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同級生の顔面を硫酸で溶かした思春期の狂気 ~古き悪しき昭和の事件~

本記事に登場する氏名は、全て仮名です。

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昭和36年(1961年)9月14日、静岡県三島市で中学三年生の高野薫子さん(仮名、14歳)が顔面に茶碗一杯分の希硫酸をかけられて重傷を負うという恐ろしい事件が起きた。

犯人は同じ中学に通う同級生の安田真緒(仮名、14歳)。

60年前の教育関係者にも衝撃を与えたというこの事件、いったい二人の女子中学生の間に何があったのだろうか?

加害者と被害者

この鬼の所業をしでかした安田だが、事件後に行われた学校側の説明によると、決して粗暴で悪辣な生徒ではなかった。

素行に問題はないどころか、学業成績もクラスでトップクラス。

家庭環境は極めて良好で、祖父は市議会議員を務めたこともあり、両親とも教育者という非の打ちどころもないものだったのだ。

一方の被害者である高野さんも学業成績は優秀、安田とは一、二を争うほどの優等生。

それだけではない。

彼女は、性格も活発で男女問わず他人を引き付ける魅力を有し、クラス内でもよく目立つセンター的存在という一面を持っていた。

かなりの怨みがなければ到底犯すことのできないような犯行であったが、同じく学校側によると、この安田と高野さんは犬猿の仲ではなかった。

むしろ二人は普段から非常に仲が良く、同じ部に所属して部長と副部長をそれぞれ務めており、事件当日も一緒に下校している。

つまり親友同士だったのだ。

そんな優等生の二人の関係は、一見するとお互いを認め合うさわやかで、模範的なものに見える。

しかしその後の三島署の調べで、安田は高野さんに対して密かに、一方的で敵対的なライバル心を胸に持ち続けていたことを供述した。

表向きは友達としての付き合いを続けていたが、以前から自分にはない人を引き付けるという高野さんの長所を妬ましく思っていたようなのだ。

そんな表面上と相反する感情を抱きつつ平穏に保たれていた安田の心の均衡は、やがて崩れることになる。

それは、ほんの些細なことだった。

安田の凶行

ある時期から、高野さんの身長が安田を抜いた。

両人とも成長期真っ只中の中学生だったが、拮抗して伸びるとは限らない。

安田を取り残して、高野さんの方がぐんぐん伸びたのだ。

これは安田にとっては大問題だった。

容姿で差を広げられたとでも考えたようである。

おまけに伝え聞いたところでは、高野さんに対抗可能だった学業成績でも自分の上を行ったらしいというではないか。

これらの事実は取るに足らないことだと成人の視点では考えるだろうが、多感で複雑な思春期の子供にとっては衝撃的なことであったであろう。

とは言え、思春期だったとしても、自身で自重して受け入れるべきことであったはずだ。

しかし、安田という狂った少女は違った。

彼女は自意識過剰な思春期の子供の中でもより危険な部類に属していたのである。

偏執的で異常なほど嫉妬深く、劣等感を怨念と同期して一方的に増大させ、勝手に精神を自壊させてしまったのだ。

普段おとなしいぶん発散できないため、余計タチが悪い。

やがて安田の心の中で高野さんは許容可能な敵対的ライバルから一気に許しがたい仇敵に変わり、惨劇へと突っ走ることになる。

事件が起こるその日、安田は高野さんと放課後に、文化祭の後片付けをした。

片付けが終わると、二人で一緒に下校。

これはいつものことだったが、それからが違った。

自宅に帰った後、再び外出して高野さん宅に向かい、その途中の薬局で希硫酸を購入する。

午後8時に高野さん宅を訪れて、何気なさを装って高野さんを外へ呼び出した。

そして、何の疑いもなく外に出て一緒に近所を歩き始めた彼女の顔に、隠し持っていた硫酸を浴びせた(玄関で浴びせたという報道もある)。

硫酸をまともに顔に浴びた高野さんは、半狂乱になった家族の者によって外科病院に運び込まれたが、全治三か月の重傷。

