を逸らした。

「汚い…」

静香が小さく呟いたその言葉が口の動きで分かり、のび太の心に突き刺さる。

のび太はトイレに駆け込み、その後学校から姿を消した。

その日、泣きながら家に帰ったのび太は、何度も机の引き出しを開けたり、押し入れを開けたりした。

小学校のころ、引き出しにはドラえもんのタイムマシンがあったり、押し入れにはドラえもんが寝ていて、泣きつけば助けてくれた。

その記憶が彼を支えていた。

こんなひどい目に遭っているんだから助けてくれないわけはない。

「ドラえもん…助けてよ…」

しかし何度開けても、そこにあるのは、空っぽの引き出しと布団が置かれている押し入れ。のび太は、その度に目を閉じ、頭の中でドラえもんの声を想像した。

「大丈夫だよ、のび太くん。僕がいるから。」

その声を思い出すだけで少しだけ救われる気がしたが、それも長くは続かない。

現実に戻れば、ドラえもんはいないのだ。

あの日以来、彼が戻ってくることはなく、机の引き出しは、ただの引き出しになってしまった。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第八話・地域特産品を世界へ:剛田商店の挑戦


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トライアル&エラー、苦闘の日々、そしてその先

大学を二年で中退した弱冠二十歳の剛田武が脳卒中で倒れた父から引き継いだ剛田商店は地域で長年愛されてきた小売店だったが、時代の流れに取り残されて競争力を失い、膨れ上がる負債の山に押しつぶされそうになっていた。

「昔は、うちの店に人が溢れてたんだ…」

父の病室で語られる言葉を思い出しながら、武は店頭に立ち、閑散とした商店街を見つめる。

地元顧客の高齢化、大手スーパーやネット通販の台頭に押され、剛田商店の売上は急降下していた。

それでも武は諦めず、伝統的な方法で売上を伸ばそうと努力する。

父の店を継いでから二年間、チラシを撒き、商店街でのイベントを企画し、商品を値引きして集客を試みた。

店内には地元練馬産の新鮮な野菜や果物、長年の常連が好む食品が並んでいたが、集まるのはわずかな昔ながらの顧客だけで、売上げは思うように伸びない。

ある夜、店のレジを締めながら、武は虚しさに襲われた。

汗水を流して働いても、負債の額は変わらないどころか、増えていくばかりだったからだ。

「このままじゃ、店を守れない…」

何かアイデアはないかと店を継いでから欠かさず読むようになった日経新聞の記事の中に、興味を引かれるものがあった。

それは、アメリカの新興企業「アマゾン」が書籍をオンライン販売し、急成長しているという記事である。

さらに、楽天市場やYahoo!ショッピングといった国内のECサイトも、利用者を増やし始めているという。

この時代、人気のある商品がわずか数クリックで全国に届けられれようになっていたのだ。

「これだ…」武は目を輝かせた。

「ネット通販なら、この店の商品を全国に売れるかもしれない!」

翌日から、武はイーコマースについての勉強を始めた。

夜な夜なマーケティングや物流について調べ、成功事例を分析。

そして、従来の店舗販売からネット通販へ事業を転換することを決意した。

「この店の商品は、まだ価値がある。ただ、届ける方法が間違っていただけなんだ」

しかし、ネット通販を始めるには資金が必要である。

そこで武は幼馴染であり、高校生の時から実家の会社を手伝っていた骨川スネ夫に相談した。

スネ夫は、すでに父から経営者としての帝王学を叩き込まれており、大学卒業時点で一部の事業を任されて成果を上げていたのだ。

武の相談を聞いたスネ夫は、少し考え込んだ後、父に相談を持ちかけた。

「パパ、幼馴染の剛田武がネット通販を始めたいと言ってるんだけどさ。あいつの店の商品にはポテンシャルがあると僕は思う」

武は昔馴染みで、中学校二年の時には自分に因縁をつけてきた月見ヶ丘第一小出身のヤンキーから助けてもらった恩義もある。

何より、武の説明を聞いて商品も見せてもらったスネ夫は、経営者らしくさまざまなデータや武のビジョンを検討した結果を父に解説すると、「ふむ、面白いかもしれんな。投資してみる価値はある。やってみろ」とゴーサインが出た。

