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神秘の世界をのぞいた代償~女子トイレをのぞいた元少年の懺悔~

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橋本健一は、今年26歳になった。

だが、心はO市立北中学校三年七組の生徒のままだ。

彼は三年生の夏休み前に登校拒否になり、そのまま十年以上ニート生活を送って来た。

登校拒否の原因はいじめ。

いじめを受けるようになったきっかけは、当時のクラスメイトの前田瞳が大いに関係している。

中学校時代の橋本の片思いの相手だ。

だが、橋本は瞳を恨んではいない。

むしろ、悪いことをしたと今でも悔やんでいる。

クラスの人間ばかりか、他のクラスの者からも二度と学校へ行く気がなくなったほどのいじめを受けたことは確かだが、やられても仕方がないことをしてしまった。

それは、魔がさしたとしても許されざることだったと反省している。

思えば11年前の5月10日木曜日三時間目の英語の授業。

「体調が悪い」と教師に告げて教室を出て行った瞳を見た当時の橋本は、トイレに行ったのだと確信。

日頃から瞳の入浴や排泄を想像してはオナニーをしていた橋本は、のぞきたいという衝動を抑えきれない余り実行に移してしまった。

彼女が出て行った直後に、自分も「気分が悪い」とか言って教室を出て、予想通り女子トイレに入って行く瞳の後ろ姿を遠目から確認すると橋本も間を置いて女子トイレに入り、彼女が入ったに違いない個室の隣の個室の壁と床の隙間から、片思いの相手の排便を拝む。

まず目に入ったのは丸い尻。

二つに分かれた何の変哲もない尻だが、あの瞳の尻も二つに割れていることに、妙な安心感と感慨を感じて拝見していたのもつかの間。

その直後、圧巻のスペクタクルが始まる。

ぶぶっ、ぶうぅうう~、ぶりっぶりぶりぶり…ぶり!

音消しの水を流していたにも関わらず、丸い尻から大音響の屁が響いた直後に盛大にひり出される糞、ほどなくして漂ってきた鼻が曲がりそうな糞臭に、橋本の思春期の股間は決壊。

ズボンとパンツをはいたまま盛大に射精した。

その情景は目に焼き付いて離れず、悪いことをしたと思いつつも、26歳になった今でも橋本の重要なズリネタになり続けているくらいだ。

このまま教室に無事戻っていれば完全犯罪、いや、思春期の後ろめたくも素晴らしい思い出で済んでいたことだろう。

だが、こののぞきが、その後に続く大きな代償を払うことにつながってしまったのは、瞳がケツを拭いている間に女子トイレから脱出しようとしたところを、校内巡回中の体育教師に見つかってしまったからだ。

その体育教師も気のきかない奴で「お前のぞいてただろう!」とその場において大声で問い詰めるものだから、その後、トイレから出てきた瞳に自分の脱糞がのぞかれていたことと、その犯人が橋本であることを気づかせてしまった。

その場で泣き崩れた瞳は、ショックのあまり、その日以来しばらく学校に来なくなってしまったみたいだ。

「みたいだ」というのは、それから一か月くらい後に、橋本も学校に行けなくなったからである。

トイレをのぞいたことでその日の放課後、体育教師や橋本の担任教師、生徒指導の教師にこっぴどく叱られて親にまで知らされて、家でも怒られる羽目になったが、これは大したことではなかった。

教師たちは、生徒に知られないようにしてくれていたみたいだが、泣きながら教室に戻って行った瞳が、仲のいい友達に打ち明けたのが伝わってしまったらしい。

橋本のやったことは、次の日には三年七組の生徒たちに知られており、ここから本物の地獄が始まる。

まず始まったのはシカトだった。

それまで仲の良かった者まで、橋本が話しかけても露骨に無視するし、女子生徒などは性犯罪者を見る目つきで敵意のこもった視線を向けてくる。

さらに、学校の不良グループに体育館の裏に呼び出されて殴られた。

橋本を殴った不良は。学年一の美少女の瞳に気があったらしく、正義の鉄拳とばかりに張り切って「変態野郎!」とか「のぞき魔」とか罵声を浴びせつつタコ殴りにしてきた。

クラスの者たちも、それを機に積極的に攻撃してくるようになり、机に花は置かれるわ教科書は破かれるわ、男子にはいきなり小突かれ蹴られるようになり、女子には集団でズボンとパンツを脱がされる屈辱を味わわされるなど、正真正銘のいじめに遭うようになる。

それまで、和気あいあいとした居心地のいいクラスだったので、この豹変ぶりに橋本は愕然とした。

始めから一体感があって団結した雰囲気があったが、こういう場合はより団結するようだ。

橋本ののぞきは、クラスを超えて伝わっていたらしく休み時間に廊下に出ると、他のクラスの連中から「性犯罪者!」と罵声が飛んだり、モノが投げつけられたし、橋本をボコった不良も出くわすたびにパンチをくらわせて「テメー登校拒否するか自殺しろよ」とまで脅してきたから、クラス八分どころか学年八分になっていた。

担任に訴えても「お前が招いたことじゃないか」と言って聞いてくれやしない。

どころか、のぞきをやった一件について、高校受験で重要になる内申書に書かざるをえないことまで宣告してきた。

もう限界だ、そして終わりだ。

高校受験を控えた学年だったが、橋本は夏休みになるのを待たずに学校に行かなくなった。

二学期になっても三学期になっても行かなかった。

卒業式にも出なかった。

もちろん高校受験をすることはなく、橋本の両親は登校拒否した当初やそれからの数年は、死に物狂いで息子を社会復帰させようとしたが、とっくにあきらめたのか、何年も前から今後について何も言ってこなくなっている。

よって26歳の今になっても、ズルズルとニート生活を送ってきた。

いじめは、たしかにつらかった。

あれ以来、学校に行くのが怖くなってしまった。

でも、いじめを招いたのは、のぞきをやった自分であるのは間違いない。

思春期真っただ中だった瞳は一番恥ずかしい姿を見られて、深く傷ついたはずだ。

もう11年たったけど、現在の彼女はどう思っているんだろう?