しかも、両眼失明という重大な障害を負わされてしまった。

「思春期の過ち」などとお茶を濁すわけにはいかない、何ら情状酌量の余地のない身勝手で許しがたい凶行である。

高野さんは14歳という若さで、視覚ばかりか、女性にとって命より大事な顔を台無しにされたのだから殺人より悪質であろう。

だが、その後の報道を見る限り安田への法的裁きは家裁送致止まりであり、この事件が報道された約一か月後の時点で逮捕もされず、自宅で謹慎していたというから驚きである。

日本はこの時代から被害者を放置して未成年の犯罪者を守る国だったのだ。

この事件は60年以上も過去のものであるから、高野さんと安田がその後どのような人生を送ったかは知るすべがない。

だが、同じ目に遭わせるのは無理にしても、せめて安田本人にも一生極貧を余儀なくされるほどの賠償金を課すくらいの報いは受けさせるべきだったと思うのは、筆者だけではないはずだ。

無神経な当時の新聞報道

どうしても言いたいことが最後にある。

本稿は当時の新聞をもとにして作成したが、その紙面から感じたことだ。

それは、被害者への配慮のなさだ。

現代の基準に照らせば、この時代は良く言えばおおらか、悪く言えば無神経極まりなかったと言わざるを得ない。

被害者の高野さんは保護者の氏名と住所つきで実名報道されている一方、加害者の安田はA子と仮名が付されている点は現代でも同じだが、掲載された学校関係者や有識者による思慮の欠如した意見やコメントは非難に値する。

二人の通っていた中学校の校長は、

深く責任を感じている。A子の転校の方法などを考え将来しこりが残らないよう解決策を考えたい」と、寝ぼけたことをほざいていた。

また、社会心理学が専門の某大学教授などは、

加害者が異常心理状態で立ったことはたしかだろう。加害者と被害者との仲は純粋に競争相手としてのものか、同性愛的な要素もあったのかどうか。また加害者は、親の愛情に恵まれていたかどうかも犯行動機をとくカギとなろう。…」とのたまっていた。

ワザと言っているのか、それともバカなんだろうか。

「…将来しこりが残らないよう解決策を考えたい」だと?

残るに決まっているだろう!

目をつぶされて人前に出れない顔にされて、それでもなかったことにできる者が、この世にいると思うか!

「…同性愛的な要素もあったのかどうか」って?

変態野郎!!

大学で何を研究してるんだ?お前の妄想を新聞でほざいて、何の役に立つんだ!!

被害者感情を逆なでするもの以外の何者でもないのではないか!?

「そういう時代だったから」と受け入れる気はない。

私が高野さんかその身内だったら、安田の次に許せなかったであろう。

参考文献―読売新聞、朝日新聞

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我が中二病 ~人類防衛の大義に燃えた思春期~

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中二病なる言葉がある。

なんでも、「思春期に特徴的な空想や価値観、過剰な自意識やそれに基づく言動を揶揄する俗語」であるらしい。

それが大体中学校の二年生くらいで発症することが多いから、こう呼ばれているようだ。

そういえば私が中学生の頃も、グレ出す奴は、大体二年生からだった気がする。

反抗期もこれくらいの時期から本格化するみたいだし。

また、この年代はかなり多感な時期らしいから、自我が目覚めて荒れ狂うあまり、かなり恥ずかしい言動をしてしまいがちなようだ。

そして、身内以外の他者の影響も受けやすい。

私もそういえばその時期、その中二病に近い症状を患った記憶がある。

ただし、私は問題行動を起こさなかったし、校則はきっちり守る真面目な生徒だった。

先生や親に怒られるのが怖かったし、第一そんなことしたら他の生徒にシメられるのは当時からわかりきっていたからな。

私の場合はそういった人様の鼻につく症状ではなく、主に精神面及び思想面で発症したのだ。

もっとも、その影響は言動にきっちり表れていたから、中二病マンマであったが。

私の発症した中二病とは何か?