老獪なビジネスマンであるスネ夫の父の目から見ても、このビジネスは成功する確率が大いにあると踏んだのだ。

こうしてスネ夫の出資を受け、武はネット通販の準備に取り掛かる。

まず、地元特産品や人気商品を中心に、ラインナップを整えた。

さらに、商品の写真撮影や説明文にこだわり、顧客に訴求するためのコンテンツを作り込んだ。

ちょうどこの時期に発達し始めたSNSを活用したプロモーションも行い、地域の物語を織り交ぜた動画を発信した。

最初の数か月は手探りだったが、徐々に売上が伸び始める。

地元特産の無添加食品や手作り雑貨が全国の顧客に支持され、剛田商店の名前が広がっていったのだ。

「すごい、売上が急増してますよ!」

最近雇った若いスタッフの報告を聞いた武は、久しぶりに心から笑顔を見せた。

だが、成功はこれで終わらない。

ネット通販事業が軌道に乗る中で、海外バイヤーからの問い合わせが増え始めた。

特に成長著しい中国や北米での需要が高まり、武は輸出事業に着手することを決意する。

「次は輸出だ。日本の特産品を世界に届けるんだ!」

輸出事業を進める中で、武は物流の重要性に気付く。

これを機に、剛田商店は物流業務を自社で担うフォワーダーへと進化を遂げた。

剛田商店の倉庫を改装し、最新の物流システムを導入。

輸送効率を高め、顧客への迅速な配送を実現した。

スネ夫の紹介で海外バイヤーとの契約も増え、剛田商店は国内外で高い評価を得るようになる。

「剛田商店はただの小売店じゃない。俺たちは世界とつながる企業だ。」

武の目には、自信と誇りが満ちるようになった。

数年後、剛田商店は地域を越え、グローバルな企業へと成長。

地元の特産品を活かしたネット通販とフォワーダー事業の二本柱で、安定した売上を確保していたのだ。

「さすがジャイアン!やっぱり俺たちの大将だな!」

銀座のクラブで、スネ夫が微笑む。

「いや、あの時出資してくれたお前のおかげだぜ」

武は謙虚に応えながらも、この時はさらなる未来を見据えていた。

剛田商店の成功は、挑戦を恐れなかった武の熱意と、幼馴染たちの支えが織りなした新たな物語だったのだ。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第七話・自信満々の人生と転機


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自信満々の人生、そして転機

剛田武は、もともと自信に満ち満ちた人生を送って来た。

雑貨店『剛田商店』の長男として生まれ、子供の頃は大きな体と激しい気性から周りの子供に恐れられ、畏敬を込めて「ジャイアン」と呼ばれるガキ大将。

厳しい両親には逆らえなかったが、自分と同じ年代の子供たち相手にはやりたい放題の悪童で、よく発達障害で浮いた存在だったのび太をはじめ、他の子供をいじめたものだ。

だが、中学に進学すると小学校とは勝手が違ってくる。

身体能力が高く、仲間たちと草野球でよく遊んでいた武は野球部に入部したのだが、想像以上に厳しい世界が待っていた。

毎日の素振り、ランニング、体力トレーニング──ハードな練習と顧問教師や先輩の体罰を伴った叱責で、体力に自信があった武も音を上げそうになったものだ。

厳しいのは、練習ばかりではない。

進学した月見台北中学の野球部は「三年が王様、二年が平民、一年が奴隷」という典型的な体育会系の上下関係がハバを利かせ、これまで経験したことがないほどの理不尽な仕打ちを、毎日上級生から受けたものだ。

