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1915年(大正15年)に始まり、すでに100年を超える歴史を有する高校野球。
それを統括する高野連(日本高等学校野球連盟)は、一貫して日常のちょっとした不祥事でも厳重に処分するという姿勢でもって運営してきたため、各校野球部内で体罰やしごきが横行していても、これまでどの試合も表向きは健全に行われてきたといえよう。
だが、その長い歴史の中でも最悪と言ってもいい騒動が起きた試合がある。
それは、1969年7月夏の全国高校野球長野大会で起こった。
1969年長野-丸子実業戦
1969年(昭和44年)7月25日、上田市営球場で行われた夏の全国高校野球長野大会の一回戦第二試合の長野高校-丸子実業高校戦は、前半から不穏な空気に包まれていた。
同日午後2時15分から始まったこの試合、四回裏の丸子実業の攻撃中に審判の判定を巡って、丸子実業を応援する三塁側スタンドの観客席から空き瓶が投げ込まれるなどの騒ぎがあり、一時試合が二十分間中断。
およそ高校野球に似つかわしくない危険なムードの中で試合は再開されたが、双方決め手を欠いて延長戦となった。
日も傾き始めた午後6時半ごろ、4-4の同点で迎えた十一回表の長野高校の攻撃で、すでに2アウトとなっていた長野高校の選手の打った球が三塁ベースをギリギリで抜いてファウルグランドに転がる。
きわどい当たりであったが、審判は「フェア」と判定。
長野高校に1点が入って、さらに2点目も追加して勝ち越した。
丸子実業側は「ファウル」だと抗議したのだが、判定が覆るはずはない。
合点のいかない判定によって勝ち越された丸子実業は納得できない様子だったが、選手や監督以上に納得していない者たちがいた。
またしても、丸子実業側スタンドに陣取る観客たちだ。
再びグランドにモノが投げ込まれ、数名がグランドに乱入する事態となって、この試合二回目の一時中断となった。
そして、丸子実業の選手たちも行動に出る。
試合再開後、再三けん制をしたり、選手がタイムをとってわざとらしく靴ひもを結びなおしたり、不自然な選手交代を行うようになったのだ。
どう見ても、試合の引き延ばしをしているとしか思えない行動である。
その狙いは、日没引き分けだろう。
試合は事実上の三度目の中断となった。
だが、この腹いせの姑息な作戦は大いに裏目に出る。
そして、空前絶後の大騒動をも招く。
没収試合、そして爆発
ゲ-ムが遅々として進まなくなった事態を前に、審判団と長野県高野連は協議を始めた。
露骨な遅延行為であり、このような行為を許すわけにはいかない。
午後6時45分、審判団はきつい判定を下した。
それは没収試合。
没収試合とは、試合において一方のチ-ムの行為が原因で試合の開始又は続行が困難となった場合に、原因となった側のチ-ムを強制的に敗戦扱いとする判定である。
ここで原因となったチ-ムとは、もちろん丸子実業だ。
試合は9-0で長野高校の勝ちとされた。
だが、この毅然とした判定はすでに一万人になっていた観客、特に丸子実業を応援していた数千人もの観客たちに対してはあまりにも危険なものとなる。
彼らの一部は、すでに二度にわたってモノを投げ込むなどエキサイトしていたのだ。
判定がアナウンスされるや、これらの観客は総立ちとなって口々に怒りの声を上げ始め、例のごとく、グラウンドにモノを投げ始めたのだが、今度のはそれではすまない。
投げる標的は審判団であり、先ほどより多くの観客がグランドになだれ込み始め、球場内に引かれている電話線を引きちぎり始めた。
さらには誰かが放火したらしく、丸子実業側の観客席に火の手が上がる。
ちなみに暴れているのは丸子実業の生徒ではなく、大人の一般人だから始末が悪い。
まだ娯楽の少ないこの時代、プロ野球を生で見る機会のめったにないこの地方の大人たちは、高校野球でも見ごたえのあるものだったらしく、それぞれ在校生でもないのに、ひいきのチームを応援しに来ていたようだ。
そして、選手や応援する生徒よりエキサイトしてしまったのである。
なだれこんだ観客がグランド内の設備を壊し、観客席まで燃え始めた上田市営球場は、高校野球の試合会場とは思えない修羅場となってしまった。
完全無欠の暴動である。
通報を受けて、鎮圧のために上田署から警官約100人が出動。
暴れた観客2名が逮捕されるなどして沈静化させ、8時半には、ようやく騒動はおさまった。
その後
高校野球の試合において現代までグランドに観客が乱入したり、モノが投げ込まれる事態はあったようだが、この規模のものはさすがにない。
勝ったとはいえ、試合をめちゃくちゃにされた長野高校の監督は、「ウチの選手も丸子実業の選手もかわいそうだ。これは大人の横暴だし、そもそも大会の運営にも問題があるだろう」と話していた。
一方の丸子実業の監督は、「没収試合にされたのは実に乱暴だ」と没収試合にされたことに納得していなかった。
主催者である県高野連の運営のまずさを非難する声も世間では多かったようだが、こんな騒動を起こした責任は取らせなければならない。
その矛先は丸子実業に向かった。
同校の野球部は暴動の一因を作ったとして謹慎していたが、高野連は対外試合を2年間停止するという重い処分を下す。
もっとも、11か月後にはこの処分は解除されている。
そして、試合当日に応援に繰り出していた丸子実業野球部の後援会は、責任を取って自主的に解散した。
暴れたのは大部分が大人であって高校生たちではなかったのだが、やはり原因を作ったことには変わりがないとみなされていたようだ。
いずれにせよ、令和の現代では考えられない事件である。
しかし、この時代は学生運動なども盛り上がりを見せて、機動隊が出動する事態に発展することも珍しくはなかったのだから、当時の日本人は令和のすっかり軟弱になった我々より、総じて血の気が多かったことは間違いない。
出典元―信濃毎日新聞、朝日新聞、毎日新聞
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