それは、異星人の地球侵略を本気で心配していたことだ。

思春期にありがちな異性への関心や将来への不安そっちのけで、私の中学校生活の後半は、異星人の侵略におびえる毎日だった。

きっかけは、金曜ロードショーで放映されたアメリカの異星人侵略モノのテレビドラマV』を見たこと、そして愛読していた漫画『ドラゴンボール』に戦闘民族サイヤ人が登場してきたことだったと思う。

元々心霊やUFOなど超常現象に興味があり、薄々異星人への脅威は感じていた。

だがその脅威は、それらの作品との出会いが思春期に達した当時の私の精神状態と不適切に相互作用して、多感な頭の中で爆発的に増大したのだ。

とどめは、日本テレビで放送された『矢追純一UFO現地取材シリーズ』

まだ1980年代後半で、当時騒がれていたノストラダムスの大予言「1999年の7の月、人類は滅ぶ」とは、異星人の侵略だろうと確信した。

私はその圧倒的な脅威におびえるあまり、熱心に家庭や学校でその危険性を説き、身近な人々をまず啓蒙しようと努めた。

だが、無理解な両親は「もうすぐ受験だろ」と突き放し、学校ではいつもつるんでいた友達に距離を置かれ、「面白い奴がいる」と私を迫害する同級生が増加しただけだった。

誰も理解を示してくれなかったが、私は三年生になると心機一転して、自分ひとりだけでも異星人に立ち向かおうと決意、独自に戦闘訓練を開始した。

まず、攻めてくる異星人は『矢追純一UFO現地取材シリーズ』で主に取り上げられているリトル・グレイという種族だと断定。

そのリトル・グレイと戦うためにまずは格闘術の訓練として、二歳年下で中学校一年生の弟を異星人に見立て、組手の相手とした。

なぜ中学一年生の弟だったかというと、そのリトル・グレイという種族は身長140センチくらいで、当時の弟の身長とほぼ同じであり、まさに練習相手としてうってつけと考えたからだ。

私は「異星人の侵略に対する抵抗のため」という大義を弟に説き、練習相手となるよう命じたが、当時から兄である私を小バカにしていた弟は断固拒否。

それを自分さえよければいいという勝手な考えとみなした私が、組手訓練を強行すると弟は激しく抵抗し、二階の子供部屋で大乱闘に発展した。

弟も本気になってくれたので有意義な訓練になったが、一階で仕事をしていた父親が上がってきて「うるさい」と怒鳴られ、「お前が悪い」と私だけがシメられた。

こうして格闘術の訓練はできなくなったが、やはり異星人との戦いのキモとなるのは対空戦闘であろう。

異星人と言えば円盤、きっと主に円盤に乗って攻撃してくるはずだ。

そこで私は、対空戦闘の訓練に専心することにした。

本物の銃は将来的に狩猟免許を取得してから購入するとして、私はまず、保有していたエアーガンでの射撃訓練を開始する。

標的は、家の畑に飛んでくる蝶。

円盤のように不規則な動きをするため、ふさわしい標的だろう。

私は来るべき地球防衛の戦闘に備え、自宅の前の畑にやって来た蝶を片っ端から銃撃した。

しかし、蝶を狙ったBB弾は時々近所の家に飛び込んで、そこの住民に命中。

「お宅の長男に狙撃されてる」と、その住民から苦情を受けた両親にまたしてもシメられ、エアーガンを取り上げられてしまった。

自宅での自主戦闘訓練を封じられた私だが、やはり独自にやるのではなく、ある程度専門的な機関に所属する必要を感じるようになった。

すなわち自衛隊だ。

ちょうど中学三年生で将来の進路をある程度目星をつけるべき時期に差し掛かっていた私は、とりあえず中学卒業後は一旦普通科高校に行くこととして、高校卒業後には自衛隊に入隊することを学校での三者面談で宣言。