だからだろうか、他人の気持ちを考えない傍若無人なところのあった武はやられる側の痛みが、理解できるようになってゆく。

ある日のこと、小学校時代によくいじめていた同級生の野比のび太が、トイレで下半身を裸にされてモップを肛門に入れられるいじめを受けていたのに出くわした。

のび太が、学年で噂になるほどのいじめに遭っているのは耳にしていたが、想像以上に陰険ないじめだったのに、思わずカッとなった。

自分もいじめていたが、あんなひどいことまではしたことがないからだ。

しかも、やっているのは自分たちの出身小学校であるすすきヶ原小学校ではない月見ヶ丘第一小学校の奴らであり、同胞がよそ者にやられた気もする。

「すすきヶ原のモンに、手え出すんじゃねえ!」

武が一喝するや、いじめっ子たちは、その剣幕に恐れをなして逃げ散り、のび太は救われる。

救われたのび太は、泣いてばかりでお礼も言いやしなかったが、「今度月見ヶ丘第一のモンにやられたら俺に言え!」と安心させてやった。

その後も、何度か月見ヶ丘第一小出身者の魔の手から何度か助けてやったが、自分の目の届かないところでいじめを受け続けていたのび太は、学校に来なくなってしまった。

まがりなりにも、幼馴染ののび太が登校拒否になってしまったのは心苦しかったが、武ものび太につきっきりでいられない。

自分には、自分の学校生活があるからだ。

そして、最初は苦しいばかりだった野球部も、持ち前の負けん気が彼を支えた。

練習を続けるうちに肥満児でたるんでいた体は引き締まり、少年らしい丸みを帯びていた顔は、骨格が際立ち精悍になってゆく。

野球の技術もみるみる上達し、一年生の三学期の時点でレギュラーに抜擢され、二年三年と進級するや、中学野球の試合ではエースとしてチームを引っ張る存在になった。

その変化は、周囲にも影響を与える。

クラスの女の子たちが「剛田君ってかっこいいよね」と噂するのを耳にするようになり、照れくさくも誇らしい気持ちを抱いた。

特に幼い頃から顔見知りだった静香の視線を、意識せずにはいられなかった。

静香はテニス部に所属し、颯爽としたユニフォーム姿が印象的だったのを、今でも思えている。

武も時々彼女をチラ見ていたが、向こうも同様だったらしく、時々こちらを見ていた彼女と目が合ってお互い視線をそらし、胸の中がざわついたものだ。

静香の方もまた「武君がこんなに変わるなんて」と心の中で驚いていたようだが、それ以上の関係にはまだ至らなかった。

初体験は中二の時で、同じクラスの女子バレー部の今池まり子。

授業中に先生の目を盗んで見つめ合うようになった間柄で、部活終わりで生徒がほとんどいなくなった学校の体育館の倉庫に二人で忍び込み、むつび合った。

中学生とは思えない成熟したまり子の体を野球で鍛えた体で力強く組み敷きながらも、静香のことが頭に浮かんだ瞬間あっという間に果ててしまい、すっかりその気になって長丁場を期待していたまり子に「もう終わり?」と言うがっかりした顔をされたこっぱずかしい思い出だったが。

中学での活躍をきっかけに、高校、そして大学でも武は野球に没頭した。

高校では甲子園を目指して汗を流し、大学でも野球部に所属し、地域リーグで注目される存在となる。

彼の人生は、スポーツの世界で明るい未来が待っているかのように思われた。

しかし、大学二年生の時、父親が脳卒中で倒れたという知らせが、武の人生に影を落とす。

突然の出来事に動揺しながらも、家族を支えるため、そして家業である「剛田商店」を継ぐことを決意した。

剛田商店は地域に根付いた老舗ではあったが、実際に経営の詳細に目を向けてみると、負債が積み重なり、倒産寸前の状態にあることが分かる。

「どうしてこんな状態になるまで、誰も何も言わなかったんだ…」武は頭を抱え、途方に暮れた。

しかし、諦めるわけにはいかない。

スポーツで培った根性と決断力で、何とかして剛田商店を立て直す方法を模索し始めた。大学での野球の道を断念し、経営者として歩み出すことを決めたのだ。

かつての輝かしいフィールドを後にして、全く新しい武の戦いが若干二十歳で始まった。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第六話・墜ちた男の物語:成功から失落への旅


