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おそらく平成を迎えた頃からだと思うが、自分の子供に日本人らしくないばかりか常識から外れた名前、いわゆるキラキラネームを付ける親が目立ってきた。
私の職場の同僚であるO川秀定もその一人で、来月生まれる予定の息子には「都夢」と名付けるつもりだと嬉々として宣言してしまっている。
A川も含めて、こういう親たちは自分の子供がどんなふうに育つように願っているのだろうか?
そんな名前を付けられるなんて、実に不憫な子だと切実に思う。
私はそんな変わった名前を付けられて成長した人間をリアルに知っているからだ。
1975年(昭和50年代)生まれの私の世代にも、現在ほど多くはないが珍妙な名前を背負わされた者がいた。
彼らはその時代において圧倒的少数派、いや異端派ですらある名前ゆえに、いやが応にも目立ち、いわれなき不愉快を感じていたのだ。
高校時代の同級生
高校に入学した時、同じクラスになった同級生は、名前が林五だった。
B原リンゴである。
漢字も読みも正統派の名前が99%超だった昭和49年や50年生まれの同級生の中で、さすがにリンゴという名前の響きは目立つ。
そして、
本人は相当気にしていた。
今でも覚えているが、クラスで最初のホームルームで自己紹介をやった時、林五は「○○中学出身のH原です」と下の名前を名乗らなかった。
なのに、空気の読めない担任は「下の名前は?これ何て読むの?リンゴ?」と心無い問いを発したため、林五は「…リンゴですよ!」と、憮然として答えたものだ。
さらにその後、より心無いクラスメイトたちが大爆笑したため、林五は正にリンゴみたく怒りで顔を赤くして「笑ってんじゃねえ!」と大声を出した。
どうやら両親が『ビートルズ』のリンゴ・スターの大ファンで、身内の反対を押し切って名付けたらしい。
リンゴという名前を付けるなら付けるで、「凛悟」とか「麟吾」とか、画数が多くてそれなりに教養を感じさせる秀麗な漢字でカバーすべきなのに、安易に「林五」である。
これじゃあ小作人の五男みたいじゃないか。
響きだけを優先させたのは見え見えで、他人事ながら教養の程度が分かり易い実に愚かな親である。
ちなみに林五には妹がいて、こちらはB原恵美となぜか正統派の日本人名、兄との落差が際立っている。
林五は大柄で恵まれた体格の持ち主のうえに性格が荒く(ラグビー部に所属していた)、同じ中学出身者によると、小学校の頃から自分の名前をちょっとでもからかう人間は問答無用で制圧してきたらしい。
そして両親をかなり憎悪しており、「親を殺しちゃいけない理由がわからねえ」が口癖。
そんな危険人物は「林五」と呼ばれると瞬時に顔色を変えるため、1年の時、彼を下の名前で呼ぶどころか「リンゴ」という単語自体が禁句となってしまった。
私など「アップル」と言っただけで、林五に胸倉をつかまれたことがある。
浅はかな命名をしたばっかりに息子の根性をひねくれさせ、他人に脅威を与える人間にして社会に放った林五の両親の罪は重い。
中学時代の同級生
林五は性格こそ歪んでいたが、周囲の偏見を沈黙させる能力を有していたからまだましだったかもしれないが。
私が入学した高校には同じ学年にもう一人変わった名前の持ち主がおり、こちらは女子生徒だ。
その名はC西エレナ。
漢字ですらない、ダイレクトにカタカナの横文字ネームである。
エレナの存在は、入学当初から主に男子生徒の間で話題になっていた。
ハーフか?それとも外人さん?
気にならずにはいられない名前ではないか!
入学後ほどなくして、エレナが在籍するクラスには、彼女の顔を一目見ようと他のクラスばかりか上級生の男子が殺到したらしい。
私のいたクラスの生徒たちも例外ではなく、はるか遠くの教室まで、勝手に幻想を抱きながら「エレナ詣で」に出かけて行った。
だが、彼らはがっかりしながら戻ってきた。
実物はあまりにも名前との乖離が激しかったからだ。
実際のエレナ本人はスタイルも顔も典型的な日本人、チンチクリンでずんぐりむっくり体型をした大福顔で、ハーフどころか帰国子女でもない。
戦前の農村あたりによくいたタイプの佇まいで、スカートよりモンペが似合いそうなくらい地味な女の子だった。
名前も「和子」とか「敏子」どころか、「お七」や「お駒」あたりが妥当ですらある。
その容貌に対してエレナという名前は、遺伝子学的に著しく不適切だった。
彼女の両親は「エレナ」という洋風の名前を付けさえすれば、成長の過程で突然変異が起こるとでも思ったんだろうか?