志望動機を聞かれたが、理由はもちろん「異星人と戦うため」だ。

「自分の将来なんだから真面目に考えろ」と両親も担任教師も激怒したが、

人類防衛の大義に燃える私の信念はいささかも揺るがなかった。

将来自衛隊に入隊することを決めていた私だったが、一方で今のままの自衛隊では、異星人にまともに立ち向かえないとも感じていた。

円盤を真っ先に迎撃するのは戦闘機だが、その自衛隊の戦闘機F-15Jは、やすやすマッハ10を超す速度で飛ぶ円盤の敵ではない。

海上自衛隊や陸上自衛隊はモノの役には立たないであろう。

ムダ死には御免だ。

だいたい憲法で縛られた自衛隊では、ソ連軍(当時はまだ健在)や中国軍相手でも持たない。

そこで私は他力本願とはいえ、地球上で最強最大の軍事力を誇る米軍に思いをはせるようになった。

だいたい、映画でも異星人の侵略など地球規模の未曽有の脅威に真っ先に立ち向かうのは米軍と相場が決まっている。また、現実にも、そうなるであろう。

矢追純一のUFO特番でもやっていたが、米国は異星人と密約を結ぶ一方で、万が一の対決に備えて円盤を宇宙空間で迎撃するための『スターウォーズ計画』を策定するなど、日本政府が及びもつかないようなことをやってのける国なのだ。

米国なら、何か考えてくれているに違いない。

そしてその頃、ずっとベールに包まれていた米国の最新兵器がプレスリリースされた。

ステルス戦闘機F-117ナイトホークである。

それは後に、実は攻撃機であったことがわかるのだが、私はその従来の軍用機とは一線を画するF-117の未来的な形状を一目見て、対異星人戦用の兵器だと確信した。

これの主武器はきっとレーザーガンで、宇宙空間だって飛べるはず。

速度マッハ5くらい出してもおかしくはなさそうだし、最低でも空中静止は堅いと

だが私の期待むなしく、F-117はレーザーガンどころか爆弾しか積んでおらず、宇宙空間は飛べないし空中静止もムリ、速度だってマッハ1すら出せやしない。

円盤との空中戦どころか、既存の戦闘機とドッグファイトしたら返り討ちに遭ってしまうことが分かった。

取り柄はレーダーに映らないことで、それは爆撃される側にとって相当ヤバいことなのだが、その時には、そんなことに思いもよらず大いに失望した。

画期的な兵器であることは私が高校一年生の時に起こった湾岸戦争で証明されたが、迎撃を受けることなく爆弾を落とすだけでは、異星人の相手になりそうもない。

人類は終わりだ、と絶望した。

そんな私だったが歳を重ねていくうちに、私の中で中二病たる異星人への恐怖は徐々に消え、地球防衛の大義のために自衛隊へ入隊するという情熱もどこかへ失せていった。

同時に、あの時の自分は何と無意味で恥ずかしいことに時間と労力を費やしてしていたのか、という常識的な反省ができるようには一応なれた。

だが成人して、久しい現在でもその後遺症は残っているようである。

画期的な新兵器が開発されて出現するたびに、それは地球上の軍隊や武装勢力ではなく、異星人相手にどこまで通用するかということを、この年齢になってもついつい考えるからだ。

軍事技術に限っては、私の目線は地球上だけではなく、地球外にも向いてしまっている。

私の中二病は、まだ完治していないということだ。

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2020年 おもしろ 悲劇 本当のこと 無念

自分の名前と戦う子供たち

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心愛(ここあ)、空流(くうる)、姫星(きてぃ)、本気(まじ)などなど。

おそらく平成を迎えた頃からだと思うが、自分の子供に日本人らしくないばかりか常識から外れた名前、いわゆるキラキラネームを付ける親が目立ってきた。

私の職場の同僚であるO川秀定もその一人で、来月生まれる予定の息子には「都夢」と名付けるつもりだと嬉々として宣言してしまっている。

A川も含めて、こういう親たちは自分の子供がどんなふうに育つように願っているのだろうか?