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墜ちた男

鳴り続けたインターフォンは止んだ。

あきらめて帰ったらしい。

「まったく、うるせえ奴らだ…」

剛田武はスマートフォンを握りしめ、荒れ果てた1Kのマンションの片隅で、体を崩すように座っていた。

かつてはジム通いを欠かさず鍛え上げられていたその体は、今や贅肉に覆われ、重たく沈んだ。

部屋中には空の酒瓶が無造作に転がり、食べかけのスナック菓子の袋が散乱し、床には何度も脱ぎ捨てたままの衣服が溜まり、埃が家具に層を成している。

ほんの数年前までこの部屋に似つかわしくない「成功者」としてのオーラを纏っていた男の面影は今やほとんど残されていない。

目の前のスマートフォンには、かつての幸福な記憶が映し出されている。

芝浦のタワーマンション『ザ芝浦東京マリンスカイ』、最上階にある豪華な共用パーティールーム。

武がまだ成功した剛田商店の若きCEOとして、家族や友人、社員たちに囲まれて頂点の生活を謳歌していた頃の光景だ。

画面には静香が微笑みながら、よちよち歩きの次男・優士の手を引いている姿が映っている。

清楚なワンピース姿の静香が夫としての武を誇らしげに見つめていたのが、当時の彼にとって何よりの幸せだった。

長女の葉音は参加者が連れてきた子供たちと笑い合いながら走り回り、大人たちはその様子を眺めながら、リラックスした雰囲気の中で家族と共に新年会を楽しんでいた。

その光景の中、酔いが回った武がカラオケのマイクを握りしめ、大声で宣言する場面が現れる。

「おい!俺の十八番、聞きたいだろ!」

「社長、それだけは勘弁してください!」

「ジャイアン!その歌聞くと子供が泣くんだ、我慢してくれよ!」

スネ夫や出木杉、社員たちから次々と飛び交うブーイング。

それでも、武は意に介さずカラオケ機械に向かって曲を選び始める。

レミオロメンの『粉雪』のイントロが流れると、葉音が「うぎゃー!始まった!」と叫び、耳を塞ぐ。

静香は笑いながら優士の耳を覆い、場内には爆笑が広がる。

それでも歌い続ける武を見て、誰もが和やかな笑顔を浮かべていた。

その動画を見つめる今の武は、一瞬、かすかに微笑む。

だがその微笑みもすぐに消え、目元に深い陰りが戻る。

画面の中の自分の楽しげな姿と、今の自分のあまりに異なる姿に、彼の心は締め付けられるようだったからだ。

酒瓶に手を伸ばし、武は一気に中身を飲み干す。

アルコールが喉を焼く感覚に目を閉じるが、それで気分が晴れるわけでもなかった。

むしろ、苦味だけが増していくように思える。

「…こんな幸福が、いつまでも続くと思ってたんだよな。」

呟く声はかすれ、部屋の中に虚しく響く。

かつては多くの人に囲まれ、家族と笑い合い、何もかもが自分の手の中にあるように感じていた。その全てが、ある日突然崩れ去った。

あの新年会のあった年、また幸福な一年が始まったと信じて疑わなかった年、静香と葉音、優士の命が奪われたあの日から彼の生活は一変した。

仕事どころか生きる気力さえ失った武は会社を売却。

家族との思い出が残る『ザ芝浦東京マリンスカイ4003号室』も売り払い、今は企業の経営者の時に区分所有者として都内各地に購入していいたタワマンの部屋の賃料収入だけで荒れた生活をしている。