願わくば、会って謝りたい。

そう思いつつも、例のごとく11年前の瞳の排便を脳内でリプレイしてのオナニーを自宅のトイレで済ませた橋本は、ため息をついた。

11年間考えてきたのは、そればかりである。

トイレから出てゲームでもしようと自分の部屋に戻る前、玄関からサンダルを履いて外に出て郵便受けをのぞいた。

両親は共働きで家にいないので日中は橋本一人なのだが、郵便受けから郵便物をとってくるのが、彼のこの家での唯一の仕事となっていたのである。

郵便物はほぼ父か母宛で、橋本宛のものはほとんど何か商品やサービスを宣伝するダイレクトメールだったのだが、この日は違った。

数枚あった郵便物中に往復はがきがあり、その文面を見て橋本はハッとなる。

それは「O市立北中学校三年七組平成24年度卒業生同窓会」のお知らせだったのだ。

忘れもしない一学期に満たない期間しかいなかったあの三年七組のことだ。

そこには季節のあいさつに続いて、会場の居酒屋の場所や受付・開宴時間などの案内があったのだが、その横の返事の送り先を見た橋本は、何年も感じたことのなかったうれしい驚きを感じざるを得なかった。

この十年以上の間、何度この三文字の人名が頭に浮かんだことだろう。

何度会って謝りたいと思ったことだろう。

でも許してくれなかったら、と思うとこちらから連絡をすることができなかった。

学校へ行かなくなってから同級生の誰とも連絡をとっていなかったから、瞳がその後どうなっているかは分からなかったが、こうして同窓会の連絡窓口になっているのだから、学校に復帰して無事卒業したようだ。

そして、同窓会に招いてくれている以上、自分のことを許してくれているのではないだろうか。

あの過ちは人生における一番大きな忘れ物だったが、その忘れ物が向こうから帰って来たような気分である。

今度こそ、あの時のことを正式に謝ろう。

そうすれば、このニート生活も終わりにして、やり直すことができそうな気がした。

同窓会の会場は市内だし、いつもヒマだから、何日の何時だって行ける。

こんなにうれしいことは、あの中学三年生の五月以来全くない。

もちろん参加するつもりだ。

橋本は、喜び勇んで出席の返事を書こうと往復はがきを裏返す。

そして返信面を見た結果、今の瞳が橋本のことをどう思っているかを大いに悟ることになる。

瞳は橋本を許していなかった。

「様」と「ご出席」の部分を塗りつぶし、「ご欠席」に〇が幾重も書かれている所に、女の恨みの深さを感じる。

同窓会のお知らせを出さないだけならともかく、わざわざ同窓会への出席を断固拒絶する意思表示を示してきたのだ。

橋本は完全に打ちのめされた。

それはもう何もする気は起きず、社会復帰どころか生きる気力すら失われたような気がしたほどだった。

ちょうど同じころ、同じく26歳になっていた瞳は、勤務先で仕事中にもかかわらず我ながら陰険極まりない往復はがきを憎っくき相手に出し、それを見たあの変態野郎がどんな顔をしているか想像しながら邪悪な笑みをこぼしていた。

下痢便しているところをのぞかれた屈辱は、あと三十年くらいたっても忘れられそうにない。

高校大学と順調に進学して卒業した後、IT企業に勤めているが、中学三年以来ずっと今のように仕事の最中であっても時々思い出してしまい気分が悪くなる。

橋本の野郎は、一年の時から自分をチラチラ見てきやがったキモい奴だ。

三年で同じクラスになってしまい、しかも隣の席にされてしまった。

恐る恐る話しかけてきたから、その勇気に免じて嫌々口をきいてやったのに、あんなことしやがって!

当時はシ、ョックのあまり学校に一時期行けなくなり、心配する同級生からの電話やメールに対して「橋本の顔は一生見たくない」と返答し続けていたら、クラスのみんなばかりか、不良グループまでもが一丸となって橋本を追い出してくれた。

学校に復帰できたのは彼らのおかげだ。

だが、あれによって自分の人生は狂わされたと思っている。

二度と和式トイレに入れなくなったし、橋本を恨み続けた結果なのか顔立ちも陰湿なものになってしまったらしい。

高校・大学でも中学校時代ほど、ちやほやされなくなった。

就職活動でも悪い印象を持たれたようで、希望していた仕事に就けず、ようやく入れたのは今働いているブラック企業。

パワハラと激務のストレスで甘いものを爆食したおかげで体重は70㎏に迫る勢いだし、彼氏もできやしない。

全部橋本のせいだ。

今回中学の同窓会の連絡係になったことを機に、何年も温めていた嫌がらせをしてやったが、こんなもんじゃ済まさない。

そう思っていた最中、さらに陰険で破滅的な第二段の報復が頭に浮かんだ瞳は、26歳という年齢にしては老けて丸くなった顔を醜くゆがませてニヤリと笑った。

今度こそとどめを刺してやる!

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