そんな名前を付けられるなんて、実に不憫な子だと切実に思う。

私はそんな変わった名前を付けられて成長した人間をリアルに知っているからだ。

1975年(昭和50年代)生まれの私の世代にも、現在ほど多くはないが珍妙な名前を背負わされた者がいた。

彼らはその時代において圧倒的少数派、いや異端派ですらある名前ゆえに、いやが応にも目立ち、いわれなき不愉快を感じていたのだ。

高校時代の同級生

高校に入学した時、同じクラスになった同級生は、名前が林五だった。

B原リンゴである。

漢字も読みも正統派の名前が99%超だった昭和49年や50年生まれの同級生の中で、さすがにリンゴという名前の響きは目立つ。

そして、

本人は相当気にしていた。

今でも覚えているが、クラスで最初のホームルームで自己紹介をやった時、林五は「○○中学出身のH原です」と下の名前を名乗らなかった。

なのに、空気の読めない担任は「下の名前は?これ何て読むの?リンゴ?」と心無い問いを発したため、林五は「…リンゴですよ!」と、憮然として答えたものだ。

さらにその後、より心無いクラスメイトたちが大爆笑したため、林五は正にリンゴみたく怒りで顔を赤くして「笑ってんじゃねえ!」と大声を出した。

どうやら両親が『ビートルズ』のリンゴ・スターの大ファンで、身内の反対を押し切って名付けたらしい。

リンゴという名前を付けるなら付けるで、「凛悟」とか「麟吾」とか、画数が多くてそれなりに教養を感じさせる秀麗な漢字でカバーすべきなのに、安易に「林五」である。

これじゃあ小作人の五男みたいじゃないか。

響きだけを優先させたのは見え見えで、他人事ながら教養の程度が分かり易い実に愚かな親である。

ちなみに林五には妹がいて、こちらはB原恵美となぜか正統派の日本人名、兄との落差が際立っている。

林五は大柄で恵まれた体格の持ち主のうえに性格が荒く(ラグビー部に所属していた)、同じ中学出身者によると、小学校の頃から自分の名前をちょっとでもからかう人間は問答無用で制圧してきたらしい。

そして両親をかなり憎悪しており、「親を殺しちゃいけない理由がわからねえ」が口癖。

そんな危険人物は「林五」と呼ばれると瞬時に顔色を変えるため、1年の時、彼を下の名前で呼ぶどころか「リンゴ」という単語自体が禁句となってしまった。

私など「アップル」と言っただけで、林五に胸倉をつかまれたことがある。

浅はかな命名をしたばっかりに息子の根性をひねくれさせ、他人に脅威を与える人間にして社会に放った林五の両親の罪は重い。

中学時代の同級生

林五は性格こそ歪んでいたが、周囲の偏見を沈黙させる能力を有していたからまだましだったかもしれないが。

私が入学した高校には同じ学年にもう一人変わった名前の持ち主がおり、こちらは女子生徒だ。

その名はC西エレナ

漢字ですらない、ダイレクトにカタカナの横文字ネームである。

エレナの存在は、入学当初から主に男子生徒の間で話題になっていた。

ハーフか?それとも外人さん?

気にならずにはいられない名前ではないか!

入学後ほどなくして、エレナが在籍するクラスには、彼女の顔を一目見ようと他のクラスばかりか上級生の男子が殺到したらしい。

私のいたクラスの生徒たちも例外ではなく、はるか遠くの教室まで、勝手に幻想を抱きながら「エレナ詣で」に出かけて行った。

だが、彼らはがっかりしながら戻ってきた。

実物はあまりにも名前との乖離が激しかったからだ。

実際のエレナ本人はスタイルも顔も典型的な日本人、チンチクリンでずんぐりむっくり体型をした大福顔で、ハーフどころか帰国子女でもない。

戦前の農村あたりによくいたタイプの佇まいで、スカートよりモンペが似合いそうなくらい地味な女の子だった。

名前も「和子」とか「敏子」どころか、「お七」や「お駒」あたりが妥当ですらある。

その容貌に対してエレナという名前は、遺伝子学的に著しく不適切だった。
彼女の両親は「エレナ」という洋風の名前を付けさえすれば、成長の過程で突然変異が起こるとでも思ったんだろうか?