家族も、仲間たちも、タワーマンションでの華やかな生活も全て失った。

それでもなお、この動画を見る時だけは、ほんの少しだけあの頃の感覚を取り戻すことができる。

「戻れるもんなら戻りたいよな…」武は自嘲気味に笑いながらスマートフォンの画面を消した。

荒れた部屋の中、薄暗い蛍光灯の下で、彼の影は深く沈んでいた。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第五話・東京の夜に潜む悲劇: 剛田武


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友情の残響

黒塗りのハイヤーが、千代田区の静かな街並みを抜けて、首都高速へ向かっていた。

夜の東京はネオンと街灯に彩られ、都会の華やかさを放っている。

その中で、車内の後部座席に座る二人の男の表情は対照的に沈んでいた。

彼らは、これから品川区南大井のある場所へ向かう。

後部座席の左側に座る細身でキツネ目の男は骨川スネ夫。

国内外で数々の企業を興し、先代をはるかに凌ぐ規模で不動産や金融、ITなどのビジネスを展開する、骨川グループの敏腕CEOであり、投資家としての名声も高い男だ。

四十代に入ってはいたが、細身の引き締まった体格を保ち、さらに洗練された外見を持つようになっていた。

テーラードスーツは彼の体に完璧にフィットし、控えめながら高級感のあるネクタイと、カフスボタンが成功者の余裕を物語る。

吊り上がった目元は、幼少の頃の意地悪そうな印象を洗練された鋭さへと変え、尖った口元もビジネスマンとしての緊張感を醸し出していた。

骨川の隣に座るのは、出木杉英才。

長身で端正な顔立ちを保ちつつも、冷静で知的な雰囲気を漂わせていた。

切れ長の目、鋭い眉、高い鼻梁──すべてが彼のエリート然とした雰囲気を強調している。シンプルなスーツに身を包み、無駄のないファッションセンスが、彼の合理的な性格を映し出す。

彼は所属弁護士50名を超える大手法律事務所の代表として、法曹界で名を馳せる存在であり、その冷静な判断力と卓越した弁舌で、数々の難題を解決してきた。

この成功者の二人であるが、これから向かう先で待っているであろうことを思うと、険しい顔をして先ほどから互いにほとんど口をきいていない。

「今日もだめだろうな…」骨川は低く呟き、ネクタイを軽く引き直した。

「無駄だと分かってても、やめられないんだよね…出木杉先生」

「剛田さんを見捨てるわけにはいきませんよ、骨川社長」出木杉が静かに答えた。

目は外の夜景を見つめたまま動かさない。

「あんな風になったままの彼を見続けるわけにはいきませんから」

車は首都高速に入る。

ビルの合間を抜けるように滑る道路は、ライトの反射で淡く輝き、静けさを増していく。

ハイヤーは速度を保ちながら、目的地である品川区南大井に向かっていた。

二人が向かっているのは十年前に妻と子供を殺され、荒れ果てた生活を送る剛田武の住む1Kのマンションだった。

かつては「剛田商店」というフォワーダー企業を経営し、芝浦のタワーマンション最上階に住む成功者だった彼は、家族を失ったことで全てを手放し、今では酒浸りの日々を送っている。

骨川と出木杉はその剛田商店を中国系企業から買い戻し、再び剛田をCEOとして復帰させる計画を何年も前から進めており、それが最終段階に来ていた。

「ジャイアンをこれ以上放っておいたら、完全に潰れる」

骨川は車内の静けさを破るように呟いた。

「だからこそ、何度も来ているんですよね」出木杉が視線をスネ夫に向ける。

「成功するかどうかは分かりませんが、動かなければ何も変わりません」

やがて、ハイヤーは南大井の二階建ての中規模のマンションに到着した。

剛田武が生活する『フェリスホワイト南大井』。

エントランスはオートロック式で監視カメラが設置されている、最低限の設備が整った建物だ。

二人は車を降り、インターフォンの前に立った。

骨川がボタンを押すと、しばらくしてろれつの回らない声が応答してきた。

「またお前らか…」

カメラに映る二人の姿を見た剛田武は、疲れ果てたうんざりしたような声で言った。

そして「酒、買ってきてくれたんだろうな?」と、武は吐き捨てるように続ける。

その態度にスネ夫は眉をひそめたが、静かに決意を込めた口を開く。

「武君、いや、ジャイアン。聞いてくれよ。前から言ってた剛田商店を買い戻す件だけどな、あれもうちょっとでうまくいきそうなんだ。ジャイアンが手放した会社を取り戻したら、またCEOでやってもらうつもりなんだよ」