その暴挙に対して、責任を追及したい気分だった。
本人の責任では決してないが、それが当時、エレナを初めて見た時の私の偽らざる印象である。
その後、3年生になって、私はエレナと同じクラスになった。
直接話したことはあまりなかったが、ある時期の席替えでエレナの席が私の前になったことがあり、休み時間になると時々エレナの友達たちがおしゃべりをしに来るようになった。
その会話から、エレナは仲間内で「レナ」と呼ばれていることを知った。
また、名前には似合わないが容貌にふさわしく古典が得意で英語を苦手としており、信仰する宗教は仏教の臨済宗妙心寺派、好物はあんころ餅と草餅だとのこと。
趣味嗜好は典型的どころか、鎖国していた江戸時代の町人の娘レベルの日本人ぶりだ。
ある日のおしゃべりで、友達の一人がエレナの名前のことを口にしたのが耳に入った。
「レナの名前ってさ、すごくきれいだよね」
「やめてよ~、全然気に入ってないんだから」
「外人さんみたいでいいじゃん」
「その顔のどこがエレナだ、とかしょっちゅう言われるんだよ?私のせいじゃないのに!」
やはりエレナも自分の名前を気にしていた。
その後の会話で、どうやら母親の方が独断で命名したらしいことが分かった。
何でも、昔からあこがれていた外国人スーパーモデルの名前が「エレナ・何とかコフ」で、それが由来だという。
タチの悪い母親だ。
「そんなんで自分の娘の名前決めるなっての!自分と、自分の旦那の顔見りゃどうなるか想像つくだろうが!まともな名前つけろよ、ウチのバカ親!!」
エレナもしゃべっているうちに興奮してきたらしく、毒説を吐きまくっていた。
その後、エレナの愚母をこの目で拝む機会が訪れた。
進路指導のための三者面談で私と母親が面談を待っていた時、私たちの次の順番がエレナ母娘だったため、廊下で一緒に待つことになったのだ。
エレナ母は、娘をそのままエイジング処理したらこうなる、というぐらいそっくりで、ずんぐりしたドングリ体型なんぞ同じ型でハメたように一致する。
遺伝形質に対して挑戦的な命名を娘に強行した張本人は教育熱心でもあり、待っている最中、進路に関して学業成績の悪いエレナに、あれこれ小言を言っているのが聞こえた。
そんな母親に対し、エレナは「もう分かってるっての!」「しつこいよ、ホント!」と終始いらだち反抗的に応答していた。
思春期という事情もあるだろうが、親子仲が良好ではなさそうだった。
そんなこんなで高校を卒業したが、その後、林五にもエレナにも会ってないから彼らがどういう人生を歩んだかは分からない。
その名前について、今はどう思っているかも知らない。
変な名前やキラキラネームを付けられた子供全てがそうなるとは限らないだろうが、思春期の彼らを見た限りでは自分の名前を気に入っていた様子はなく、そのおかげで大きな悩みを抱えていた。
そういった悩みは一過性のもので、成長の糧になることもあるんだろうか?
だが、一生のうち必ず味わわなければならない悩みでもないだろう。
できることならば、そんな無用な苦しみは味わわせるべきではないはずだ。
親の願望を子供の名前に託すのはいいが、思わずからかいたくなる名前になっていないかよく考えよう。
だから、A川秀定くんよ。
今度生まれる子供に「都夢」って名前つけるのやめた方がいいぞ。
君にも林五やエレナの話をしただろう?
戦国大名みたいな自分の名前が悩みだったからって、トムって名前つけられた息子はそれとは別種で、より深刻な悩みを持つかもしれないんだからな。
え?「都夢」はトムじゃなくて、ドムって読むのか。
いや、そりゃあ目立つだろうけど、人気者とは限らんよ。
それに自分の願いは、林五やエレナの親ほどチャラくないだって?
じゃあ、どうチャラくないってんだ?
何々?ほうほう。
なるほど、
『機動戦士ガンダム』のジオン軍のモビルスーツである『ドム』のような強い男になって欲しいという願いを込めてこの名前に…。
よけいタチ悪りィわ!!
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