その暴挙に対して、責任を追及したい気分だった。

本人の責任では決してないが、それが当時、エレナを初めて見た時の私の偽らざる印象である。

その後、3年生になって、私はエレナと同じクラスになった。

直接話したことはあまりなかったが、ある時期の席替えでエレナの席が私の前になったことがあり、休み時間になると時々エレナの友達たちがおしゃべりをしに来るようになった。

その会話から、エレナは仲間内で「レナ」と呼ばれていることを知った。

また、名前には似合わないが容貌にふさわしく古典が得意で英語を苦手としており、信仰する宗教は仏教の臨済宗妙心寺派、好物はあんころ餅と草餅だとのこと。

趣味嗜好は典型的どころか、鎖国していた江戸時代の町人の娘レベルの日本人ぶりだ。

ある日のおしゃべりで、友達の一人がエレナの名前のことを口にしたのが耳に入った。

「レナの名前ってさ、すごくきれいだよね」

「やめてよ~、全然気に入ってないんだから」

「外人さんみたいでいいじゃん」

その顔のどこがエレナだ、とかしょっちゅう言われるんだよ?私のせいじゃないのに!」

やはりエレナも自分の名前を気にしていた。

その後の会話で、どうやら母親の方が独断で命名したらしいことが分かった。

何でも、昔からあこがれていた外国人スーパーモデルの名前が「エレナ・何とかコフ」で、それが由来だという。

タチの悪い母親だ。

「そんなんで自分の娘の名前決めるなっての!自分と、自分の旦那の顔見りゃどうなるか想像つくだろうが!まともな名前つけろよ、ウチのバカ親!!」

エレナもしゃべっているうちに興奮してきたらしく、毒説を吐きまくっていた。

その後、エレナの愚母をこの目で拝む機会が訪れた。

進路指導のための三者面談で私と母親が面談を待っていた時、私たちの次の順番がエレナ母娘だったため、廊下で一緒に待つことになったのだ。

エレナ母は、娘をそのままエイジング処理したらこうなる、というぐらいそっくりで、ずんぐりしたドングリ体型なんぞ同じ型でハメたように一致する。

遺伝形質に対して挑戦的な命名を娘に強行した張本人は教育熱心でもあり、待っている最中、進路に関して学業成績の悪いエレナに、あれこれ小言を言っているのが聞こえた。

そんな母親に対し、エレナは「もう分かってるっての!」「しつこいよ、ホント!」と終始いらだち反抗的に応答していた。

思春期という事情もあるだろうが、親子仲が良好ではなさそうだった。

そんなこんなで高校を卒業したが、その後、林五にもエレナにも会ってないから彼らがどういう人生を歩んだかは分からない。

その名前について、今はどう思っているかも知らない。

変な名前やキラキラネームを付けられた子供全てがそうなるとは限らないだろうが、思春期の彼らを見た限りでは自分の名前を気に入っていた様子はなく、そのおかげで大きな悩みを抱えていた。

そういった悩みは一過性のもので、成長の糧になることもあるんだろうか?

だが、一生のうち必ず味わわなければならない悩みでもないだろう。

できることならば、そんな無用な苦しみは味わわせるべきではないはずだ。

親の願望を子供の名前に託すのはいいが、思わずからかいたくなる名前になっていないかよく考えよう。

だから、A川秀定くんよ。

今度生まれる子供に「都夢」って名前つけるのやめた方がいいぞ。

君にも林五やエレナの話をしただろう?

戦国大名みたいな自分の名前が悩みだったからって、トムって名前つけられた息子はそれとは別種で、より深刻な悩みを持つかもしれないんだからな。

え?「都夢」はトムじゃなくて、ドムって読むのか。

いや、そりゃあ目立つだろうけど、人気者とは限らんよ。

それに自分の願いは、林五やエレナの親ほどチャラくないだって?

じゃあ、どうチャラくないってんだ?

何々?ほうほう。

なるほど、

『機動戦士ガンダム』のジオン軍のモビルスーツである『ドム』のような強い男になって欲しいという願いを込めてこの名前に…。
よけいタチ悪りィわ!!

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