しかし、武は聞く耳を持たない。

「そんなのどうでもいい! 俺をほっといてくれよ! 酒を買ってきてくれないなら帰れ!」苛立ちを露わにすると、武はインターフォンを切った。

そして何度押しても応答しやしない。

スネ夫は拳を握りしめ、インターフォンに押し続けようとするが、出木杉が肩に手を置いて制した。

「無理強いしても彼の心は変わりませんよ。今はこれ以上どうしようもない。」

「…分かってるよ。でもさ、どうしてここまで落ちぶれちまったんだ、ジャイアンは…」スネ夫の声には明らかな苛立ちと諦めが混じっていた。

二人は再び短い沈黙を共有し、諦めきれない表情のままハイヤーに戻る。

エントランスの監視カメラが再び静かに彼らの後ろ姿を見守っていた。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第四話・消えた奇跡といじめの葛藤

 


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消えた奇跡と止まった時間

小学校五年生の時に退院して家に戻るや、あの奇跡のような一年間は二度と戻ってこなかったが、それを忘れられないのび太は、パパやママによくドラえもんの話をしたものだ。

しかし、両親はまるで彼のことなど忘れてしまったかのような態度で受け流し、始めからいなかったとでも言うかのように、彼の語る言葉を受け入れてくれなかった。

学校に行けば、現実はますます厳しいものとなる。

勉強についていけなくなったのはもちろんのこと、クラスメートからのいじめも、ひどくなる一方。

昔から憧れていた同級生の源静香、幼稚園の頃から自分をしょっちゅういじめていたジャイアンこと剛田武と骨川スネ夫。

彼らとは、四年生の時にドラえもんを介して距離が縮まり、みんなでドラえもんと一緒に他の星やジャングル、魔界を冒険して修羅場をくぐった戦友たちともいえる存在だったが、静香はドラえもんが来る前のようにのび太にそっけなくなり、ジャイアンとスネ夫も相変わらずどころか、以前にも増してからかったり暴行を加えて来るようになってきた。

そして彼らも両親同様、ドラえもんの話をしても「知らない、覚えていない」とでも言うような冷たい態度だった。

小学校を卒業して中学校に上がると、いじめはさらに激化する。

中学校の入学生には母校の「すすきヶ原小学校」以外の小学校である「月見台第一小学校」出身の者たちがおり、彼らがその主な加害者となった。

彼らは「すすきヶ原小学校」の同級生より悪質で、自分のことを「見たこともないくらいいじめがいがある奴」だと思っていたらしい。

だが、新しい同級生たちからズボンとパンツを下ろされるという陰険で屈辱的な暴力を受けていた時、小学生時代に自分をいじめていたジャイアンが彼を助けてくれたことがある。

