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映画版 ビー・バップ・ハイスクール(BE-BOP-HIGHSCHOOL)をご存じだろうか?
リアルタイムで記憶にある方の大多数は、おそらく40歳を超えているはずだ。
同作品は、1983年から2003年まで講談社のヤングマガジンで連載されていた人気漫画『ビー・バップ・ハイスクール』を原作とした日本映画である。
仲村トオル、清水宏次朗、中山美穂らが主演した1985年(昭和60年)の第1作目は、14億円を超える配給収入を記録したヒット作となり、1988年までに計6作が製作された。
不良映画の金字塔的作品であり、この当時の中高生、特に劇中の登場人物たちと同じ層の者たちに大いに支持された。
この映画の魅力の一つは、走る電車からの鉄橋ダイブシーンなど、現在なら考えられないような危険なアクションだ。
一歩間違えば死んでもおかしくないシーンが目白押しで、主演の仲村トオルはじめ出演者たちはケガが絶えず、命の危険にもさらされたという。
そしてもう一つの魅力は、主役である仲村トオルや清水宏次朗以外のキャストたちだ。
敵役はもちろん、脇役やエキストラに近いチョイ役まで、不良を演じているキャストたちはいずれも異様に迫力があった。
それもそのはず。
彼らの多くは、本物かつ現役の不良少年たちだったからだ。
この映画では出演者を一般公募、そのオーディションには、役者だけではなく現役のヤンキーや暴走族が多く集まり、主要な役をキャスティングされていた。
そんなキャストたちだったからこそ、撮影現場でガンを飛ばし合ったり、ロケ地で地元の不良とモメてさらわれたりなど、ありえないハプニングが続出したという。
当時人気絶頂だったヒロイン役の中山美穂などは、演技とはいえ、これら本物たちの迫力におびえるあまり、二作目出演後に降板してしまった。
だが、いざ撮影となれば凄んだり、睨み合ったりするシーンでの演技指導は必要ない。
存在しているだけで役者では絶対に出せない凄味があって、荒唐無稽なシーンも多かった同作品に、不良映画としてのリアリティーを、問答無用で備えさせることができた。
私が同作品を初めて観たのは、6作目がレンタルビデオ化されたばかりの頃だったが、こういった不良たちにカツアゲされた経験もあったため、画面越しでも震え上がったものだ。
そんな迫力満点のキャストたちの中でもひときわ異彩を放ち、伝説となった男がいた。
1986年、シリーズ2作目の『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌』で「城東工業高校のテル」こと藤本輝男を演じた白井光浩だ。
白井演ずる映画版のテルの貫禄は、原作を上回っていた。
ご覧の通りとても高校生には見えない本職級の悪人相だったが、白井は出演当時正真正銘の18歳だったらしいから驚きだ。
劇中でのテルは容貌そのままの凶悪な高校生で、得意技は不意打ちと集団リンチ。
数を恃んで他校の不良を襲って変形学生ズボンを奪う「ボンタン狩り」を行い、仲間と共に主人公のトオル(仲村トオル)を拉致して、口に折った鉛筆を入れて殴りつけるリンチを行うなどの悪行三昧。
そのインパクトは絶大で、上述の「ボンタン狩り」や、見掛け倒しで根性がない者を意味する「シャバ憎」「シャバい」などの用語を世に広く知らしめ、
「城東は~、数が多いだけの~、チンピラの~集まりだってぇ~、ほざいたなぁ~!!」
「そのツラに穴あけてぇ~、二度とデケー口きけねーようにしてやろうかぁ~、あ~~~~!!?」
などなど、テルのセリフや立ち振る舞いを、当時のヤンキー少年ばかりか真面目な中高生たちまでもが、こぞって真似するようになった。
三十年以上経過した現在でも、当時少年時代を送った人の中で覚えている方は、決して少なくはないのではないだろうか?
そんな伝説的なキャラであるテルを見事に演じた白井光浩だが、惜しくもこの作品に出演してから俳優活動を行うことなく、一般人として自営業に従事。
「城東工業のテル」の鮮烈な印象だけが、当時中高生だった人々に記憶され続けた。
だが2012年、白井光浩は突然表舞台に現れて、役者活動を再開する。
『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌』から26年。
すっかり四十路を過ぎた白井も、それなりに人生の年輪を刻んだ味のある中年の男に変貌していた。
そして映画やVシネマに出演する一方で、落語家としても精力的に活動し始める。
同時に、映画『ビー・バップ・ハイスクール』のオールドファンたちのイベントにも顔を出し、2019年にはYouTuberとして『テルチャンネル』を開設。
『ビー・バップ・ハイスクール』のロケ地を訪ね歩いたり、当時の出演者を招いて対談し、撮影の裏話を披露するなど、往年のファンを歓喜させている。
あのキレッキレの極悪ぶりをスクリーンの中で見せていたテルは、もうすっかり丸くなったお茶目なおじさんで、料理に舌鼓を打ったり、喉を鳴らして酒をうまそうに飲んだりオッサン全開だ。
一見すると中年男のどうでもいい動画ではあるが、当時の映画で見せた危険なテルを覚えており、別の場所とはいえ、同じ時代を送った者の一人としては、そんなオッサンぶりがほほえましく思えてしまう。
そして『テルチャンネル』を観た後で、再び映画『ビー・バップ・ハイスクール』を観れば、また違った味わいを楽しむこともできるのだ。
今後のテルのますますの発展と活躍を、私は陰ながら応援したい。
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