元々大きくて身体能力の高い体を野球部の厳しい練習で磨きをかけているジャイアンは、同級生に一目置かれていたため、力強く大きな声で怒鳴ると、彼らはすくみあがった。

「すすきヶ原のモンに手え出すんじゃねえ!」

ジャイアンは、たとえのび太のような者でも、自分の母校出身の者が他の学校出身の者にやられるのが我慢ならなかったのだ。

そして、野球部で上級生からしごきを受けて、やられる側の気持ちを味わっていたからであろう。

それ以降、自分の見ている前で、月見台第一小出身の者に、のび太をいじめさせなかった。

そういう時だけは救われた気がしたが、ジャイアンはいつもそばにいて守ってくれるわけではない。

彼の見ていないところでいじめは絶え間なく続き、のび太は中学校一年の三学期に登校拒否に陥った。

家に閉じこもるようになったのび太は、そのままニート生活に突入。

ドラえもんが再び帰ってこないかと、毎日机の引き出しをそっと開けては、何もない空間を見つめる日々を送るようになる。

あの青い体が突然現れて、「大丈夫だよ、のび太くん」と言ってくれるのをずっと待っていたのだ。

だが、何も起こらない現実が、いつも彼を締め付けた。

希望は消えることなく心に残っていても、現実には届かない。

のび太の心は中学一年生のまま止まり、気づけば歳月は容赦なく過ぎ去っていた。三十路を迎えてもそのままの彼は、やがて人生を狂わせた「あの日」を迎えることとなる──彼を拘置所に追いやった日を。

続く

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死刑確定囚・野比のび太 – 第三話・閉じ込められた夢と現実


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逃げ場のない三畳の現実

東京拘置所の北収容棟五階の単独房。

三畳という狭さで壁も天井も真っ白に塗られ、無機質な静けさに包まれているこの部屋が、のび太の日常の生活空間だ。

同所は2006年に完成したが、古びた感じはしない。

しかし空調は十分ではなく、ほのかな寒さが体に染み渡る。

狭い単独室には唯一よろい戸の隙間から、わずかな光が差し込んでいた。

その細い一筋の光が部屋の中央に影を落とし、のび太の顔を淡く照らすが、曇りガラスのために外の風景を望むことはできない。

窓の外には自由な世界があるはずなのに、ここからは何も見ることができず、ただ光と影が無力に揺れているだけだった。

のび太は、横になって目を閉じる。

その時脳裏に浮かぶのは、いつも小学校四年生から五年生のあの楽しかった日々。

あの年は、彼の人生で最も輝いていた。

ドラえもんが未来から突然現れて、どんな困難も解決してくれた夢のような一年。

学校で嫌なことがあっても、どんなにいじめられても、ドラえもんのポケットから出てくるひみつ道具があれば、全てが魔法のように解決されたものだ。

そればかりではない。

大昔にタイムスリップしたり、他の惑星や宇宙の果てまで冒険したり、海底やジャングルを駆け巡ったり、魔界へ行ったり──すべてが現実離れした非日常の体験の連続だった。

何十年分の夢を詰め込んだようなその時間は、のび太にとって今現在も唯一無二の宝だ。

しかし、ある日すべてが変わる。

小学生だったのび太が小児姓の難病に侵され、病院での長く苦しい入院生活を終えた後、家に戻るとドラえもんは、もういなかった。

困った時にのび太を助けることも、ひみつ道具を出してくれることももちろん、時折姿を見せることすらもなくなる。

もはや、あの素晴らしい日々が戻ってくることはなかった。

今、のび太はこの白く無機質な部屋に閉じ込められている。

過去の夢にすがる自分が情けないとわかっていながらも、ドラえもんが再び現れてすべてを救ってくれる日を未だに待っていた。

「こら!何を寝ている!起きろ!」

ドアの向こうの外から、拘置所の職員の怒鳴り声が響く。

のび太は、はっと眠りかけていた目を覚まし、ぼんやりとした表情で体を起こす。

現実の重さが、体にのしかかってくる。

外の世界では一日何度もしていた昼寝すらできない。

拘置所では、横臥許可をとらなければ体を横たえることもできないのだ。

「早く…どこでもドアか何かで助けに来てくれよ…」

のび太は、心の中でドラえもんに向けてつぶやいた。

どうして、僕の前からいなくなったんだろう?

あの日以来、学校から帰っても部屋にいつもいたドラえもんの姿はなく、机の引き出しを何度開けても、そこにタイムマシンはなく、何も入っていない引き出しの中の空間があるだけ。

でも、ドラえもんは僕を救いに未来から来たはずだ。

いつか、きっと助けに来てくれるはず…。

真っ白な壁に囲まれて逃れられない現実に追い詰められながら、のび太はただじっとありもしない希望を抱き続けていた。

続く

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